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黄菖蒲を携えて  作者: 雲雀 聖瑠
1/1

1話

正直自業自得だった。

久々の同窓会で限度も忘れて飲みふけり、泥酔した末に道路に飛び込んで車に引かれて死んだ。

どう考えても俺が悪いです。あの車の運転手にはまことに申し訳ないことをしてしまった。

酔っぱらって飛び出した俺が悪いが、あの人には殺人歴がついてしまった。

神様、いらっしゃるのでしたら俺を地獄に落として運転手の人の人生に幸福をお与えください。


と、考えていたころが懐かしい。


死んだと思って目を開けたら絢爛豪華な部屋にいた。

わあ、地獄って思ったより綺麗なんだなと現実逃避していたのもつかの間、メイドの服を着た女性が大慌てで医者を呼んできた。

その間に鏡を見てここがゲームの世界であることを知る。


「イエローアイリス」という名の男性向け恋愛シミュレーションゲーム。俗にいうギャルゲーの類のものだ。

あれだ、ゲーム好きの友達がしつこく進めてくるもんだから、スチルだけ全回収してとりあえずやりましたってことにしてたんだ。

あらすじとキャラの概要だけ読んでストーリーは全てスキップしたんだっけ。

まあ、一回読まないと飛ばせないからオート操作にして別ゲームやってた。ゲームは好きだが、絵柄がアニメチックで好みではなかったのだ。

全部のエンディングを見終わったタイミングでスチルの確認をしたらバッドエンドの絵面が衝撃的過ぎて一回真面目にやってみようとしての同窓会だった。


あらすじはこうだ。

主人公はこの国の第一王子アルフェイル。彼は四年前下町に恋人とデートしていた時にならず者に刺され、意識不明となっていた。物語は彼が意識を取り戻すところから始まる。

四年前は王太子だったが、意識不明だったためにその地位は従兄であり、第二王子ユールラテスのものになっていた。

攻略対象のご令嬢たちと力を合わせ、地位を取り戻し王位につこう。


うん、あらすじの時点で好きじゃないわ。

四年も意識不明だったならその間に後継者が変わるのも当然のことだし、それだけの月日がたっているなら従兄だってそれなりに落ち着いたころだろう。それを略奪前提で話を進めるのが気に入らなかった。


ため息をつきながら鏡を見る。流石ギャルゲーの主人公。乙女ゲームの王子より親しみやすくモテそうな外見をしている。

寝たきりだったために多少骨は浮いているがそれでも美丈夫なのが分かってしまう。

人の格差って残酷だ。人間見た目が九割だというのは間違いではない。


「アルフェイル! 目が覚めたそうだな!」


医者が退室した後で、初老の男が部屋に入ってきた。豪華なマントと頭の王冠からして現国王ってとこか?

目上の人間には礼節を。まだ立って歩けるだけの体力はないので、多少無礼ではあるがベッドの上で会釈する。


「おかげ様で」


「そうかしこまらずともよい。儂は……儂はお前とまたこうして話せるだけで……」


国王と思わしき老人は泣きながら俺の身体を抱きしめる。

えーっと、まずは現状確認。この人が国王で、俺が王子だとすると、この人は俺の父?


