なんだか嫌な気分です。体は動いてないのに心臓が激しく鼓動して、寒くもないのに汗かいて:5
窓の外は真っ暗だ、長い間眠りこけていたらしい。
「ところで何があったの?レベリオの部屋入ってから記憶がないんだけど」
のんきに喋る彼女に少し苛立ちながら屋敷まで運んだ経緯を伝える。
「……ふーん、じゃあレベリオはレガリアが倒しちゃったんだ」
若干悔し気にファルナが言う。
「倒した……ね、あいつがこれからどうなるのかはわかんないけど」
「そのうち中央の騎士が処刑するわ、あいつが件のリーパーで、その上メトラタのスパイっていうのなら裁判無しで一発よ」
ファルナは紅茶のカップ片手に物騒な事を話している。私が寝ている間に机の上にはサンドイッチにビスケットといった軽食のセットが置かれていた。
「食べたら?午後から働き詰めだったよねレガリア。それと今日泊っていくよね?」
「うん……」
ファルナに促されサンドイッチを口に運んだ。
(……喉を通らない)
妙な感覚だ。いくら噛んでも味がしない、飲み込もうとしても喉が押し返してくる。
戻しそうになりお茶で流し込む。
「どしたのレガリア?」
「────ゲホッ!ゲホッ!」
お茶が変なところに入ったのか咳き込んでしまう。
口を押えた手を見ると、意志と関係なく小刻みに震えているのが分かった。
「……大丈夫?」
横から背中をさすってくれていたファルナが声をかけてきた。
「……大丈夫、大丈夫だから」
震えは止まらない、頭の片隅で、暗い記憶と感触が私を襲ってくる。
(今日、人を二人も殺した)
「……ねえ、ファルナは、人を殺したことある?」
思わず口走っていた。
「私?」
ただ、聞かずにはいらなかった。
それに、イグドラの騎士として戦う彼女なら。
『その経験』はあるに違いない、という期待があった。
「私は…………無いわ」
私は何を期待していたのだろうか。
ファルナが私と同じ──殺人者であって欲しいと願っていたのか。
「レベリオの……分身を殺したのよね」
「…………」
「なら、レガリアは正しいことをした。リーパーを退治してイストサインを守れた。そういうことだよ?」
ファルナは優しく言葉を紡いでくれる。ただ、彼女の言葉を理解はしても、私が人を殺したという記憶は私の心を刺し続けていた。
客間のドアからノックの音が聞こえる。
「ファルナ様、グレイマン様がお帰りになりました」
ノックの後、一礼して入ってきたクラリアが私たちにそう言った。
「本当?じゃあ迎えに行きましょ」
ファルナが私の腕をとる。
「う……うん」
ファルナに手を握ってもらうと、私腕の震えは止まっていた。




