やってしまった……呑気に遊んでる場合じゃないのに!:4
「貴方……原石武器についてどこまで知ってるの?」
「おや?話す、話す、どう、興味を持ってくれるのか、嬉しいね」
微笑むレベリオの表情は明るく、どこまでも胡散臭い。
「しかしどうしてここがわかったのかな?」
レベリオの眼は私の銃を見ている。
「それの力か?糸が私を指しているじゃないか、見れる、銃、他に、ない、厄介だねぇ」
少しでもこの男から情報を引き出さなければならない。
原石銃を向けながらレベリオに近づいた。
「……!ジルちゃん?」
彼の足元に小さな影が倒れている。
あの白髪は間違いなくジルだ。
「その子に何をしたの?」
「何も、何も、何も」
遠目からだが、少なくとも怪我はしていない。
「その子から離れなさい」
「そういう訳にはいかない、やられる、話がしたい、気になる、気になる、この子から離れたら話が出来ないだろう?」
レベリオは両手を上げた。
「……どういうつもりよ」
「話がしたいんだ」
それと同時にざわめきが遠のく。
「ああ気にしないでくれレガリアちゃん、親しき仲にも礼儀あり、さ。聞かれたくない事があるのでね、ちょっと寂しいが」
「目的は何?」
警戒は解かない、奴も隠し持っているであろう原石武器と白輝鉄に気をつけつつ会話を続ける。
「一問一答、代わりばんこで良いかな?私の小目的は新しい原石武器が知りたい。大目的は仲間を増やしたい」
飄々とした態度を崩さないレベリオの言葉は曖昧だ。
「それでレガリアちゃん、君は誰を捧げたんだ?家族?友達?」
レベリオが質問してくる。
「何の事だかわからないわ」
「キャッチボールをしてくれよ……」
呆れたように肩をすくめてくる。
「本当に知らないの!」
少しムキになり言い返してしまった。
「もう良いわね!こっちが聞くわよ」
「レガリア君、原石武器の加工に必要なのは生きた人間だよ」
彼の言葉に思考が止まる。
「え……?」
「原石武器は生きている武器、鼓動し、思考する武器だ。作るにあたっては原石そのものに人一人を侵食させないといけない」
いつのまにか、レベリオが私の眼前まで顔を近づけていた。
「それで?君の武器には誰が居るのかな?」
レベリオが私の原石銃に触ろうとする。
「……お前!」
レベリオの指が原石銃に触れた瞬間。
私の身体を、冷たい空気が突き刺した。
さっきまで暖かい場所に居たのに、身体中を未知の感覚が突き刺し、堪らず大声で泣き叫ぶ。
自分の声が、誰かに届いて欲しい、千々に乱れる思考の中で、安心できる物を探す、そして、誰かの手が触れて──
「っ……!離れろ!」
私の意識が戻って来た。
目の前のレベリオを突き飛ばし原石銃構え直す。
レベリオは顔を覆っていた。
「は……!ひどい、罪深い!誰がやったんだ!?出来ないことはない!確かに出来る!思いつく!だけど本当にやるのか!?無垢で、弱くて、誰に対しても愛情を抱く命を!」
それと同時にざわめきも戻ってくる。ざわざわと煩い声が再び響き出す。
「それが……!こんな武器に、こんな形になっているだなんて、本当に──罪深い!!」
レベリオの絶叫は私の頭を刺すように響く。
「……うぅ」
彼の声を聞いてか、私たちより少し離れた場所に居たジルが目を覚ました。
「……ジルちゃん、逃げて!」
「……お姉さん……ひっ」
絶叫するレベリオを見て、ジルが恐怖の声を上げる。
「アアアアアアアアアアア!!」
その感情は怒りか悲しみか、叫ぶレベリオは何をしてくるかわからない。動けていないジルの元へ駆け寄り、彼女を背にレベリオを睨む。
「アア……!!アア……………はぁ」
叫び疲れたのか、彼が声を落とした。
そのまま顔ごと地面に倒れ込んでしまった。
倒れる彼に近づく、上から声をかける。
「レベリオ……貴方は何者なの?」
この男は余りにも異常だ。
その異常さの由来に興味を持たずにはいられなかった。
「……私か?私はただの……反逆者だよ」
反逆者、その言葉には聞き覚えがあった。
(前にロスが言っていた、原石武器を持つもう一つの勢力)
「貴方は……リーパーなの?」
答えを待つ。
「ああ、リーパーね、そっちの仕事もやっておかないと……」
もう迷いはなかった。
弾を込めた原石銃を持ち、レベリオの頭に狙いをつけ引き金を引いた。
特に力を込めずに撃った。
銃からは普通の鉛玉が発射される。
(撃った…………死んだ?)
頭を撃ち抜かれたレベリオは動かない。
震える手で彼の確実な死を確認しようと身体を反転させた。
「……え?」
私が見ている顔は何処かで見た、レベリオの物ではない顔。
(どういうこと……?レベリオじゃない?この人は誰……?私が……殺したの?)
ざわめき立つ心を後にして記憶が蘇る。
(この人は……昨日病院で話を聞いた)
腐肉の巨人の件で入院していた被害者の一人だ。
(どうしてこんな場所に……それよりも死因は──私の銃?)
頭を抱えかけた私の側からジルが離れようとした。
「あ……ジルちゃん待って!行かないで……」
彼女の手を掴む、二人とも手が震えている。
ジルの顔を見た。
朝見た時とは似ても似つかない、恐怖で強張った表情だ。
「離して……消えて……」
暗い声で呟いている。
「レガリア、見つけた?」
背後からファルナの声がする。
今にも泣きそうな私と不安気な表情のジルを見て、ファルナも困った顔をしていた。




