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第4話 狼の里長アドルフ

 大声で叫んでから数分。

 集落の中で騒ぎが小さくなり、ようやく意見がまとまった様だ。


「は、入れ!」


 ビビりながらも、二人の門兵がエドウィンを集落の中に引き入れた。


 集落の中央に大きな広間があり、そこに沢山の獣人たちが円を囲む様にして集まっている。

 そしてその中央に一人の男がいた。

 

 この獣人達の長、アドルフ。


 こうして直に目の前にして見ると、まだ若いのに妙な貫禄があった。


 エドウィンは胸を張りながら肩書きと名前を名乗る。


「辺境都市レヴェンテの領主に就任したエドウィンだ。よろしく頼む」

「ここの長をやっているアドルフだ」


 灰色の髪が風に靡く。

 眼光鋭く、まさしく狼の様だ。





名前:アドルフ

種族:狼の獣人

年齢:23歳

性別:男

称号:里長


筋力:181

俊敏:203

器用:167

体力:189

知略:140

魔力:1

幸運:32


スキル

【超嗅覚】

・嗅覚が凄まじく発達している。遠く離れた場所の匂いも嗅ぎ取る。


剣術:D

槍術:S

斧術:F

弓術:F

盾術:F


乗馬:F

軍略:E

政治:F

農業:F

商業:F

鍛治:F

建築:F

研究:F

料理:F

掃除:F

音楽:F

芸術:F


炎魔法 :F

水魔法 :F

風魔法 :F

土魔法 :F

雷魔法 :F

氷魔法 :F

闇魔法 :F

光魔法 :F

神聖魔法:F

空間魔法:F



 

 23歳と言う若さで長になり、槍術Sの才能もある。熟練度に至っては、この歳で200越えの大台だ。是非とも部下に欲しい。


 名乗り合うと妙に周囲が騒ついた。そして一人の老人が「無礼だぞ、頭を下げるのじゃ!」と言い出した。

 しかし、立場的にはエドウィンはここら一帯の領主であり、さらに王族でもある。本来ならアドルフよりも上の立場だが、今は対等な立場としておこう。


「悪いが、俺も領主として来ているんだ。軽々しく頭を下げるわけにはいかない」


 そうハッキリと告げる。

 今度は明確な敵意を含み、周囲が騒めく。

 血の気の荒い奴は今にも飛び掛かってきそうだ。


「何だと!?」

「待て。奴の言う通りだ」


 しかし、それをアドルフが一声で制した。

 一気に獣人達が黙り込んだ。


 凄いカリスマ、いや、上下関係がしっかりしているな。


 お互いに目を合わせ、少しの間沈黙が流れる。

 そしてーーーー。


「背負うってのも大変だな、お互い」

「まったくだ」


 二人してくしゃっと苦笑いを浮かべた。

 エドウィンもアドルフも、若くして人を率いる立場になった者同志、目を合わせただけで共感したのだ。


「それで今回の目的は何なんだ?」

「単刀直入に言うが、アドルフ。お前には俺の部下になって欲しい」


 遠回しに言っても無駄だろうな、と考えそのものを直接伝える事にした。


「何故だ?」

「簡単に言えば、お前が欲しくなった。是非とも部下に欲しい」

「待遇は?」

「まだ決まってないが、それなりに良い給料を与えよう。ついでに魔物に襲われない住居の提供、それが俺に出来る事だな」

「なるほど」


 アドルフが少しの間考える様な仕草をした。そして時が過ぎ。


「悪いが、お断りだ」

「……交渉決裂か?」

「いや俺達、狼牙族は書類とかそう言う細かい事で誰かの下に着く真似はしねえんだ」


 そう言えば話に聞いたことがある。

 獣人は根っからの戦闘種族。

 兎人族などの例外もいるが、大抵は好戦的で、腕っ節の強さを第一にしている種族だ。


 そして、彼らが誰かに従うとすればーーーー。



「簡単に言えば、決闘だよ」



 瞬間、久しぶりの決闘に集落が湧いた。

 ここにいる老若男女全てが、血生臭い決闘が好みで、この決闘


 一人の老人が杖を叩くと、エドウィンとアドルフを囲う様に炎のサークルが燃え上がった。

 まるで闘技場の様なリングが完成し、断れる雰囲気では無くなってしまった。

 

 エドウィンは


 見てみるとすでにアドルフは準備運動のストレッチを始めていた。


「武器は良いのか?」

「ああ。俺の武器はこれだからな」


 グッ、と拳を握って見せる。


(嘘、だな)


 本来ならアドルフの獲物は槍のはずだ。

 この男、手加減するつもりか?


