寝れと思うほど寝れない、こういう日はもう起きてしまおう:2
退屈な夜に話し相手を見つけたので、私は揚々と窓からの階下へ降りた。窓の桟と植木に原石糸を絡み付け接地の衝撃を和らげる。
少なくともどすんと辺りに響くような着地ではない。
「素振り?」
「そうよ、眠れなくてね」
「じゃあ私と同じね」
お互いに眠れない夜を過ごしていたらしい。
「いやー、今日はみっともないとこ見せちゃったわね。敵相手にお昼寝かますなんて」
「みっともないどころか足引っ張られたわよ」
剣で斬りかかられたしストーキングもされていた。
「ご……ごめんね、反省してるから」
苦笑し、その後少々気まずげに素振りを再開し始めた。
「毎晩やってるの?」
「もちろん、今日は多めだけど」
断続的に、速度を少しずつ上げつつファルナは原石剣を振る。息を切らす様子は全くない。
「そうだ、レガリアのお守り何描いてた?」
しばらく無言で彼女を眺めているとファルナの方から話題を切り出した。
お守りというと先週の市場で買った土産の事だろう。
「オリンピアに壊されちゃったのよね……」
一応持ってはいた。
こんな時でもホルスターに入れて身につけたアガサのグリップ、今はそこに巻きつけるように例のお守りを持っていた。
「はいこれ、砕けた時計塔」
自然になら数ヶ月かけて剥がれる細工だが、壊れてしまっては仕方ない。
「ひゃー縁起でもない、近々壊れるんじゃないのあの場所?」
時計塔を指差し言う。
「……支部の事だったんじゃないの?ファルナは?」
不吉な言葉は聞かなかった事にして、話題を彼女へ逸らした。
「私?」
ファルナはほんの少し思案した。
「ちょっと待って」
そう言うと素振りをやめて駆け足で屋敷へ戻り、秒もしないうち手にお守りを持ってきた。
そしてその場に1ロット硬貨を持って表面を削っていった。
(結構こういうの大事にするタイプなんだ)
少なくともエドガーは次の日に削っていた。
「はい!これ!」
「ん、へー、女王様じゃない」
お守りの小さな額縁には現イグドラ王、イシュヴァルカのご尊顔が描かれていた。
純白に髪と白輝鉄で編まれた豪華なティアラ。着彩されていない白黒の絵だが、肖像画でみる彼女を思い起こさせるにはちょうど良い絵である。
「……ふふ」
「ん?」
二人して彼女の顔を見ているとファルナが突然笑いだした。
「ねえレガリア、マルスサインには来たことある?」
マルスサインとはイグドラの中心王都たるマルスサインの事である。
「そりゃあるわよ、私騎兵よ?」
「何回くらい?」
「……6回くらい」
「ねえ、マルスサイン来ることがあれば一緒に街に行きましょ」
確定事項のように話している。王都なんて用がなければ行かないのに。
「エドガーも誘いたいねー、今マルスサインで面白い事してるんだ。世界中の工芸品を集めた展示会がねー」
まあ、先の楽しみが増えるのはいい事だ。
「りょうかい、マルスサインの観光。約束ね」
「うん!案内するから」
最近無かった、楽しい予定作り。
少なくとも約束を果たすまでは仕事を頑張れそうだった。