「息子夫婦だけでなく、孫のお前まで先立たれると思ったのが四年前。よくぞ目を覚ましてくれた」


あ、チゲエわ祖父だった。一世代空白があるけど、もう死んでるのか。

子供を失って、その上孫を失いかけたならそりゃあ辛いだろう。肉体は祖父と孫でも中身は別人だから申し訳なくなってくるな。


「あの……彼女は……?」


オープニングをまともに見ていないため恋人の名前が出てこない。


「あの子のことは残念じゃった。しかし、気を落とさず前を向いて歩いておくれ。あの子ならアルフェイルにそう望むはずじゃ」


このゲームのっけから人死にすぎじゃね? というか恋愛シミュレーションゲームなのに主人公に元カノいるってどうなのよ。

呆れてうつむいた俺を悲しんでいると解釈したのか国王は突然押しかけて悪かったなと謝罪し、ゆっくり休めと労って部屋を出て行こうとした。

そこで二人目の乱入者が現れる。


「国王陛下。会議の途中で抜け出さないで頂きたい」


ノックもなしに入ってきたアルフェイルに負けず劣らず美丈夫な青年。アルフェイルは柔和な青年というイメージだが、こちらは中性的な少年といった印象を受ける。


「ユールラテス。ノックもなしに押し入るなど」


「陛下が会議を放り出さなければいいことです。戴冠式まで採決しなければならないことはごまんとあるのです」


少し苛立っているような声だが、トーンはだいぶ平坦だ。表情も目も死んでいる。彼と夜中廊下ですれ違いたくない。

というかユールラテス。アルフェイルの一つ年上の従兄で第二王子。現在は王太子……だよな?

男キャラの紹介は攻略対象以上に適当に見たからあやふやだ。

というか年上なのに第二王子? 普通は生まれた順じゃないのか? 従兄弟同士らしいし、その辺は親の問題かもな。西洋風の継承問題はよくわからん。


「そのことだが、戴冠式は延期とする。アルフェイルの意識が戻ったのだ。まずはそちらを優先せねばなるまい」


いやいやいや、どう考えても優先順位逆だろ。

ユールラテスはここで俺の存在を認識したらしい。死んだ目に初めて感情が宿った。それは憎悪。

そりゃあな。自分が王位を継承するのを病人の都合で延期されたんじゃあな。


「今更、王太子の差しかえなどとは言わないでしょうね」


「それはお前次第だ。ユールラテス」


国王とユールラテスは互いに嫌悪の感情を向け合っている。

ユールラテスはやれやれと肩をすくめた。


「まだ私をお疑いになられているのですか。何十回も捜査して、そこの間抜けが護衛を振り切って遊び歩いた挙句破落戸に刺されただけだと証明されたというのに」


「ユールラテス! アルフェイルに向かってなんて口をきく!」


「何か問題でも? それとも、この国は眠ったまま税を食いつぶす者が王太子より地位が高いのですかな?」


バシッと国王がユールラテスの顔を殴った。ユールラテスは大きくよろめいたが、転げることはなく、再び綺麗な姿勢に戻った。


「重体だった家族が四年ぶりに目覚めたのだぞ! だというのになんだ貴様のその態度は!」


「生憎と、初対面の人間を血がつながっているだけで家族と認識するような感性は持ち合わせていないのですよ」


他所でやってくれないかな。

というか初対面なのか。従兄弟って親戚としてだいぶ近い存在だと思うんだが?

国王も国王で大分アレだが、ユールラテスもユールラテスで大分ひねくれている。

あらすじからして物語のヒール的な役割だからああいう性格になったのだろうな。


「陛下が何と言おうと戴冠式の延期は致しません。私はこれで失礼。

アルフェイル殿下、くれぐれも行動は慎まれますように。次は何人が責任を取らされるかわかりませんから」


そういってユールラテスは部屋から出て行った。

口ぶりからして刺傷事件の時も護衛の何人かが責任を取らされたのだろう。それはアルフェイル自身に責任があるように感じる。

俺が酔っぱらった挙句に轢かれてしまったのと同じで、本来背負うべき責任を全て他人に押し付けた状態で俺は死に、アルフェイルは寝たきりになり、言わば責任から逃げたような感じだ。

そういった意味では俺と彼は似た者同士かもしれない。

自身の行動が原因で他人が責任を取らされる。最近の小説なんかでは転生した主人公がストーリー改変なんてやるらしいが、俺はユールラテスの言う通り大人しくしていよう。

罪の償いというわけではないが、これ以上身勝手な行動をとるのはやめておきたいのだ。


「やはり、奴に王位なんぞ……」


国王がだいぶ不穏なことを言っている。ユールラテスの心情もわからんではない。言い方は悪かったが、言っていることは正論だ。病人1人のために国の行事の日程をずらすなどもってのほかだし、俺とユールラテスではユールラテスの方が立場が上なのも事実だ。

俺としては俺のせいでごたごたするのは御免だ。

国王もユールラテスももう少し態度が軟化すれば、問題は片付きそうな気がするが、俺が言っても彼には火に油だろう。しばらくは療養も兼ねて静かに過ごすことに決める。


と言いたいところだが、立場上それは無理なことを知るのであった。

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