 いや、それは無い。

 獣人としての性質上、手加減は最も好まない行為のはずだ。


 疑問に思いながら見ているとアドルフが視線に気付いた。


「俺が武器を使うとすぐに壊れちまうからな。いつの間にか素手で戦う様になったのさ」


 なるほど、槍術Sの才覚に槍自体が着いていけなかったのか。そこらで売っているレベルの槍ならば、Sの才覚に耐えきれずに壊れてしまうのも納得だ。


「お前は何でも使って良いぜ?」

「それじゃあ遠慮なく」

「空間魔法か」

「博識だな」

「これでも里長だからな」


 アドルフの言葉に遠慮はせずに、エドウィンは空間魔法から一振りの剣を取り出した。

 王国お抱えの鍛治師が鍛えた一振りで、品質はBランク。兄さん達が持つ剣ほどでは無いが、それでもそこら辺の店で買う一番品質の高い剣だ。

 

 その刀身の輝きを目にして、見惚れたアドルフは「ほう」と溜息を吐いた。


「それじゃあ、始めるか」

「いつでも?」


 これから戦いが起きる間際にだけ感じる、冷たい沈黙が二人の間に流れる。


 炎の円の大きさは大体家一軒程度。エドウィンとアドルフの間には十歩ほどの空間があった。流石に一歩目から切り掛かるのは無理そうだ、とエドウィンは作戦を頭の中で組み立てる。

 

 一呼吸置いたのも束の間、最初に動いたのは意外にもエドウィンだった。


 発走しながら五十羽のスカイバードを召喚し、アドルフに向けて放った。


「あァ!?」


 流石にエドウィンがテイマーだとは思わなかったのか、スカイバードが現れた事に驚きの表情を作った。と言っても、スカイバードの特攻に攻撃の意図は無い。そもそも弱いので、アドルフは避けさえしなかった。

 エドウィンも攻撃させる気がなかったので、アドルフの皮膚スレスレを飛行させて、その後は上空まで飛ばした。


「へえ」


 そして、その頃にはアドルフの視界からエドウィンが消えていた。


 おそらく、あの大量のスカイバードは目眩しだ。

 一瞬でも視界を塞ぐ事で素早く移動し、姿を隠したのだろう。


 その仕組みはすぐにアドルフは理解して、動いた。


「まっ、そう来るよな」

「ッ!」


 次の瞬間に鳴ったのは、鉄と鉄がぶつかる甲高い音だった。

 

 エドウィンはスカイバードでアドルフの視界を塞ぐと背後に周り、すかさず不意打ちで背後から切り掛かったのだ。


「へっ、本気で打ち込んできやがったな」

「……そのくらいしないと倒せないだろ」

「分かってんじゃねえか」


 しかし、今は不意打ちがバレた事よりもエドウィンの意識は剣を軽く受け止めている、アドルフの爪に意識は向いていた。


 エドウィンは剣は下手では無い。どころか剣術D程度の力は持っており、それに合わさって品質Bの剣だ。まともに受ければ、鉄にだって傷を付けれる。だがアドルフの爪は強靭で、傷ひとつ付いていなかった。


 驚愕と同時に納得とする。


 槍の方が得意なはずなのに、素手での勝負を挑んだのは、この爪がある故の自信か。と。


「“黒煙”!」


 エドウィンは数ある選択肢の中でこのまま鍔迫り合いをしていても分が悪い、と闇魔法を使う事を選んだ。

 エドウィンを中心にして、黒い煙が広がり、サークルの中を覆い尽くした。


「な、何だ!?」

「何も見えねえ!」


 観戦していた狼牙族からも驚きの声が漏れた。

黒煙は視界を真っ暗にする。それと同時に、アドルフのスキル【超嗅覚】を防ぐ目的もあった。


「ああ!? どこ行きやがった!?」


 アドルフが強引に腕を振るって黒煙を飛ばそうとしているが、逆に黒煙はまとわりついている。

 この場で正確に相手の場所を把握しているのは、術師のエドウィンだけだ。


「そんじゃま、始めますか」

「っ、そこかぁ!!」


 アドルフは声が聞こえた方向にほぼ直感で攻撃を放ったが、そこにエドウィンはもういない。


「闇魔法 黒矢ダークアロー!」


 生み出されるのは、黒い矢だ。

 3本の矢が一斉にアドルフに襲い掛かる。


「チィ!」

「まだまだ!」


 だが、アドルフは簡単に弾いてみせた。

 弾かれた黒矢が周囲に散らばり、軽く悲鳴も聞こえたが流石に戦闘種族だ。直撃は食らっていまい。

 

