表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/11

伝説じゃない出来内先生

「はぁ…」


 出来内血痕は今日、何度目かになるため息をついた。

 出来内は今年で教師歴13年目35歳になる女性の中堅教師だった。中堅…嫌な響きだ。もう少ししたらベテランと呼ばれることになるだろう。まだ出来内は結婚すらしてないのに…


 通常ベテランと呼ばれるのは40代からだったが、県内の教師に40代は少ない。おそらく就職氷河期でそこらへんの世代がっつり抜け落ちているからだろう。これは教師だけではない、民間企業全体にもいえることだった。じゃあ氷河期世代は何処に行ったのかと言うと、たぶん派遣とか非正規社員とかで苦労しているのだろう。みんなも40代のおじさんおばさんを見つけたら優しくしてあげよう。彼らは雇用の調整弁として時代にほんろうされた被害者なのだ。決して馬鹿にしてはいけないよ? お姉さんとの約束だ。あ? 35歳も十分おばさんだと思った人は、先生怒らないから正直に手をあげなさい。はい、手を挙げた君は後で職員室に来るように!


 こんな阿呆みたいなノリ突っ込みをしているからか、出来内は今年で35歳になるがいまだに独身だった。婚活パーティもマッチングアプリも試したが、どうにも上手く行かない。それどころか年々食いついてくる男はしょぼくなっていく一方だった。最近はお見合いもするようになったが時すでに遅し、もうまともな相手は残っていなかった。35歳ともなればお見合いの相手の男性も35歳以上となる。そうなると若さを保っている男性と言うのは稀でだいぶおっさん臭くなっているのだった。主に頭皮のあたりとかが。

 だがしかし子供を産むとしたら35歳までが基準と、何か知らんけど男性達には広く流布されている。35歳を超えたらさらに厳しい戦いになることが想定された。結婚を決めるなら今年決めておかないとまずいだろう。出来内にはもう時間は残されていないのだった…


 でも今悩んでいるのはそれとは全く関係がなかった。


「今回のクラスははずれだわ」


 悩んでいるのは先生らしく生徒の事だった。結婚は関係ない…こともないのだが、とりあえず横に置いておく。


 なにせ今回の出来内のクラスは現役の魔法少女が5人も出てしまったのだ。1クラスに30人いて、その30人の9割が高校までに魔法少女を経験するわけだからして、単純計算しても年に2人くらいは魔法少女が出るのは仕方ないのだが、5人と言うのは異例の多さだった。しかもまだ新学期が始まって間もないのに。この分だとまだまだ増えるかもしれない。30人中8人は小学生で魔法少女になっているので最大22人まで魔法少女が増える可能性がある。さすがにそれはないと思いたいが。

 ほとんどの女生徒が魔法少女を経験する現代においてその成長を見守るのも教師の務めだった。それぞれの魔法少女の物語同士が干渉せず無事に終わるのもまた、教師の務めとされている。でもさすがに5つ同時進行と言うのはきつかった。というか無理だった。しかも5人目の魔法少女と来たら巨大ロボットと合体しやがったのだ。それもう魔法少女じゃないよね?


「一体どうしたんですかぁ? 出来内先生?」


 舌っ足らずなしゃべり方でおっぱいが話しかけてきた。じゃなくて、後輩の後藤先生が話しかけてきた。

 思わず自分の胸を見る出来内。胸はなかった。

 後藤先生の薬指には結婚指輪がきらりと光る。

 これが格差の結果だというのか?

 あまりにも理不尽。あまりにも無慈悲。出来内は心の中で泣いた。


 糞、てめー見せつけてんのか? 私の前では気を使って指輪外せよ。


 出来内は心の中で毒づいたが、本当に後藤先生が出来内の前でだけ指輪を外したら、それはそれで逆にぶち切れるのでどっちにしろ積んでる後藤先生だった。


「あのぅ…出来内先生? 」


「な、なんでもありません」


 精神が崩壊する寸前で踏み止まれたのは先輩としての意地だった。後藤先生は脳みそまでおっぱいがつまってるんじゃないかと思うほど、はっきり言って阿呆だったが出来内のことを先輩として慕っていた。見っともない姿は見せられない。


