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現にネットで見ると入居者を募集しているところはいくつもある。
少し離れたところにも、選び放題にあるのだ。
それなのになぜ往復三時間近くかかるこの妖怪荘と言う変な名前のアパートに住んでいるのか。
それが三谷にとっては不思議だった。
その理由を聞きたいと思ったが、それを本人に聞く勇気は三谷にはなかった。
ある日三谷はふと思った。
三谷が来る前にはこの妖怪荘には管理人一人しかいなかった。
そして九津が来た。
九津は最初、全くと言っていいほど外出をしなかった。
ここ最近は逆にアパートにいることがほとんどないが。
しかし最初にほとんど外出をしなかったということは、どこかに勤めているとは考えにくい。
そして亀田もほとんど部屋からは出ないようだ。
二人とも仕事はどうしているのか。
在宅ワークと言う可能性もないわけではないが、あくまで見た印象だが、そんな雰囲気には見えない。
猫山は出かけない日もあるが、出かける時は朝早くからここを出ている。
片道一時間以上かけて大学に通っているとなれば、それも当然だと言えば当然なのだが。
常駐の管理人と猫山はともかく、九津と亀田の生活サイクルは普通ではない。
それにこのアパートの住人は全員が容姿、そして雰囲気がまるで普通ではない。
入ってきたときは、三谷一人だったというのに、二か月もたたないうちにこのありさまだ。
――うーん。
三谷はなんとも不可解だった。
ある日、また新しい入居者が来た。
その年齢は九津と変わらないくらいだろうか。
管理人のような日本人離れした顔ではなく、九津のように純日本人と言った感じでもなくその中間と言ったところなのだが、とにかく飛び切りの美人だ。
――うそっ!
結果としてこの妖怪荘に住んでいる四人の女性が四人とも、女優やアイドル顔負けの容姿なのだ。
――いったいなんなんだ、ここは。
三谷は驚きを通り越して呆れてしまった。
名を小野塚雪と言う。
そして小野塚は七号室に入った。
九津の隣であり、九津につぐ二番目の二階の住人だ。
――なんでここには飛び切りの美人ばかり来るんだ?
三谷にはわからなかった。
そして男は三谷以外は亀田一人である。
亀田は管理人を含む四人の超絶美人をいったいどう思っているのだろうか。
三谷はしばらく考えた。
そしてこう思った。
亀田は四人の美女のことを、特に気にかけてはいないだろうと。
それに四人目の美女が来たからと言っても、三谷の関心は猫山一人なのだ。
今までととりたてて変化はない。
三谷は猫山以外は気にしないでおこうと思った。
ある日、三谷が会社に行こうとアパートを出た時に、気づいた。
――なんだあれ?
地面の上に白いものが見える。
近づいてみると、ある一面だけ地面が白くなっていた。
地面の上に白いものがあるのだ。