やってしまった……呑気に遊んでる場合じゃないのに!:1
昼過ぎ、結局食事も忘れて模擬戦をした私は疲れた身体を引きずり病院に戻る事になった。
「うう……うぁぁ……ミスした……隊長ガッカリさせちゃった……」
「そうだなぁ、身元確認忘れたのはまずかったよな……」
気分は最悪の部類である。
模擬戦中、突然やって来てファルナを抑えた私の首根っこを引っ掴んだ隊長は。
『レガリア、レベリオが医者である確認はちゃんと取ったか?』
顔を覗き込みながらこう言った。私は答えられなかった。
『今すぐ、病院に戻って話を聞いてくるんだ、住所も、役職も、職務態度も全部聞いてくるんだ。その後報告書を完成させろ。わかったな?』
顔面を抑えられ首肯すら出来なかった。
「元気出しなよ二人ともー、病院に一声はかけてるんでしょ?」
「ああ、それは抜かりなくな」
今度の来訪にはファルナまで付いて来ていた。
監視ではなく一緒に捜査をしよう、と彼女が言い出してくれた。
(病院にはエドガーが話通してくれてたのよね)
このところ細かい仕事は彼に任せっぱなしだ。
私はそそっかしい面がある。
大きな事に目を捉われて、大事な仕事を飛ばしがちなのだ。
「はいはい、ちゃっちゃとお医者様に話聞きましょ、あと私もジルちゃんに会ってみたいな。どんな子?」
「昨日はかなり参ってたけど、今日は吹っ切れちゃったのか明るかったぞ。ちょっと心配になるくらい」
昨日のジルの様子は酷かった。事件現場の事を思い出して自傷行為に及ぶ程に。
「そうそう、彼女確かに移民だったぜ。イグドラで生まれて1年くらい前にここに来たって。俺に言われるまで地名も怪しかった」
つくづく哀れな状況だ。となるとこの前のグラドミスの暴走騒ぎにも巻き込まれたはずだ。
「……本当の親の顔も、覚えてないらしいってよ」
「そんなに早く忘れちゃうものかな……?」
或いは既に亡くなって、受け入れられていないのか。
「後の受け入れ先、見つけてやろうぜ……言葉は大丈夫だし、サインエンドで拾われるよりいい場所にさ」
「そうね」
病院の前に着き受付の見舞い欄に記載する。
病院の大部屋、一つの病床に見舞いは四人まで。
三度目の来訪ともなれば慣れてくる。
「えーっとジルちゃんのベットはー」
一番奥の窓際の席、に彼女の姿は無い。
「あれ?んー?居ない……?」
「あらエドガーさん、ジルちゃんならお出かけ中よ」
私達を見た看護師が声をかけてきた。
「どうもハドソンさん、お出かけってあの子一人で?」
「どうしても外に出たいって言うからね、付き添もちゃんと居るわよ。一人が良いって駄々捏ねてたけど」
「そのうち帰って来るかな?」
「呼び戻しましょうか?出かけたの数分くらい前だし……」
「あ、いや、いいよ。他にも話があるんだ」
レベリオの件を看護師に話すと、ハドソンと呼ばれた看護師は他の医師を探すと言って病棟を出て行った。
「ちょうど良いんじゃね?あの子も待ててレベリオの話も聞けて」
「うんうん、効率的に仕事ができるって訳ね」
「そうね、ところでエドガー、もう女性看護師と仲良くなったわけ?」
「レガリア、名前を呼び合うのは友達作りの基本だぞ」
病棟から出た看護師を待っていると、慌てた様子のハドソンさんが戻ってきた。
「あの、騎兵さん!ジルちゃんが走って逃げちゃったって!」
『はい!?』
三人揃って声が出た。




