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カナス側のトラウマの話です。彼もまた完璧な人間ではないという。5話くらいで終わる予定。
大切な相手がいる。
それは、自分には決してできないと思っていた。
ただ母を復讐に駆り立てる存在に成り果て、慕っていた異母姉を助けることもできず、尊敬できた異母兄を失い、父への裏切りを企む自分には絶対に。
でも、突然現れた細く小さな少女が、自分を変えた。
その純粋さと優しさが、許す勇気と罪を背負う強さをくれた。
助けているつもりが助けられていた。
その少女が愛おしくてたまらない。
可愛くて、愛しくて、・・・ときどき、閉じ込めてしまいたいほどに。
「カナス様!」
シェーナは自分を見つけると、とても嬉しそうな顔をする。まるで主人を見つけた子犬のように全開の笑顔で寄ってくるのだ。
それがカナスの心も満たす。
「今日はお仕事がお休みですか?」
いつも彼女は、王の公務を「仕事」と称する。まるで、王という役職についているだけのように聞こえるその言葉がカナスは好きだった。シェーナの前では、ただの男に戻れるような、そんな気持ちにさせられるからだ。
「まあ、そんなところだ」
命じた調査の結果がどう出るか。それによって、また今後も考えていかなければならないが、それまではしばし休息が持てそうだった。
「暇があるならどこかに行くか?」
カナスはシェーナの頭を撫でながら尋ねた。外に出かけるのが大好きなシェーナはいつもであればここで瞳を輝かせて頷く。
しかし、今日は勝手が違ったようだ。
「あ・・・あの・・・ごめんなさい。今日は・・・あの・・・」
戸惑った表情を隠せないシェーナを意外に思いつつも、笑ってやった。
「思い付きだ。謝らなくていい。俺はのんびりしているから、暇になったら声かけろ」
「ごめんなさい・・・」
「謝らなくていいって言ってるだろ」
それでも泣きそうに瞳を揺らめかせるシェーナの頬を軽く摘む。幼さの残るその頬は柔らかく、とても気持ちがいい。つい無意味にふにふにと指で挟んでしまうほどに。
「ほっぺた・・・あの・・・」
「ん?ああ、悪い悪い。痛かったか?」
無意識の行動に気が付いたカナスは、ぱっと手を離す。そのとき、シェーナがほっと息を吐いたような気がして、彼は一瞬いぶかしんだ。
「悪いな。さわり心地がいいもんで、つい」
「え・・・あ・・・いえ・・・」
しかし、それは気の迷いではすまないようだ。
明らかに不審な様子でおどおどと視線をさまよわせているシェーナに、カナスは正面から問いかける。
「どうかしたか?」
「え・・・」
「触られるのは嫌だったか?」
「そんなことは・・・」
ぷるぷると首を振るシェーナに少しだけほっとしつつ、ではどうしたのかと重ねて尋ねようとしたカナスから、彼女は逃げ出すことを選んだようだった。
「私、用事が・・・あの、失礼します」
明らかな言い訳だけ置いて、シェーナはぱたぱたと、傍から見れば鈍いほどのスピードで立ち去った。
「何か変だな」
シェーナがいなくなったその瞬間に穏やかな表情を消したカナスは、面白くない気持ちでむっと唇をかみ締めた。
しかし、問い詰めれば、シェーナはすぐ怯えてしまう。
結局、追いかけるのをあきらめた彼は、不満そうな表情のまま、踵を返した。
「・・・・眠れねえ」
せっかくの暇な時間。
日頃疲れた体を休めようと、昼間からベッドに背を預けていたカナスだったが、まるで睡魔が降りてこない。
興味がない宗教関係の本を2冊も読破しても、さっぱりだった。
(シェーナがいれば一発なんだがな)
歌姫と称される彼女の歌声は、いつも心地よい眠りを提供してくれる。
そうでなくても、シェーナを腕の中に抱えていると、安心して眠れた。
