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この周りには山と空き地しかないのに。
「あら、こんばんは」
やけに色っぽい顔と声でそう言うと、腰を振りつつ三谷の横を通り過ぎ、自分の車に乗り込み発進させた。
後ろ姿も露出度が高く、あと少しでパンツが見えそうだった。
――やっぱり魔性の女か。
どう見てもそうとしか見えない。
管理人や亀田さんがいい印象を持っていないはずだ。
そんなことはないとは思うが、ひょっとしたら三谷にもちょっかいを出してくるかもしれない。
その時はその手には乗らないでおこうと三谷は心に決めた。
隣の亀田は会って話すと、声もテンションも高めだが、普段部屋にいる時はいたって大人しかった。
古くて防音が行き届いているとはお世辞にも言えないこのアパートだが、亀田は部屋にいても何一つ物音をたてることがなかった。
――えらく大人しい人だな。
と思ったが、もちろん不満はない。
隣人が静かなのとうるさいのとでは、静かなのがいいに決まっている。
それに毎日散歩をしているようだ。
散歩と言っても道ではなく、アパートの北、東、西にある森を歩いているようだ。
健康的で紳士的な人だと三谷は思った。
ただ他の住人と同じで、仕事は何をしているのかは全く分からなかったが。
三谷の仕事は相変わらずだ。
上司二人で半分は事務、半分は商品の移動だ。
上司は無口で大人しい人で、感情を表に出すこともほとんどない。
一緒にいてストレスを感じることはないが、刺激も一切ない。
周りも自然だけは豊かだが、都会的なものや文化的なものはまるでない。
三谷は出張一か月で、もう地元に帰りたくなっていた。
そんなある日、妖怪荘にまた新たな住人が入ってきた。
それを一目見て三谷はびっくりした。
小柄でスレンダーな体の上にある小顔が、とてつもなく可愛い。
目も鼻も口も可愛らしく、それが合わさるとさらに可愛さが増している。
年齢は二十にいくかいかないかぐらいに見えた。
笑顔も可愛らしく、まるで無垢な少女のようだ。
三谷は生まれてこのかたリアルでも芸能人でも、こんなにも可愛いらしい女性を見たことがなかった。
名前は猫山みみと言う。
名前の通り、どこか子猫を連想させるところもある女の子だ。
「猫山みみです。よろしくお願いします」
声も人気声優のようだ。
そうかと言って思いっきりアニメ声と言うわけではなく、自然で聞き心地が良い声だ。
「どうも、三谷です。こちらこそよろしくお願いします」
三谷はそれだけ言うのが精いっぱいだった。
三谷は一目で恋をした。
二十四歳の男性にしては異性に対する興味が若干薄い三谷だったが、そんなことはなかったかのように猫山みみに対して興味があふれんばかりにわいてきた。
綺麗に言えば恋心。
言い方を変えれば下心。
二十代の男性が究極に可愛い女の子に会ったのだ。
そうならない方がおかしい。
おまけに同じアパートに住んでいるなんて。これをチャンスと言わずしてなんと言おうか。
――出張はいつまでだったかな?
数日前まで地元に帰ることを考えていたのが嘘のようだ。