ピリピリしている上司二名の間ほど居合わせたくない場所はない:1
「おかえりグレイマン」
「……お疲れ様です」
「ああ、ただいま」
メイドに車椅子を持ってもらいながら、グレイマンが屋敷に入った。
「ファルナ、身体は何とも無いのか?」
「ぜんぜん平気、寝過ぎて頭痛いくらいよ」
その後ろから死体袋を担いだ隊長が続いてやって来る。袋の中身は嫌でも察しがついた。
「お疲れ様です隊長」
「お疲れレガリア、今日はご苦労だったな」
屋敷の奥から使用人が数人やって来た。
「君たち、その死体は私の部屋へ」
そのままレベリオの死体を隊長から受け取り、台車へ乗せて奥へと引っ込んでいった。
「あのレベリオってヤツ、本当に死んだんですか?」
釈然としない疑問をそのまま口に出した。
「いいや、彼は死んでいない」
返答するのはグレイマン。
「やっと話す気になりましたか?あの男について」
若干の苛立ちを含んだ声音。この様子だと隊長はかなりグレイマンに聞き込んだようだ。
「ファルナ、私はしばらくイストサインを離れる」
「ふえ?いきなりじゃない」
隊長をぶったぎり、グレイマンはファルナに話しかける。
「今日、レガリアが倒したあの男の件でな」
レベリオの事だ。
「戦時中から女王が追っていた者だ。報告のためにマルスサインへ向かわねばならん」
戦時中、その言葉に記憶が蘇った。
グレイマンらしき男に炉の中へと放り込まれた人の姿。
「留守を任せたぞ。当面の危機は去ったと思うが……ロスの事もある。レベリオの身体の件は特に重要だと思ってくれ」
あの情景にはどんな背景があったのだろう。
「レガリア、よくやってくれた」
「……はい?」
唐突に名前を呼ばれ面食らう。
「追って褒章が出る。それでは」
言い終わるなりグレイマンは車椅子の車輪を回し──
「お待ちいただきたい」
そのまま隊長に止められる。
「今回の件、イストサインの市民にも多く被害が出ています。ちゃんと騎士からも──」
「騎兵については王都から戻り次第話す。今回の件には機密が関わっているのでね」
グレイマンは止まらない、そのまま隊長の手を振り払い屋敷から出ていった。
「急ぎ過ぎでしょ」
若干呆れ気味にファルナが呟いた。それに関しては同感だった。