邪気のなさが、カナスの緊張を解いてくれるのだろう。
とはいえ、ないものねだりをしても仕方がない。
彼はため息をつき、あきらめて体を起こした。
「久々に体でも動かすか」
もともと最前線で身を張るタイプのカナスは、身分を飛び越えてよく近衛兵たちの訓練に混ざっていたし、下級兵の面倒もみていた。
しかし、最近はデスクワークばかりですっかり体がなまってしまっている。
伸びをすると、ばきりと肩が凝った音をあげるほどだ。
ちょうどいい機会だとばかりに、彼は仕官している兵士たちの訓練場へ向かった。
鈍く響く刀音と独特の砂っぽさが、離れていた実戦の感覚を蘇らせる。
戦争が好きなわけではなかったが、幼い頃から仕込まれた性か、高揚感がカナスを包んだ。
キィン、と甲高い音と共に、空に弧を描き舞い上がった薄剣が回転をしながら彼の近くの地面に突き刺さった。
「馬鹿者!何があろうとも武器を放すなと教えただろう!目に怯えが見えるぞ!」
「すみません、教官っ!」
肩をすぼめ、恐縮する新卒兵の姿にカナスは小さく微笑んだ。
かつては、自分もああやって怒られてばかりだった。
生き残りたいのならば、決して武器を取られるな。決して敵から目を逸らすな、と。
王子だからといって特別扱いなどなく、誰よりも幼い頃から大人の中に混じって腕を磨いた。
それが、あの父に認められるためだったことを思うと苦さがこみあげるけれど・・・。
それでも、あの日々がなければ、今ここに立っていることなどなかっただろう。
カナスは地面に突き立てられた状態の訓練用の細剣を引き抜くと、それを持って彼らに近づいた。
「ザーラ、随分気合が入っているな」
「っカナス様?!あ、いえ、陛下。何故このようなところに・・・」
教官をしているザーラは、かつてカナスの直属の部下だった男だ。
第一歩兵部隊、特攻隊長を務めていた彼を、カナスは重宝していた。古傷がもとで今は現役を退いているが、その信頼にいまだ揺らぎはない。
「名前でいい。珍しく暇ができたんで、汗でも流そうかと思って来てみたんだが」
しかし、連絡役を寄越さず、いきなり来たのはまずかったようだ。
訓練兵たちはカナスとザーラを遠巻きに取り囲み、ざわざわと戸惑い、怯えた視線を向けてくる。そのうち、教官の一人が跪いたのを見て、慌てて全員が同じ体勢を取った。
「驚かせすぎたか?」
苦笑をしてザーラに問いかければ、彼もまた苦笑を浮かべた。
「それはそうでございましょう。王子殿下の頃とは違います。あなたはこの国でもっとも高い地位にいらっしゃるのですから。まして、“軍神”は我が国の英雄です。兵士を目指す者にとって憧れであるお方を目にして、恐縮するのも無理からぬことでしょう」
ザーラの言に、カナスは軽く肩をすくめた。
「期待が大きいと幻滅も大きそうだな。腕がなまってなきゃいいが」
彼は手にしていた剣の柄を左手に持ち替えると、その柄で自らの左肩をとん、と叩いた。
「利き手は使わねえから、混ぜてくれよ」
ざわっと一際大きな衝撃が兵たちの間に走った。ザーラはため息をつく。
「無茶をおっしゃる。たとえ左であっても、あなた様のお相手が務まるような者はここにはおりませんよ」
「わかんねえじゃねえか。目をかけるべき人材が発掘されるかもしんねえだろ。ここは、未だに階級とかうるせえからな。家柄がよくなくても、腕が立つなら俺はすぐ尉官させるぜ」
「カナス様・・・」
「お前らにとっても、いい機会だろ。別に弱いからってクビにするわけじゃねえ。当たり前だ、まだ入隊したてだもんな。だが、そんなひよっこでも筋がよけりゃとりなしてやるって言ってるんだ」
ああ、また悪い癖が始まった・・・と隣で呟くザーラを綺麗に無視して、カナスはにやりと笑った。
