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一か月や二か月で出張が終わるわけがない。
おまけにここに来てからまだ一か月だ。
それなのに少し焦り始めている自分に三谷は気がついた。
――落ち着け、落ち着け。
がっついては駄目だ。
そんなのは嫌われるだけだ。
三谷はスマートにゆっくりと彼女と親しくなることを考えた。
恋する若い男性。
もうだれにも止めることはできない。
猫山の部屋は二号室だ。
管理人の隣。
管理人をはじめここには四人すんでいるが、いまだに二階にいるのは九津一人だった。
三谷は仕事以外のほとんどの思考が猫山みみでしめられてしまった。
しかも他の住人よりも猫山に会う機会が多かった。
仕事の帰りや買い物などでアパートを出入りするときなど、とにかくよく猫山に会った。
もちろん猫山をストーカーしていたわけではない。
そんな無粋なことは、三谷はしない。
偶然なのだが、恋する三谷は必然を感じ始めていた。
これは運命なのではないかと。
三谷があいさつすると猫山は少女の笑顔で返してくれる。
それが何度も重なったため、三谷の中の妄想が膨れ上がっていた。
一歩間違えればストーカーになるような思考に。
付き合っているわけではなく、世間話すらほとんどしたことがない。
ほぼあいさつだけと言っていい状況なのに。
ただ三谷がストーカーと違うのは、今は全く付き合っているわけではないということを十分認識しており、猫山を付け回すようなことは決してしなかったことだ。
――うーん、なんとかきっかけをつくらないと。
三谷は毎日そればかりを考えていた。
しばらくして玄関先で亀田に会った。
「こんばんは」
「こんばんは」
そのとき三谷は、ちょっとよからぬことを思いついたのだ。
三谷は言った。
「亀田さん、今度新しく入ってきた猫山さん、とっても可愛いですね」
「うん、可愛いな」
亀田は明るくはっきりとそう答えた。
その反応は、猫山のことを本当に可愛いとは思っている。
しかしそこには恋心や下心はない。
三谷はそう感じた。
――これでライバルが減ったのかな?
二十歳になるかならないかの女の子が、三十代の男に恋するとは考えにくいが、女性の好みと言うのはわからないものだ。
おじさん好きの女の子だって中にはいる。
しかし亀田が猫山に対して異性としての関心がないのなら、その可能性はより低くなるだろう。
三谷は我ながら妙な勘繰りをしたものだと思った。
亀田が猫山に関心がないのは少し不思議だったが。
――あんない可愛いのにな。
男の好みと言うのもいろいろだ。
三十代で年上好きという男もいる。