真面目に仕事……真面目…………真面目かなぁ……?:3
もう、何合打ち合っただろうか。
緋い刃と私の腕が触れ合う度、夕刻の街に星が瞬く。
「──ッ!──!」
私は拳、ファルナは剣。
「────ッ!」
私の腕が、刃を通さなければ。
何度も腕を切り落とされているだろう。
(少しずつ、疾くなってる)
ファルナの剣筋から、私が見つけられる隙が、防御の穴が、残心が減ってきている。
(まだ……わかる)
ファルナは私の実力に合わせて剣を打ってきている。
少しずつ、実力を見せてきている。
(本気で、って言ってたもんね……)
まだ初戦だ。私の実力を測りたいという意図があるのだろう。
(でも、言ってた。『本気』だって)
(じゃあ、こっちも勝ちに行かないと──)
自分でも厄介な性分だと思っているが。
(──失礼だよね?)
私は結構、負けるのが嫌いだ。
(格闘術なら自信はあるし……!)
腕に纏わせてあるのは前々から考えていた、即席原石糸の籠手。
少なくとも、ファルナの刃には未だ裂かれていない。
(……まだ、行ける)
一騎打ちの秘訣は、観察する事。
どんなに実力差があったとしても、どこかに隙は──
(あった)
剣を振り切った後、出来た隙。
その隙を攻める。
決め手は密か編んでいた、原石糸の塊。
それを籠手に纏わせて、巨大な銀の爪を作り、振り切る。
集中力の拡大の中、速度を落とした視界で。
ファルナの眼が見開かれた──
「──っぶへっ!」
気がした。
私が振った爪をそのまま顔面に返され、私は仰向けに倒れていた。
「私の勝ちぃ。カウンター返し成功」
ファルナが一瞬で距離を詰め、私の喉元に剣を突きつける。
最後まできっちり納める、流石は騎士である。
集中力が切れた私の腕から爪と籠手が剥がれ、糸が虚空へ溶けていく。
「……どうだった?」
「全然」
ばっさりと言われる。
「ただ、敵に回すと厄介ねアンタ」
これは褒められているのだろうか?
「衝撃が響かない、かすり傷も負わない、痛みに対する恐怖心が無いってのが一番厄介。実質、どんなに時間をかけても『倒す』事ができないもの」
「体質だからね、私は精一杯活かすことにしてるわ」
格上相手でも、恐怖せず観察する事で勝機を見出す。これで格闘技の成績はトップを納めてきた。
「でも頭への衝撃は効くのよね、覚えてるから」
若干脅し気味にファルナが言う。
確かに、昨日のオリンピアとの戦いでは断続的に脳を揺らされて負けた。
「まあ、武術は問題ないから。本題の原石武器の方にいきましょうか」
ファルナが地面に手を当て、足元の煉瓦から一歩武器を生成した。
「もう知ってると思うけど、これが原石剣の力」
レガリアが手をかざすと剣が宙を舞う。
「ねえ、それどうやって飛ばしてるの?」
「よくぞ聞いてくれました!」
ファルナがぱっと笑顔になる。
「まあ、仕組みはレガリアの糸と同じだよ。ほら」
ファルナが原石剣を鞘ごとこちらに出す。
「こっち、ここをみて」
眼を凝らし、原石剣と煉瓦の剣の間をみると。
「……糸?」
「そう、白輝鉄」
細い白輝鉄が、剣と剣を繋いでいる。
「原石武器の教えその一つ、白輝鉄が全ての基本ね」
そういえば、私の銃と身体からも糸が出る。普通の白輝鉄ではないが。
「私の糸はレガリアとは違って剣を操るのが得意なの。ゾディアは炎出してたでしょ?グラドミスは影」
そして私を指差し。
「レガリアは…………何?何が得意?」
「え……これと言って特に」
「量は多いわよね、そんなに沢山飛ばしたり塊にしたり……それが特徴?」
ファルナがパンと手を叩く。
「そういえば大きな手作ってたよね?アレ面白かったからもう一回やってくれない?」
「うん、ちょっと待って」
ものの数秒で、籠手が腕を覆う。そして少し時間が要るが、籠手から爪が伸びる。
「うーん、イカしてる。格好いいわ」
「ど……どうも」
「こんな風に糸の整形に自由が効くってのが特徴なら、色んな戦法を作るのが良いかもね」
「戦法?」
「そう、例えば……糸で槍を作って投げる…………とか」
グラドミスが使っていた、人体から作った黒い槍の事を思い出した。
ファルナも同じようで、少しずつ言葉が切れていく。
二人とも思い出したい記憶ではないのだ。
「と……投網とか?足元投げつけて転ばせる……」
「ああ、意表つけていいかも」
当たり障りの無い意見しか無いが、そのうち何か思いつくだろう。
「あの……原石銃については?」
「ああ、そっちはアドバイス出来ない」
バサリと切られた。
「漆黒鉄を壊せる銃、今それ以上を求めても意味ないわ。銃は銃の使い方で良い」
(それもそうか)
アガサはこの世に存在するどんな銃よりも強い。
人に向けては、出来る限り撃ちたくはない。
(今出来るのは、これくらいかなぁ)
相談に乗ってくれたファルナに感謝しつつアガサを撫でると、夕日に照らされるアガサがキラリと光った。
今日のアガサは緋色だ。




