ああ難しい、説明するのってすごく難しい、ちゃんと伝わってくれるのかな、忘れてることないかな、後になってアレどうしたって言われないかな
「それで、ヴィルヘルムと隣人以上の関わりは無いんだな?」
「はい、ありません」
五度目の念押しだ。
部屋に入った時から何度でも同じことを聞かれたことか。
(こんな尋問を母さんも受けたのね……)
「アルフレッドの死はこちらでも確認出来てある……頭の潰れた機関士と……他1名……しかし」
カティア隊長が調書を作っていく。
「騎士グラドミスが居たというのは……不明瞭だ」
「痕跡とか無いんですか?」
「現場に戦闘の痕跡はあった。ヴィルヘルムが戦っていたのは確かだが、騎士かどうかはわからん」
「ええっと、漆黒鉄の鎧の破片とかありませんでした?」
「……何を言ってる?漆黒鉄の鎧だと?あれが砕けることがあるのか?」
あの銃の話はまだしていなかった。
「あ……そうですよね……はい……」
うまく説明できるか自信がなくなってきた。
「レガリア、話しておきたい事はあるか」
「えっと……隊長に何か情報ないですか……?ヴィルヘルムが盗んだ物とか……騎士様が探してる物とか……」
「無い、現状ヴィルヘルムの捜索に関してはお前の話が頼りだ」
「そうなんですか……」
言葉に詰まる。
「……レガリア」
「はい!……何でしょう」
「私はお前の母親、アンナさんに大変世話になった」
(初耳すぎる)
隊長が私の顔を覗き込む。
「私に、あの人を裏切らせるな」
凄まじく強い眼光、緊張でお腹が痛くなってきた。
「あの……実は……」
「ふむ……見たところ色鉄製の銃だな」
何十分か後、記憶を頼りに説明を繰り返し、曖昧な部分に隊長からの総ツッコミを受けた私の頭は茹で上がっていた。
「緋鉄に見えるが、妙な光り方だ」
「ヴィルヘルムが渡してきた時は、色鉄でもない普通の鉄製に見えました。引き金を引いたらそうなったんです」
「どこに隠し持っていたんだ?持ち物の検査はしたがこんな物はどこにもなかったぞ」
「わかりません、起きたらベットの下に落ちてました」
隊長は銃を何度かひっくり返し、調べていく。
「こんな普通の銃が漆黒鉄を破壊したと」
「はい……撃った後のことは……あんまり覚えてません」
「ふむ……」
隊長が銃を空に向け、引き金を引いた。
「ちょちょちょっと隊長!」
「弾は出ないな」
銃弾は放たれなかった。
(あの時は……)
雷光が走ったような衝撃と反動、そして火傷。
記憶がフラッシュバックし、思わず身震いする。
「とりあえずこれは預かっておく、自分の銃は持ってるか?」
「……実は隊長、私の銃2本とも無くしてしまって……」
「貴様……銃を無くしたのか?」
(まずい、怒りのオーラが見える)
銃を無くしてはいけないというのは騎兵見習いが一番最初に教えられるほど重要な規則だ。
「これから事務室に行き……新しい銃の申請、そして反省文を書いて今日中に持ってこい」
(眼が怖すぎる……)
「あと白輝鉄糸の訓練をしろ、せめて銃と手を結べるようになれ。私が訓練所に来るまで今日は帰るんじゃないぞ」
「……はい……えっ隊長それはっ」
私は白輝鉄の鉄糸を操る訓練が死ぬほど苦手だ。
「わかったな、私はこれから騎士グラドミスに連絡を入れる。すぐに事務室に行け。以上」
隊長は有無を言わさず部屋を出ていった。
「……おなかすいたな」
時計は午後2時を指していた。




