結局寝てないせいで頭が痛い5
声の主は忘れようもない、数日前にイストサインの騎兵支部と街並みを滅茶滅茶にした女だ。
私は咄嗟に原石銃を引き抜き、声の方向へと照準を合わせようとする。
(……糸)
だが、腕を持ち上げようとする腕を、細い白輝鉄の糸が阻害している。そのまま糸に力が加わる。腕を締め上げ、そのまま私の身体を持ち上げようとする勢いだ。
(邪魔……)
原石銃に断ち切るよう命令を下すと、銃から放たれた私の糸が腕を締める糸を切断する。
「降りてきなさいよ、あと財布返して」
ここまでくれば察しもつく、財布を盗んだのはオリンピアで、目の前の女は奴の差し金だろう。
正直、声だけ聞かせて彼女は現れないと思っていた。
「……よっと」
そんな私の想像を裏切り、彼女は自分の原石武器を担ぎ、通りを見下す民家の窓から降り立った。
「……!」
隣のエドガーが音響弾を握る素振りを見せた。
「待って」
そんな彼に銃を使うのは止めるよう促す。
原石武器に侵食された人間の糸の扱いは、一般人を大きく超える。
先ほどの攻防も、相手が私でなければ腕を切断されていただろう。
「やあ、相変わらず仲がいいね君ら」
「……アンタ、まだこの街にいたんだ」
とっくに本拠地であるマルスサインへ帰ったものと思っていた。
「帰れるもんなら帰ってるっての」
吐き捨てるように言う。
そんな彼女は以前出会った時よりは身なりが乱れている。服は変えていない様子で、短い金髪は煤か何かで汚れていた。
「グレイマンのヤツが目を光らせてたもんでね、今日アイツいないの?イストサインが妙に手薄だよ?」
「……内緒よ」
「あとファルナレギア、お外大好き人間のアイツが家から出ないって何事?」
「…………」
不用意に何かを言えば言うほど情報を渡してしまいそうだ。
「ねえオリンピア、私はもう帰っていいかい?」
話が拗れ、長くなる気配を悟ったのか1000ロット貰いそびれている女が割り込んでくる。
「ああ、いいよ、お役目ありがと」
そう言うとオリンピアは懐からの財布を取り出した。
(やっぱりコイツが犯人じゃん)
奴の手元にあるのは紛れもなく私とエドガーの財布だった。
そこから蒼鉄製の1000ロット硬貨を2枚、女に向けて投げ渡した。
「ん、じゃあねオリンピア」
そのまま女は去ろうとしたが、通りから出る瞬間振り返った。
「ねえ灰色のアンタ、この辺り騒がしてた殺人鬼、アンタが倒したんだって?」
どうやら私に話しかけているようだった。
「ありがとね、感謝してるよ」
返事も反応も返す暇なく、彼女は表通りへと出て行った。




