22.日常 2
「うららららららららああああああああ!!」
奇声を上げて走って獲物を追い詰める。猪っぽいこいつは臭いが旨く、量も多い。
何度か襲われた事があったが、そのたびに返り討ちにして頂いていたら、最近は俺の姿を見て逃げる様になってしまった。
見た目としてはヤッケを着て山仕事をする作業員にしか見えないはずで、武器も隠しているので見えてないはずだが、最近は俺そのものが危険と思われているようだ。
戦い方は簡単で、要は毒である。トラバスさんが嫁いだ冒険者のチームに教えてもらった毒草を磨り潰して、それがドロッとするまで煮詰めた黒い粘々が体内に入ると、そこから痺れていき、最終的には動けなくなるという割とエグイ効果を発揮する。
造り方は前世の動画で見た、アマゾンの住民たちが作っていた方法を参考にしている。
猪や人間サイズが動けなくなるほど麻痺させるには、傷口から接種(接種)させる程度では全然足りないが、足一本の動きが鈍くなるだけで途端に相手が弱くなるのでこれは今後も重宝しそうだ。
毒草がレアなのでそんなに数は作れないが、たまに出る猪に使う程度にはストックがある。
今追いかけて追い込んだ先には棘状に削った杭に毒薬を塗ったトラップまで追い込んでいる所だ。猪が走りやすいように、又横にそれない様に整備した道も作っておいてよかった。
隠れた杭で傷ついた猪はしばらく元気に走っていたが、次第に速度を落として明らかに弱って来たので少し離れた所から棒クナイモドキを投擲していく。
戦場から持ち帰った鉄クズを焼き入れ直したり、削ったりして作った棒クナイモドキは長さも太さもバラバラで使いにくいが、ダーツの矢の様に先端を重くしたり、持ち手に滑り止めを巻いたり試行錯誤して俺のような素人でもなんとか、限定的な使い方でなら使える武器となった。
構えが必要があるし、思いっきり投げないと威力出ないし、5mも離れると狙った場所から2~30cmほどズレる。多分戦闘とかでは使えない。
それでも、動けなくなった猪の眉間にクリーンヒットすると、クナイ全身が陥没する威力がある。クナイのお尻に引き抜くためのヒモを付けているのでちゃんと回収も可能だ。夜の研究の成果が出たので大満足である。
まだ夕暮れには早い時間だが、なかなかさばき応えのある獲物なので、今日の帰りは遅くなりそうだ。
もうほとんど日が落ちて暗くなった頃に家に付いた。肉はズタ袋に入るだけ持って帰路に付いている。
足の間に肉入りのズタ袋をおいて、夜の平原をゆっくり進む。
高くボードを飛ばせば障害物も無く進めるが、山仕事で魔力を使いまくったので温存しないと家に付く前に空になってしまう。
普段は両手のブロアーは加速と補助に使うのだが、今は補助の姿勢制御にだけ使う。自転車程度の速度で進んでいると太陽の光が完全に見えなくなり、代わりに月が顔を出す。
この世界の太陽と月はそれぞれ3個づつ、同じ位置を東から西に回っている。いろいろおかしいとも思うが、ここは異世界、そんな事もあるだろう。月も影が出来ないので光星なんだろうが、科学的にも前世と違う物理法則なんだろうか?それとも星にも魔力的な作用が働いているのだろうか?
どうでも良いことを考えていると最後の丘を超える。遠くに蛍の様な光が点々と見える城下町と、その城壁外に広く点在する民家からポツポツと明かりが見える。
城は前世のビルの様に明るい。
魔道具由来の光は前世に引けを取らないほど明るいが、一般人が使う明りは豆電球程度だ。その控えめの光量が星の様に見えるこの夜景を見るこの気持ちは何と言うのだろうか?
なんだか夜を独り占めしている様な、いい気分だった。
クラリサさんが作ってくれた晩飯に猪肉を追加して豪華な晩飯を堪能する。
みんな晩飯は済ませていたが、猪肉を見て二度目の晩飯を喜んで食べていた。
戦場で学んだ「食えるときに食う」はみんなの共通認識だ。




