ラブリーエリカリターン
考えてみれば、まだ新学期は始まったばかりだ。今後藤先生のクラスの生徒が魔法少女にならなかったと言って今後もならないとは限らない。むしろ受験まじかに一気に複数人覚醒すれば後藤先生はもがき苦しむことになるだろう。
不幸になる後藤先生を思い浮かべると、出来内の心は少しだけ軽くなった。
「そういえばぁ。その2組ですけどぉ、さすがにAランクの魔法少女2人はきついから魔法少女委員会の方からS級の魔法少女が派遣されてきているそうですよ? 」
「S級の…? それって沢城先生のことですか? 」
「あららぁ? ご存知でしたかぁ? 」
「ご存知も何も、同じ学年の先生なんだから後藤先生も会っているでしょう? 」
「あらあらうふふ、そうでしたねぇ」
後藤先生がのんびりと返す。こういうところがとろいと言うのだ。
「それに沢城先生はAランクが2人になったから派遣されたわけではなくて、Aランクの生徒がいるから派遣されてきたんですよ? Sランクの魔法少女とはいえ2人のAランクの面倒を見るのはきついかもしれませんね」
「あらぁ。そうだったんですか? なら魔法少女委員会からもう一人派遣してくれるといいんですけどねぇ」
もう一人か、そういえばと出来内は一人の少女に思い当たった。
「でもそう言えば高等部にはSSSランクの魔法使いもいるそうですね? その子に頼むことはできないんですか?」
「ああ…布里さんですかぁ? 」
後藤先生は剣道部の顧問だからその生徒の事はよく知っていた。
ある特定の男子部員の防具を「くんかくんか」して「はぁはぁ」した挙句、それが別の生徒のものだと分かりその生徒をぶっ殺していた。なんか指先からビームが出て心臓を貫通していた。文字通りぶっ殺していた。その後「でぇじょうぶだ。ドラゴンポールで生き返ぇれる。いや、いやドラゴンポールは魔法少女の名前だからドラゴンポールが生き返らせてくれるが正しいか」とかなんとかいって生き返らせてはいたが、ガチのマジで殺していた。
「いやぁ、それは無理でしょう」
後藤先生は遠い目をして答えた。
彼女は倫理観がないし、何より目当ての男子生徒のためにしか行動しないから。
・・・
「それではホームルームは終わりでーす」
沢城エリカは滞りなく授業を遂行した。
沢城エリカ…そう、魔法少女ラブリーエリカその人である。年齢は29になる。ギリギリ30は超えてなかったセフセフ。
あの後、例の他の魔法少女の物語に勝手に介入した事件の後、沢城はドラゴンポールに連れられて魔法少女委員会に連れていかれた。そしてそこで責任を取ってAランク魔法少女の面倒を見るように転勤になったのだ。そんなに他人の魔法少女の物語に介入したかったら魔法少女員会の特派員になって各地の危険度が高い物語の魔法少女の面倒を見てこいということだった。これはエリカの魔法少女としての資質が高いことに目を付けての特例だった。エリカは元ランクSの魔法少女だったから。
エリカは教員免許は持っていなかったが、魔法少女の能力「ザ・女優魂」によってなんでも好きな職業になることができた。「ザ・女優魂」とは要は「テクマクマヤコンテクマクマヤコン学校の先生にな~れ~」的な魔法だ。コンパクトの力と違って実際の演技力が必要になるので、3日間徹夜で金八先生と女王の教室とGTOとごくせんを見る羽目になったが、おかげで今は完璧に先生として行動することができている。
「部活を決めるのは今週末までです。急ぐ必要はありませんが、期限は守って下さい。どんな部活に決めるにしても、これがいいという気迫と根性がないと続かない。これでいいとこれがいいでは大違いです。正しいという字は「一つ」「止まる」と書きます。どうか一つ止まって判断できる人になって下さい。」
「なんか先生くどいよ…」
もともと沢城は東京で生活していたが限界を感じ地元に帰省していたところだった。ところが地元は東京と違って仕事もない。今思うとあの時の自分は自棄になっていたのかもしれない。
最初の頃は一刻も早く東京に帰ろうと息巻いていたが、今はなんだかんだで馴染んでいる自分がいた。このまま地方で暮らすのもいいかなと言う気がしてきている。都会にいたころはお金を使うばかりだったが地方では娯楽が少なくお金のたまりもいいし。私ここ合ってるかもしれないと思うエリカだった。仕事さえ…仕事さえあればね。
「さようなら! 」
「さようなら! 」
元気に挨拶する子供達。いいわね。素直で。でも徹夜で暗記したドラマの名言の数々を披露することができなくてちょっと残念なエリカだった。
そんなわけで放課後。