19.バンドマンのギルダム
前世ではバンドマンをやっていた事がある。2か月くらいやっただけで、ライブ経験も1回だけだが、一応チケットを売って聞いてもらったのでバンドマンを名乗っていいだろう。
一般人より1㎜だけ音楽に関しての知識がある程度であるが、音楽のすごい所は知識なんて関係ないところにある。
時に言葉や行動より他人の魂を一斉に震わせるそのパワーを目の当たりにしたことがある人はよくわかるだろう。
たった一人の人間が響かせる歌声にそこにいる人たちが一斉に湧き立つ。始まりのワンフレーズを聞いただけでしびれる歌を聞いた時、いつの間にか気持ちが逸る。雑多な騒音の街中で聞こえてきたかすかな歌で気分が上がる。
この世で聞いた音楽で一番だと感じた曲を弾いていた男と目が合う。
「いいですね。」
それだけしか言えなかった。
男は頷く。
返事を待っていたら、男はまた弾きだした。どうやら口下手なタイプらしい。
ちょっと我慢大会みたいになってきた。
赤茶色の長髪を後ろに流して、丸眼鏡をかけた彼の額には汗がにじんできている。
私はその前に座り込んで通算4週目に入った同じ曲を清聴している。
もしかして「いいですね」ってこの世では「アンコール」と同意何だろうか?それにしては回数が多いが。
それともシャイすぎて女の子と話すのが苦手とかだろうか?ちょっとどうしたらいいか分からない。分からないからと黙っていると5週目も行きそうなので曲の終わりに切り出してみるか。
ポーン♪と最後の音が鳴る。
「私はラルザと申します。」
いつものにっこり笑顔で、場所の雰囲気からちょっと上品な感じで挨拶してみる。貴族ならこれで返してくれるはず。
男は頷いた。そしてギターに視線を落とす。おいまてこらw。
「お名前を教えていただけませんか?」
男はこちらを見て「フッ」とか言いながら髪をかき上げる。おやおや?
「某はギルダム。ギルと呼んでくれたまえ、ラルザ嬢?」
急に濃い~のが来たな。え?何?口下手とかシャイなんじゃなくて褒めてくれて嬉しかった感じですかね?それで5週目弾こうとしてたのか?
一人称の某とかラルザ嬢とかもうツッコミ所が多すぎるな。
こいつ面白いな。
「ギル様、先ほどの曲とても素敵でしたわ。それほどの腕前になるには並大抵の努力では到達できませんわ。きっとギル様の努力と才能が素晴らしいのですね!」
気分は縦ロールよいしょ令嬢だ。素晴らしいのは本当だし、きっと並大抵の努力では到達しない完成度だと思うのは本当なので、無理やりでも嘘でもない。
つまり普通にほめてみる。きっとその方が面白い。
「ふっ、ふふふ。そうか、ラルザ嬢にはこの良さが分かるのだな!よし、明日からもここへ来て私の旋律を聞きに来るといい!」
ほうほう、どうやら視聴者に飢えているようですな?
「ありがとうございます!ギル様!では、今度お友達もお連れしてご清聴させていただこうと思います!」
「え…、いや、君だけで、君だけの為に奏でたいのだ!ぜひ君だけで来たまえ。」
あれ?ちょっと外したか?なんでキョドるんだ?
どうやらギルさんは一人に聞いてほしいタイプらしい。音楽やってる人って、より多くの人に聞いてもらいたい欲の人しか居ないと思っていたのだが、世界は広いということか。この世界だからか?
まだまだ常識や感性に疎い所がある、前世で30何年、この世でまだ1年だ、ギルさんの反応はこの世界では珍しいものでも無いのかもしれない。
では、次も一人で来るとして、せっかくこの世で初めてであったバンドマンだ、もう少し話してみよう。




