休み時間
キーンコーンカーンコーン!
チャイムが鳴り休み時間が始まる。次の授業は体育だ。至急、男子と女子はクラス別れて体操服に着替えなくてはならない。
「忍ちゃん今日は体育大丈夫? 」
「ううん、今日は…」
透は喘息で体が悪いから体育の授業は3割くらいは欠席してしまう。今日はその日らしかった。
「小原さんはまた体育休みなんですって? 」
それを聞きつけたか、そう言ってじろりと忍を見るのは、学級委員長の雛山瑛梨奈だった。勝ち気で釣り目な、くるくる巻き毛のお嬢様ヘアー。
透の通う名北学園は小中高一貫の学校だったが、小学校から一貫して学園にいるものと中学から学園に入学したものにはちょっとした格差が存在していた。格差と言っても、別に小学校組の給食だけデザートが付いたり、水道からジュースが出たりするわけではない。小学校組は小学6年間を同じクラスで過ごしていたから中学受験組とはちょっとした壁があるのだ。
瑛梨奈は小学校組、透と忍は中学校組だった。
「ご、ごめんなさい」
反射的に謝る忍。忍は喘息気味で体が弱いからちょくちょく体育の授業を休む。同じ小学校の出身のものは事情を知っているのだが、瑛梨奈は事情を知らない。それが怠けているように見えたらしい。
「私、喘息だから…」
「喘息の生徒は体育の授業は全部休むの? そんなの聞いたことないけど? 」
消え入りそうな声で答える忍だが、瑛梨奈は取り付く島もない。
「そんなんなら初めから学校に来なければいいのに」
「ちょっと雛山さん! 」
さすがにそれは言い過ぎだろう。頭に来ちまったぜ。透が立ち上がる。
忍が体が弱いのは本当だった。実際小学校の時はちょくちょく学校を休んでいた。それでも高学年になるにつれだんだん丈夫になっていって6年生は1回も学校を休まなかった。忍は忍なりに頑張っているのだ。
「ふん。休むってことは体温計で熱があったのよね? 熱があるなら休めばいいじゃない。うつされたら迷惑だわ」
「喘息はうつらないよ! 」
さっきは喘息になるたびに休む人なんて聞いたことないと言っていたのに喘息について何も知らないなんて…透は完全にきれかけた。だが、それを止めたのは忍だった。
「だ、大丈夫だよ。喧嘩しないで」
「でも…」
「お願い…」
責められることより自分が元で喧嘩になることが耐えられないらしい。忍は目に涙をためて懇願している。そんな忍を見ていると、自分は駄目だなと透は反省した。忍の事を庇ってあげたかったのに、逆に苦しめている。こんなの親友失格だ。
「あぁもう面倒くせぇな。休むっていうんだから休めばいいだろ」
見かねた男子が声を上げる。瑛梨奈と同じ小学校組の卦子寺須直だ。
「須直? 」
「でも小原お前全然元気そうだし、次はちゃんと出ろよ。それまでに喘息っての治しとけ」
須直は忍に向かってそう言うと、瑛梨奈の頭を小突く。
「瑛梨奈も言い過ぎだぞ! 」
「ちょっとお~女の子の頭叩かないでくれるぅ~」
瑛梨奈は口ではそう言いつつも忍に対していたような厳しい口調ではなくなっている。瑛梨奈と須直は同じ小学生組と言うだけではなく、家も近くな幼馴染と言う間柄だった。心なしか須直にデレているようにも見える。あ、なんかしなをつくってクネクネしてる。やっぱり惚れてますねこれは。
「透ちゃん、その、ごめんね」
「? 」
どうやら忍は自分を庇ってくれたのに拒否してしまったことを詫びているらしい。
「私こそごめんね」
透はぶんぶんと手を振って謝った。
「なんで透ちゃんが謝るの? 」
「そんなこと言ったらどうして忍ちゃんが謝るのかもわからないよ」
というかお互いなんで謝っているのか分けが分からない。
「そういう時はありがとうっていえばいいんじゃない? 」
「ありがとう? 」
「そう、ありがとう! 」
ごめんなさいよりありがとうって言われる方がうれしいよね。同じ口癖ならありがとうを口癖にした方がみんなハッピーだ。
透はそう言って笑った。なんとなく。笑えばなんとなるものだ。
「そう、そうだね。ありがとう透ちゃん」
そう言って忍も笑った。とても素敵な笑顔だ。ほらなんとかなった。
でもその後ろで「あいつあんなふうに笑うんだな」とか言って須直くんが見惚れていて、それを見ていた瑛梨奈が「なっ!? あんの泥棒猫がカマトトぶりやがって」てなってたので人知れず虐めは加速していくのだった。なんとかなってませんね。