カナスは完全実力至上主義なので、かつての自分の部隊でも同じようなことをしていた。
それが兵士たちの士気をあげるのに役立っていたことは間違いない。
だが、実際は、及び腰の兵士たちに自分の相手をさせるためなのだから、性質が悪いとも言えないではなかった。
思わず沸いたチャンスに、新卒兵たちは戸惑い、そして、野心に燃えた目をし始める。
「カナス様、未熟な者たちに怪我をさせられては困ります」
それを敏感に察知したザーラがカナスに進言したが、あくまでもそれは教え子たちを心配するものだ。カナスの心配はとんとしていない。
「大丈夫だ。ある程度は、手を抜くからよ」
「そう言っては累々と怪我人の山を築かれるのがあなた様でしょう。毎回手を抜くとおっしゃられては・・・」
「さて、やる気のある奴はいるか?」
長くなりそうな小言に背を向けて、カナスは平伏している兵たちに問いかけた。
途端に血気盛んな青年たちが立ち上がる。
背後でザーラが天を仰いだのに気が付いてはいたが、華麗に無視をした。
複数相手の方が真剣になれるし、それでも勝つ自信はあったが、なにせ手加減がしにくい。
ザーラをあまり困らせるのはさすがに悪いと思い、彼は一人ずつの挑戦をうけることになった。
それなりに骨がありそうな男もいたが、圧倒的にカナスは強かった。
「まあ、こんなもんか」
張り合いのない相手との対戦は段々と退屈になってきて、彼は不満そうに鼻を鳴らした。
「だからお相手にならないと申し上げましたのに・・・」
やる気に満ちた者たちが、無様に地面に転がされ、又は頭を垂れるのを見ていて、残された者たちに怯えが広がり始めたのをカナスは見て取る。
心の中でため息をつき、しかし、顔はにこやかな笑顔を浮かべ、彼らをねぎらった。
「まあ、新卒兵にしてはなかなかいい線いってるな。さすがに汗をかいた。この調子で鍛錬に励めば、確実に強くなるだろうよ。自信がついたらまた挑戦して来い」
「少し休む」とそう言って刀をザーラに渡し、カナスは裏手の段差に腰を下ろした。
人気のない場所にきてようやく、彼は深いため息を吐いた。
先ほどの新卒兵たちの表情を思い出す。覇気と向上心、なにより敵わなくても向かっていくだけの勇気がない青年たちが、兵として働くのかと思うと、一抹の不安がよぎった。
平和はいい。けれど、人の心を脆弱に育てるのもまた平和なのかもしれなかった。
そして脆弱な魂は、きっと自分をあの目で見る。カナスの大嫌いな、あの目で。
「カナス様」
ふと、頬杖をついていたカナスを呼んだのは、ザーラだった。
近寄ってきた彼は持っていた竹筒の水をカナスに渡す。「毒は入っておりませんよ」と軽口を叩く年かさの男に笑い、カナスは筒を逆さに返した。
冷やされた水が喉を潤すとともに、暴ぶっていた感情もすっと収まっていく。
「お眼鏡に敵うような者はおりませんでしたでしょう」
苦笑を刻むザーラの口元からふいと視線を外し、カナスは素の表情のままつまらなそうに言った。
「残念ながらな」
「王宮に仕官してくる者は貴族の出が多いです。甘やかされて育った彼らに、あなた様を満足させるような気概のある者はいませんよ。何より、今は平和な世の中です。必死さが足りないのも仕方がないことでしょう」
「・・・そうだな」
またため息が口をついて出た。
「強くあるべきという考えそのものが古いんだろうな。今には、今の時代の考え方があるだろうに。ただ・・・」
「ただ?」
聞き返したザーラに一瞬ためらってから、カナスは本音を吐露した。
「平和になればなるだけ、俺は、畏怖の対象だろうと思ってな」
その、暗く沈んだ声に、ザーラは驚いたようだった。
「畏怖?あなた様はわが国の英雄です。だからこそ“軍神”の名をお持ちだ」
