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妖怪荘に住む妖怪たちと俺  作者: ツヨシ
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三谷は本当に遠くに来たと思った。

三谷が大学を出て就職した会社は二年ともたずに倒産した。

そこで改めて入社した会社だが、基本的には地元勤務。

たまに出張に行く人もいるが、割合としては少ない。

なので三谷は自分には関係なく、このまま地元で仕事をすると思っていた。

ところが数か月後に辞令が出た。東北出張所への長期出張だ。

この会社の支社としては本社から一番遠くにある。

行きたくはないが、もちろん断ることはできない。

スーツケース一つで行くことになった。母親を一人残して。


行く前から田舎だとは思っていたが、行くと本当に田舎だった。

東北のおまけに市でもなんでもないところ。

三谷はなんでこんなところに四国に本社がある会社の事業所があるのかと思った。

いいところは地元と比べると道の本数が圧倒的に少ないのですぐに覚えられるところ。

それくらいしか思いつかない。

それに三谷は映画と本とカラオケが好きなのだが、四国とはいえ県庁所在地に住んでいたので、スクリーンが七つある映画館、巨大古本チェーン店、レンタルビデオ屋、カラオケボックスには休みの日にはよく行っていた。

しかし会社からあてがわれた下宿からは、レンタルビデオ店やカラオケボックスに行くのに、一番近い場所で車で片道一時間以上、巨大古本屋や小さな映画館に行くには片道二時間以上かかってしまうことがわかった。

地元じゃどれも車で五分くらいで行けたのに。

カラオケなんて家から歩いて一分だ。

五分以内なら五、六か所あった。

休みの日に車で往復三時間近くも五時間近くも正直きつい。

三谷はそう思った。

――しょうがないか。

車で少し走ればスーパーもコンビニもある。

ないのは娯楽だけだ。

ずっといるわけではないと、三谷は自分に言い聞かせた。

そして下宿の名前が妖怪荘。

いったいどんなセンスでこの名前にしたのか。

下宿代は会社持ちなので文句は言えないが。

古いアパートで二階建て。

一階も二階も五部屋あるので、全部で十部屋だ。

ワンルームでバス、トイレ、台所付き。

部屋は思っていたよりも広かった。

そしてその妖怪荘には管理人と三谷の二人しかいなかった。

管理人が一階西端の一号室。三谷は一階東端の五号室だった。

東に窓があるのはこのアパートでは五号室と二階の十号室しかない。

このアパートではいい部屋なのだろう。

そしてその管理人が、首藤さよりという四十代の女性。

目が大きく鼻筋が通り、肉厚の唇をもつ西洋人の血が入っているのではないか、昔に女優やモデルでもやっていたのではないかと思えるほどの美人だった。

スタイルも四十代とは思えないほどにいい。

話し方も柔らかくて丁寧だ。

三谷が二十四歳でなければ惚れていたかもしれない。

――ここで一番の収穫は、この管理人だな。

会えばいつも笑顔で挨拶をしてくれる管理人に三谷は救われた思いだった。


ところがある日、三谷が何げなくカーテンを開けて、地元よりも綺麗な夜空を眺めていると、目の前を管理人が通った。

この部屋は一階だし、アパートの周りはただの平地なので、そこを管理人が通ったとしてもなんら不思議はない。

ただその時の明かりが三谷の部屋の明かりしかなかったのは確かだが、三谷には管理人の首だけが浮いて移動しているように見えたのだ。

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