「でも凄い酷い顔してますよ?」


「それはその、実はクラスで5人目の魔法少女が出てしまって」


「それはそれは大変ですね」


 なんとか誤魔化す。まぁ、元々はそれで悩んでたから嘘はついてないし。


「しかも今回は魔法少女とロボットの二刀流なんです。魔法少女だけならまだしも…ロボットですよ? 絶対町とか壊すじゃないですかぁ? ていうかもう壊したんですけどね」


 壊れたところは魔法少女委員会の方に連絡して治してもらった。これから町が破壊されるごとに連絡しないといけないと思うと気が重かった。


「なんで私のところだけ5人も…ちゃんと均等に別れるように会議したじゃないですか? 」


 クラスの生徒分けはドラフト会議によってきめられている。

 優秀な子、問題のある子が均等に分けられるようになっていた。今回のクラスだって均等になるように分けられたはずなのに。


「これじゃあプライベートな時間も圧迫されてオチオチお見合いにもいけやしないない。時間が…私にはもう時間が残されていないと言うのに…」


 出来内は横に置いていた結婚の話をもっかい持ってきてため息をついた。


 クラス分けでは前の学校のデータも引き継いで生徒が均等に配分されるようになっていた。でもそれは魔法少女だけではない。前の学校で仲が良かった子と同じクラスになるように、いじめがあった生徒が別のクラスに分かれるように、問題のある生徒は学年に均等に振り分けて、友達の少ない子は孤立しないように配慮されているのだ。魔法少女に発現する可能性も考慮されてはいるがそれは二の次三の次だった。


「でもぉ…危険度はEなんでしょう? 」


 後藤先生が慰めるように言った。

 魔法少女と言っても10人10色だ。いろいろな物語が存在する。現に巨大ロボットがでてくるやつまである。そしてその物語によって周りが傷つく可能性も人それぞれだった。魔法少女委員会ではそれをG~SSSまでランク分けしていた。

 ロボットと合体する魔法少女は危険は危険だったが、物語はギャグよりなので人が死ぬことはまずない。よって危険度はEとランク付けされていた。クライマックスにかけて怪我人くらいは出ることを想定してのE判定だが実質最低ランクのG評価だった。


「ギャグよりだから人が死ぬ心配はなくていいじゃないですかぁ? 2組の生徒なんて危険度Aの魔法少女が増えたらしいですよぉ。2人目です」


「ええっマジですか? 」


 出来内は身を乗り出して驚いた。危険度Aといったら死ぬことは基本ないが、魂が捕らわれて永遠に元の世界に戻ってこれないみたいな出来事が起こるレベルの危険度だ。そして基本死ぬことがないだけで死人が出る可能性も普通にありうる。危険度Aは全国でも毎年数件しかないだったはずだ。よりによってそれが2人も、異例の事態と言えた。


「クラス分けでちゃんと分けなかったんですか? あのクラス小学校から繰越のAランクの危険度の魔法少女がいるからって、これ以上増えないように全員魔法少女経験者の生徒で固めてましたよね?」


 全員魔法少女経験者で固めればもう魔法少女は増えない。それなのにAランクが増えるということはありえるのだろうか?


「小学生からの繰り越し組の子が危険度GからAに格上げになったらしんですよぉ。こればっかりは運ですからねぇ」


「ああ、それで…」


 クラス分けされた子がどういうレベルの危険度の魔法少女に覚醒するか、予想は難しい。

 魔法少女になるタイミングは人それぞれで予想は困難、どういう危険度の魔法少女になるのかも、どういう強さの魔法少女になるのも事前に判断することは不可能といってよかった。さらにもう一つ付け加えるなら危険度も途中で変動することがあった。前半はギャグで人が死ななかったのに、後半になるとバンバン死んでいく物語とかがそれに該当する。ギャグだから人が死ななかった分その補正がなくなると危険度が一気に跳ね上がったりするのだ。今回のAランクが増えたというケースもそのケースなのだろう。

 学校側が事前にできるリスクヘッジと言ったらなるべく魔法少女になったことのある者となっていない者を均等に分けるようにするくらいだった。それも完璧に実行できるとはいい難かったが。出来内の学年も最初のクラス分け時点で全員魔法少女経験組で埋めたクラスのしわ寄せに、一人の魔法少女になったことがない生徒のクラスが一組できてしまっていた。1人も魔法少女になったことがない生徒のクラスなら、当然魔法少女に覚醒する人数が増えるリスクがある。出来内もあのクラスにだけはなりたくないと思っていた。そう言えばあのクラスの担任になったのは…


「でもぉ、私は出来内先生が羨ましいですぅ。私のクラスは全員まだ魔法少女になったことがないんですけどぉ、まだ0人のままでぇ」


「は? 」


 出来内の愛想笑いが凍り付いた。


「クラスから可愛い魔法少女がいっぱい出てほしいんですけどねぇ」


 イラッ!

 人が婚活の邪魔になるから魔法少女が増えて邪魔になってるっていうのに、既に結婚しているお前は0だとっ!?

 この女はいつもそうだ。人が苦労して問題を解決している横で、この女にはそもそも問題自体が起こらない。出来内が難易度ハードモードの人生を歩んでいる横で、後藤先生は難易度イージーモードの人生を歩み続けているのだ。そもそも、彼女の名字の本当の持ち主、元祖後藤先生(♂)は出来内の同期だった。もしかしたら後藤先生と結婚していたのは自分で、自分が後藤先生になっていたかもしれなかったのだ。

 お前が…お前さえ存在しなければ…今頃私が後藤先生と言われていたかもしれなかったのに。お前のクラスの生徒全員魔法少女になれ!

 出来内は心の中で後藤先生を呪った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