「戦いがなくなれば、“軍神”という名は何の意味も持たない。かえって、俺の強さは恐怖と軽蔑の対象だろう。いつまた牙を向くか分からない・・・そんな風に見られているのを知っている」
「カナス様、そんなことは・・・」
「慰めは無用だ。あの兵士たちにもはっきりとその色が見えた。まるで、化け物でもみるような・・・」
ふと、懐かしい、だが、今でも生々しい軽蔑の言葉が脳裏によみがえった。
カナスは遠くを見るように目を細め、鬱屈した胸の内をこぼす。
「かつて・・・、母も同じ目をしていた。俺は、あの視線が大嫌いだった。野蛮な、薄汚い獣でも見ているかのようで・・・俺に敵わないと知った奴らは、誰も彼も、それと同じ目を向ける。いつ手を噛まれるか、いつ首をもがれるか、そうやって怯えて・・・」
「カナス様!」
はっとしたのは、ザーラがカナスの肩をつかんだからだった。
ザーラは心外そうな顔つきだった。
「何をおっしゃいます。あなた様らしくない。私たちは、あなたに憧れた。あなたと共に戦えるのが誇りだった。あなたを守りきることが願いだった。多くの友が、この身が朽ちようともあなたの側にいることを望んだ。それは、あなたに怯えていたからではない。あなたを尊敬し、あなたについていきたいと思ったからです」
それくらいのことはわかってくれていると思っていた、とザーラは憤懣やりかねる瞳で言う。
「今のこの平和を築いたのは他でもない、あなたです。その夢の一端を担えたと信じているからこそ、死んでいったものたちも浮かばれるのです。そんな彼らの気持ちも否定なさるおつもりか」
「・・・・いや。すまん」
その剣幕に驚いていたカナスは、バツの悪そうな表情を浮かべたあとで、低く呟いた。
「そんなつもりじゃなかったんだが・・・、そうだな、俺がこんな気持ちじゃ死んだ奴らに顔向けができない」
「カナス様、あなたは私たちの夢だった。希望だった。誰もがあこがれるすべてを持っていらした、ただお一人の方。その方が、このような世迷いごとをおっしゃるとは・・・私は・・・私は・・・っ」
「な・・・っ、泣くなよ!いい大人が!」
まさか泣くとは思わず、驚いたカナスは慌てて立ち上がる。
そういえば、ザーラは涙もろかったことを思い出し、言う相手を間違えたと彼は内心でため息をついた。
とはいえ、心酔してくれている人間はこうも入れ込んでくれていると思うと、くすぐったいような嬉しい気持ちもある。
複雑な気持ちで「もう言わない」とザーラを繰り返しなだめていると、不意に耳慣れた音が遠くから聞こえてきた。
それは歌声だった。
「シェーナか?」
「ああ・・・そういえば、今日は歌姫様がいらっしゃると兵士たちが騒いでおりました」
「何故、こんなところに?シェーナが?」
初めて聞く話に、カナスは眉を寄せる。
するとようやく涙が収まったザーラが、嬉々として説明を買って出てくれた。
「訓練の途中で怪我をした者たちに、手当てを施し、歌を聞かせてくださっているのです。入隊当初で怪我をし、訓練もろくにできない者たちは焦りや自己嫌悪に陥り、心細い思いをしています。それを知った歌姫様が彼らを励ますために、週に2度はお顔を見せてくださるようになって。彼らにはとてもよい気分転換になっておりますよ。本当に、お優しい、良い方をみつけられましたな」
「・・・・・」
シェーナを褒められたというのに、カナスはあまり気分がよくなかった。
自分の知らないところで、シェーナが誰かと接触を――それも彼女と大して年の変わらない男たちと付き合いを持つことが嫌だったのだ。
狭量な自分を自覚しつつも、カナスは苛立ちを隠しきれなかった。
「カナス様・・・?いかがなされました?」
ザーラが幾分不安そうに尋ねてきたが、それには答えず、彼は声のする方へ向かった。
