まだ帰れてないね……:2
両脚に包帯を巻かれた男性が、渋い顔でベットに横たわっている。
「これ以上覚えてない。もう良いだろ」
「……ご協力感謝します。それでは」
昨日、イストサインで新たな事件が起こった。
身体の表面が酸で覆われた巨人が街中で暴れ、巨人から出た酸を浴びた市民が病院に運び込まれた。
「次で最後だなレガリア。あの子だろ?」
「そうね」
第一発見者の私とエドガーは今イストサインの病院で被害者達に目撃情報を聞いてまわっているが、進捗はあまり芳しくない。
あの場には10人の市民がいた。うち4人が死亡、残った者も巨人の酸で重傷を負っている。
突発的に起きた事件で『腐肉の巨人』が何処から現れたのか、何を目的にしていたのかもわからない。
場に居合わせた多くの人は、前の道から突然巨人が現れた、と口を揃えて言っている。
「話はお前が聞きに行くんだな?」
「ええ、私が話すべきだと思う」
次の目撃者は小さな女の子だ。
「おはよう」
ベットに近づき、ゆっくり声をかける。
白い長髪の少女がゆっくりこちらを向いた。
彼女が寝かせていた顔の左半分の方には液が滲み出た痛々しい包帯が巻かれている。
「…………おは、よう」
顔の半分を包帯で覆われた子はジル。
サインエンドに住む移民の子供だ。
「ジルちゃんは、覚えてるかな?一昨日広場で会ったこと」
ジルが首を縦に振る。
「私の名前はレガリア。よろしくね、ジルちゃん」
「……ミーナとマナは?」
ジルの言葉を聞き、内臓に氷を入れられたような感覚に陥る。
その名前は昨日、『腐肉の巨人』が現れた後助からなかった彼女の家族。
不法移民だったようでイストサインに記録は無かったが、ジルの家族である事は間違いなさそうだった。
「今は別の所に──」
「死んだの?」
あっけからんとしたジルの言葉に驚き言葉を失った。
彼女はそのままこちらの顔を見つめてくる。
「死んだんだ」
私を凝視するジルの眼が潤んでいる。