 エドウィンはそれから十三発の黒矢を放ったが、アドルフはその自慢の爪で軽々と弾いた。


「チッ、いつまでやるんだよ」


 いつの間にか、煙が晴れていた。

 二人の姿はハッキリと、観客からも視認できた。


「ま、だだっ!」

 

 エドウィンは最後、全ての力を振り絞った一撃ダークアローを放つ。


「馬鹿の一つ覚えかよ」


 しかし、アドルフはそれを簡単に弾いた。


 渾身の一撃だった。

 最後の一撃が、こんなに簡単に……。


 だがまだだ。エドウィンには剣が残っている。

 これで必ず、アドルフをーーーー。


「え?」


 世界が歪んだ。


 エドウィンは魔力切れを起こした様で、地面に膝を突き、動悸が激しくなる。眩暈が起こり、上手く立ち上がれない。


「くそ、何で! 何でだよ!」

「はあ。最初から近接戦でやりゃあ、まだ可能性もあったかもな」


 立ち上がれないエドウィンに対して、アドルフはゆっくりと歩み近付いた。その手から鋭く輝く爪が、エドウィンの頭上に上がった。


「じゃあな」


 アドルフは決闘をした相手に最大限の敬意として、即死させてやるために、腕を振り下ろしたーーーー。






























「なーんちゃって」



























「は? っ、グゥゥオッ!!?」


 エドウィンは何でもなさそうに立ち上がったのだ。

 驚く暇もないほどの速度で、何かがアドルフの動きを封じた。アドルフの体にまとわりつく感触が間違っていなければ、これは糸だ。

 その間、エドウィンは「はーあ、服汚れちまったよ」と言って、膝に付いた泥を手で弾いた。自分に集まる視線に気付き、ニコリと笑いながら種明かしをする。


「ご明察。これは闇魔法の“念糸ねんし”ってんだ。その名の通り、糸を作る魔法だ」


 実際に左右の指と指の間に糸を作ってみせた。


「いつだ、一体いつからだ!?」

「ん? えーと、お前が俺の剣を受け止めたときからかな」


 アドルフの意図を理解し、何でもなさそうに答えたエドウィンの言葉に、皆が絶句した。


 これは簡単な作戦だ。


 エドウィンはまず、黒煙で視界を防いだ。これには三つ目の目的がある。一つ目は視界を封じる事、二つ目はアドルフのスキルの妨害、そして三つ目が糸を隠すためのものだ。

 すぐさま闇矢を用意し、アドルフに向けて放つ。

 この時、アドルフは目が見えていなかった。そのため、シオンが黒矢の後ろに付けた糸に気づかなかったのだわ

 発射してからアドルフが弾い黒矢がどこに突き刺さるのかを計算し、この様にいつの間にか出来上がった糸の檻を完成させた。


「そんな、化け物かよ……!」

「失礼な。俺は普通の男だよ」


 言いながらエドウィンは剣の切っ先をアドルフの首に当てた。模擬戦なら、切ったと判断されて勝負アリだ。さて、アドルフはどう出る?


 エドウィンはアドルフの反応を待つ。

 その場に途轍も無い緊張感が流れた。


 そして……。


「っ、く、クハハハハハハハ!!!」


 アドルフの笑い声が響いた。


 何が可笑しいのか、自分で自分の額をパンパンと叩いている。


「完敗だ! こんなに完璧に負けたのは親父以来だぜ!」


 その後も一通り笑うと 


「ただよ、一つだけ聞かせてくれ。アンタは何を望む? 何を目指しているんだ?」


 これから従う者に対してどこに向かうのか? それは泥舟では無いのか? 聞がなくてはいけない。それは里長としての責任として出た質問だった。


「俺はただ、「領主が何もしなくていい街づくり」を目指してるだけだよ」


 予想外の答えにアドルフは思わずにやけてしまった。

 その理想の意味、理想の果てに何があるのかが分かったのは、この場ではアドルフだけだった。


「ならば、俺達は従おう。我らが王よ」


 アドルフが率先して首を垂れた。狼牙族は皆、里親であるアドルフに続いて続々と頭を下げた。


 こうしてアドルフが仲間になった。


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