近づけば近づくだけ大きくなるシェーナの歌声は相変わらず澄んでいて、とても美しい。
天上の調べと称したのは誰だったか。その恥ずかしい評価すら超える、本当に美しい音色だった。
石の柱の向こうに、その音の源はいた。真っ白なローブに身をつつんだ、小さな少女。
けれど、歌っているときだけは一回り大きく見える。その、神々しさのために。
神とか奇跡とか、そんなことを信じるのは嫌いだが、シェーナを見ていると、確かにこの世のものではない何か、を感じることは確かだった。
歌い終わると、途端に実年齢よりも随分幼い印象に変わるのが不思議なほど。
ぺこり、とたどたどしく頭を下げた彼女に、周りを囲んでいた若い兵士たちが、我先にとその手を取り、ローブの上から恭しく口付ける。
瞬間、カナスの中で不快の念が強く動いた。
それが畏敬と親愛の情を表す挨拶だろうと、ローブの上からだろうと、許せるものではなくて、彼はその感情のまま彼らに向かって荒い一歩を踏み出そうとした。
しかし、それをとどめてしまったのは、シェーナが照れくさそうに、それでも嬉しそうに笑ったからだ。
それが、自分に向ける笑みと酷似しているように思え、カナスは愕然とした気分になった。
(・・・誰でもいいのか)
氷を付きこまれたような気分のまま、そんなことを考える。
シェーナの“特別”は自分にあるということに自信をもっていた。
子犬のように、雛鳥のように、信頼しきった顔を見せるから、そうやって思っていた。
カナスの側の誰よりも一番にカナスに向かって笑いかけてくれるから、シェーナに好かれている自信があった。
いや、信頼はしてくれていると思う。それに、好かれているとも思う。
でも、“本当の意味”での一番ではないのかもしれない。
それはずっとカナスの心について回っていた怯えだった。
シェーナは外の世界を知らなかった。常識も、人付き合いも、何もかもを奪われていた。
カナスはそこからシェーナを連れ出した人間だ。
初めて向けられる好意に戸惑い、感謝し、懐いたのは必然でもあっただろう。しかし、それは、あくまでもまだ限られた世界のこと。
だから広い世界を見せたとき、多くの人と触れ合ったとき、シェーナは本当に自分にとって大切な人間を見つけるのではないかと、カナスは怖かった。
親から与えられなかった愛情を求められているだけなのではないのかと、シェーナの否定にも関わらず、疑い続けていた。
だから、誰にも触らせたくない。話させたくない。見せたくない。何も知らないままでいてほしい。
そんな汚い気持ちがいつまでも心の中に渦まいて、シェーナに関してはひどく心が狭くなってしまう。
7つも8つも下の少年とも青年ともつかない新卒兵たちに自分のものに触るなと怒鳴りつけたくなるほど、今は醜い妬心が膨れ上がっている。
それを必死に押さえ込んでいるうちに、シェーナは自ら進んで、彼らの包帯を巻きなおしてやっていた。
ありがとうございます、ご利益がある・・・そんな言葉に、彼女は照れた笑みを浮かべて恐縮している。何よりカナスを揺さぶったのは、シェーナ砕けた表情を見せていたことだった。
人と接するのがあまり得意ではないという言葉通り、いつもどこかに緊張した面持ちを見せる彼女が、自分から話しかけている。
それも「大丈夫?」とか「痛かったら言ってね」とか、滅多に使わない普通の言葉で、だ。
(俺には、何度言っても直らねえくせに)
用事というのはこれだったのだろうか。
カナスの誘いを断ってまで、彼らと会いたかったのだろうか。いつも外に連れ出してやると喜んでいたのに。
それよりも、彼らのために歌うほうが、彼らの世話を焼くほうが、大切だったと、そういうことなのだろうか。
胃がひどくムカムカとした。ついでに頭も痛くなる。
(・・・んだ・・・これ・・・)




