18.ヤンキーからの逃走と新たな出会い
一国の王子と真剣で試合する物語はよくあるだろう。リアルでも歴史的にはあったりするんだろうが、少なくとも偉人だろう。こんなチンチクリン小娘と他国の王子が試合して良い事なんて何もない。
超断っているのだが、めっちゃしつこい。
ナンパされている女子の気分だが、「君、綺麗だね?」と言う甘い文句じゃなくて、「お前をボコる」と言う威圧の文句だ。逃げるが勝ちである。
上手く言いくるめが出来れば良いが、相手は一国の王子である、押しが強そうなので断れる気がしない。
こんな時は脱兎の如く逃げるが勝ちだ、物理的に聞こえ無いお願いは聞いてないで通せる。ガッツリ聞いた気もするが、戦場なら誤差の範囲だ、大丈夫ダイジョウブ。
こんな時が来ると思っていなかったが、こんな時の為に考えていた脱出経路を使う。
まずは退路である後ろへダッシュ。女子トイレへ入ると、窓から飛び降りる。後ろから何か聞こえた気もするが聞こえてないのでセーフ。
服の下に忍ばせていたロープを、事前に確認していた壁の突起にかけて2階からスルスル下りる。
校舎裏の駐馬車場で身をひそめ校舎の出入り口を観察する、追っては来てないようだ。
今は放課後、これから生徒達は部活にはげむのだが、俺は帰宅部なのでさっさと帰る予定だ。
いつもならシュリ―と、たまにアルバーとも昼飯を食べに行くつもりだったが教室前でトロトイ国のヤンキーに絡まれたので、シュリ―もわかってくれるだろう。
今日はこのまま帰ろうと校舎裏から遠回りしてボードを取りに預かり所へ向かう。
本来は剣や鎧を装備しながら学園に用事がある人が、一時的に装備を預かってもらう場所だが、私は毎日使わせてもらっている。
ボード自体には価値は無いのだが、ブロアーや魔石が高価なのでそれ単体ならば売れるので用心する必要がある。
ちなみに、このフロートスケボーを売ったら一儲けできないか?と商人に聞いた所、危なすぎて売れないとの事。
売値的に貴族などの偉いさんしか買えないし、そんなお客さんにケガさせる様な商品は売れないとの事だ。言われてみればそんな気がするが、コケるのは自己責任では?と食い下がってみると、そもそもなんでコケないのか?と逆に不思議がられた経緯があって商品にはならなかった。
両手のブロアーで姿勢制御して爆走する姿は結構イカスと個人的には思っているのだが、どうやら暴走族の独りよがりと一緒だった様だ。いいもん、迷惑かけない範囲で俺が楽しむもん。
そうだ、今日も風になって帰ろうと考えながら遠回りで、普段通らない道から預り所へ向かっていると、デカい金髪の後ろ姿と、スラッとした緑短髪の後ろ姿が見えた。
どうやら預り所受付の死角から待ち伏せしているらしい。俺がボードを預けている事まで知っているとかストーカーかよ。
なんかひそひそ喋っているが、ここはいったん退却である。どっかで時間をつぶしてからまた戻ってくるとしよう。
校舎に居ない事が分かったので、適当にぶらぶら散歩してみる。
今まで授業以外で教室以外に行くことがなかったので、新鮮で楽しい。探検しながら新しい景色、発見を楽しみながら気の向くままに進んでいると、どこぞから普段聞きなれない音楽が聞こえてくる。
校舎内には所々管が通っていて、校内放送を流したり、休み時間に音楽を流した入りしている。
音楽はピアノや管楽器の生演奏をどこぞかでやっていて、それが聞こえる仕組みだ。
この管を作る技術があれば蒸気機関が作れそうだと画策しているのだが、元手が無いし、そもそも誰に聞けば取りつないでくれるのかもわからないので、今は妄想しているだけだが。
聞きなれない音楽は、その管からではなく1ヵ所から聞こえてくる。
弾く音、滑る音、複数の音の共鳴。この世では初めましてだが前世ではよく聞いた音の正体はギターだった。
教室の半分程度の小さな丸い部屋の片隅で男がギターを弾いている。前世でだと「アコースティックギター」と分類されそうなそのギターの音色は前世を思い出させる。
父親は居酒屋で店主をやっていた。そこで自作した曲を披露するのが好きだった父親。
俺が社会人になる時「何があっても味方でいてやる。」ドンと行けと言ってくれた父親だった。
言いってくれたから全てが上手く行く様な魔法の言葉ではなかったが、しんどい時にその言葉を思い出して心が軽くなった。
いい思い出だ。何で心が軽くなったのか当時はわからなかったが、今は何となくわかる。
人は、絶対に、問答無用で受け入れてくれる人が一人でも居ると感じると、一人で悩まなくなる。べつにその人に、俺の場合父親に躓く事に相談するわけではなくて、怖くなくなるのだ。
そうそう、失敗を許してくれる人だ、それがとても支えになる。失敗しても大丈夫だと、君は君のままで居てるだけで良いんだと言ってくれる人がいればとても心が軽くなるだろう。
父親は少しスパルタンな部分もあったので、何でも良しとはいかなかったが、それでも俺は助かったのだ。
前世では達成できなかったが、この世で俺は、受け入れれる人になりたいものだ。
知らない曲を懐かしい音で奏でていた男は途中で俺に気が付いたようだが、俺が何もせず聞いていると演奏を続けた。
4拍子とかビートとか全く関係ない曲だったが、激しくなったり、遅くなったり、緩やかになりながら早くなったりと、聞いていると面白い。
ポーン♪と1音が最後に弾かれ、それが聞こえなくなると男と目が合った。




