あの日は雨が降っていた。いや、たぶん、きっと。
「とっとと出ていけ!この詐欺師が!」
「はぁ?なんてこと言うんだよ!今まで一緒にやってきた仲間じゃないか!」
「いったいどの口で言ってんだクズ野郎がよ!いいから出ていけ!同じ空間にいるのも虫唾が走るわ!」
追い出されてしまった。一体僕が何をしたんだというんだ。ちょっとパーティーの費用をちょろまかしたり、ちょっと経歴を大げさに言ったり、間違って仲間の物を使ったことがあったりするだけじゃないか。それだけで追放とはずいぶんと心が狭いんじゃないですかねぇ。
僕は街で最強とも噂される「煌めく洞」に在籍している・・・していたダマキ。たった今無職に転落しました。まぁ何とかなるだろう。経歴はばっちりだししばらくはゆっくり戦闘から離れるのもいいかもしれない。前から興味あったし商売してみたいんだよな。とりあえず当座の金を用意しなきゃいけないな。
ふむ、売るか。どうせ要らないし。
こうしてとりあえずの金を手に入れた僕は商品を仕入れることにした。最強のパーティーで在籍したとなれば顔も利くし、人脈もかなり広い。うまく活用すればいろいろ楽だろう。と思ったのだがあいつらに僕のことを言いふらされる前に商品を手に入れてほかの街に行くことにした。そうと決めれば善は急げ。たぶん今までで一番早く行動したんじゃなかろうか。商品、運ぶための馬車と荷台、すべてを揃えてとっとと出発することにした。
どうせなら少し遠い街に行くことにした。目指すは「カンナの街」、シモツケの森を通るとかなり早くたどり着けるが、それなりに高レベルのモンスターが出る。通り抜けるだし準備もそろえているので大丈夫なはず。悪い予感というのは考えないようにしても起きる。そう、今目の前にいる「ガンユウ」は最悪の想定に入る。風貌は熊だが、体躯、凶暴性ともにはるかにそこらの熊をしのぐ。両腕を失ってなお戦う闘志に畏敬を込めて、ガンユウと呼ばれている。更に事態を悪化させるのはなぜか襲われていて、とりあえず馬車の中に入れた少女だ。弱肉強食はこの世の常。少女には悪いが素通りする気だったのだが、積んでいたものに惹かれたのかあろうことかこちらに標的を変えやがったのだ。仕方がないので倒すしかない。
少女は碌な戦闘力を持っていない。一応魔法は使えるようだがガンユウの前では木の棒と大差ない。だが僕も少女を笑えた装備ではない。なにしろ、一気に駆け抜けるつもりだったのだ。あまり使いたくないが仕方がない、使うか。
幌馬車の中から出したのは「ブローニングM2重機関銃」改め「雷門」。ブローニングを威力を上げつつ軽機関銃の如き使いやすさを実現した至極の一品だ。ちょっとした賭けの代金代わりに貰ったものだが、存外使い心地がよくて今や手放せない相棒ならぬ相銃である。これがあればそこらのモンスター程度軽くひき肉にできるのだ。そこらの魔物なら、だが。残念ながらガンユウはシモツケの森の中でも上位に位置する化け物である。ガンユウの口からはバチバチと電気が舞っている。ガンユウを化け物と呼ばれる所以はその圧倒的な物理戦闘能力に加えて、魔法を使用するところにある。その口から放たれる電撃は落雷に匹敵する威力を持つ。
「化け物退治と行こうじゃねぇか。熊公よぉ!」
咆哮代わりに放たれる電撃をかろうじて避ける。視線から外れた僕を探し、首を振るガンユウの後ろに回り込む。そしてそれだけの隙があれば十分である。雷門が火を噴く。重い振動と音が心地よい。本来は三連バーストを駆使するものだが、ガンユウに関しては三連バースト如きでは怯みもしないので、フルオートで一気に撃ち尽くす。十秒と経たず、弾切れになるがそのころには既にガンユウは事切れている。念のため、頭にもフルオートで叩き込む。時折、死んだふりをして油断した狩人を返り討ちにする事例があるのだ。だがいくら化け物といえど頭に200発近い銃弾を食らえばひとたまりもない。そこまでしてやっとガンユウ討伐は完了なのだ。
ガンユウは討伐できたが、300発近い弾を消費してしまったことが悔やまれる。いったいいくらになるのか想像もしたくない。だから使いたくないのだ。威力こそ絶大だがとんでもない大食らい、騎士団のような国家をバックにでもしていないとそうそう使える武器ではないのだ。とりあえず脅威は排除できた。よくわからない少女も増えたが、まぁ森を抜けてから考えれればいいだろう。
「ありがとうございます!私、もうだめk」
「礼は後にしてくれ、こんな派手な戦闘したんだ。また他のが来ないとも限らない。早く乗れ、出発する」
幸い、他のモンスターと戦闘になることもなく森を抜けることができた。夕暮れにはカンナに着くことができた。どうやら少女も目的地は一緒だったらしくなにも言わずについてきた。街に入ろうとしたがそこで番兵に止められる。なにか気に食わないことでもあったのだろうか。駐屯所に連れていかれる。来て早々に問題も起こしたくない。おとなしく従うことにする。
「お前、いい女を連れているな。女を置いていけ。それがお前がこの街に入ることができる条件だ」
「は?なにを言っている。通行料に女を徴収なんておかしい話があるか」
「残念ながらあるんだよ。サイア様がいい女はすべて徴収しろとの命令でね。その代わりに金は取らねぇんだからありがたく思えよ」
「お断りだね。あいつを助けるのがどんだけ大変だったと思っている。少なくともその分の恩を返してもらうまではお前らになんぞ渡してたまるか」
「ほう?俺たちのバックにはサイア様がついていると教えたよな?サイア様を敵に回してこの街で生きていけるとでも思っているのか?ここらで最大の街の主を敵に回せば日陰の人生は確定だろうなぁ?」
「ぎゃあぎゃあとうるさいな、お前。あいつは渡さない、規定の金をくれてやるからとっとと通せ」
「じゃあ、しょうがねぇな。おい、お前ら構えろ。殺せ」
抜剣する音が重なる。それと同時に魔法を唱える声。街の番兵を任せられるだけあって反応も練度も高い、が少々高い程度。ガンユウとはとても比べられない。しょうがないので雷門をさっきからうるさい隊長らしき奴に狙いをつける。
「お前、この人数で勝ち目があるとでも思っているのか?」
「もちろん、そんな粗鉄の鎧なんてコイツの相手じゃないね。それより来ないのか?ほら、このうるさいやつの脳漿を浴びたい奴から来いよ。一歩でも動いたら全身にこのうるさいのの血と肉を浴びせてやるよ」
「お、おれたちはサイア様に守られているんだ。手を出して只で済むと思っているのか?」
「さぁ?それは未来の僕が考えることだ。お前らには関係ないね。それに、ここにいないサイア様とやらはいったいどうやってお前たちを救ってくれるんだ?撃ってみればわかるか?」
「・・・」
「・・・」
「・・・お前ら武装を解除しろ。わかった通してやる。だが貴様は必ずこのことを後悔することになるぞ」
「ご忠告どうも。じゃ、俺たちは通してもらうぜ」
やっと通れた。街に入るだけでえらい疲れたな。そういえば、結局金を払っていないが、まぁいいか。
宿はすぐにとれたので飯もそこそこに休むことにする。
そういえば、あいつの話を聞きそびれたな。明日聞かなきゃな。
そんなことを考えていたが疲れていたのかすぐに寝てしまった。