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釣り竿も持ってきていた。
アパートから歩いて五分くらいのところに、ちょっとした池がある。
そこにはフナやコイがいるようなのだ。
ため池に近くて水が澄んでいるとは言えないが、化学物質や廃棄物でそうなっているわけではないので、その点は心配がない。
三谷は前もって捕まえておいたミミズを餌に、釣りを始めた。
釣り針を池に投げ入れる。
もちろんすぐにあたりがあるわけではない。
そんなのはまれだ。
しかししばらく待っていると、うきが動いた。
――んっ、いやまだだ。
そして魚が完全に釣り針を飲み込んだと思えるタイミングで、引き上げた。
それは50センチあろうかと思えるコイだった。
――おおっ、すごいのが釣れたな。
三谷はアパートに持ち帰り、食べることにした。
そして餌をつけて釣り針を再度投げ込んだ。
その時である。
池から何かが浮かんできた。
それはすぐに沈んだが、一瞬見えたそれは三谷には亀の甲羅に見えた。
池なら亀がいてもなんら不思議はない。
しかしその亀の甲羅は1メートル近くの大きさがあったのだ。
海ならともかく山中と言っていいところにあるそれほど大きくない池に、そんな大きな亀がいるわけがない。
――なんかの見間違いか?
そう考えていると、今度は人間の頭のようなものが水上に姿を現した。
しかしそれもあっという間に水中に姿を消した。
――えっ?
今のはいったいなんなんだ。
この池にはなにかとんでもないものが生息しているのか。
それとも木とか他の生物を見間違えたのか。
三谷は釣りそっちのけで池を凝視した。
結構長い時間そうしていたが、その後は大きな亀の甲羅のようなものも、人間の頭のようなものも姿を現すことはなかった。
いくら考えても腑に落ちないし、わけがわからない。
しかし不可解なものを見た人間の一般的な心理が三谷に働いた。
――なにかを見間違えたんだな。
そういうことにした。
しかしそれ以上は釣りをする気分にもなれず、三谷は帰ることにした。
そしてコイをさばいて食べた。
美味かった。
ただ三谷は、あの池でもう一度釣りをしようという気にはなれなかった。
次の日、管理人に会った時三谷は思わず「あそこの池には何かいるんですか?」聞こうとしたが、すんでのところでおもいとどまった。
そんなものがいるはずがないし、そんなことを聞いたら変な奴だと思われると考えたからだ。
ただ普通にあいさつをした。
管理人も柔らかい笑顔で返してきた。
いつもの通りに。
ある日、仕事帰りにアパートの入り口で九津に会った。
今からどこかに出かけるようだ。
豊満なふくらみを見せつけるかのように、胸元が大きくあいたミニの真っ赤なワンピースを着ていた。
その見た目は、まるで風俗に勤める女のようだった。