地球攻略編⑭~不自由のない生活~
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「私たちは数年前に出会って、ちゃんと手続きを踏んで結婚したことになっています。これは……一也さんがこっちの世界に戻りたいと希望した場合に備えて、何不自由なく暮らせるようにと守護神様が用意してくれました」
「それで……レべて……天音がここに?」
レべ天は自分のことを様付けで呼ぶことなんて1度きりとしてなかったので、目の前の女性は別の存在ということになる。
ただ、レべ天の名前を2つしか知らないので、今はこの人を天音と呼んだ。
「はい……」
天音はそう言ってうなずき、俺の手を優しく包み込んでくる。
「私は一也さんを一生支えるためだけにここにいます。あなたが望むのなら、なんだって叶えられますよ」
「なんでも叶える?」
「そうです。仕事が評価されて出世もできるし、幸運が巡って良いことしか起こらなくすることもできます」
夢のような話を聞いていて、レべ天が俺へできるだけ何かを残そうと考えたが何も思い浮かばず、望み通りになるように彼女へ力を残したということがよくわかった。
悩んでいるレべ天の姿を想像してしまったら、なんて馬鹿な奴なんだと声を上げて笑ってしまう。
「えっと……そんなに嬉しいんですか?」
「いや。なんで俺が笑っているのか分からない時点で、きみは俺のことを知らないということがわかったよ」
「そんなっ!? 私は!?」
俺のことをわかっているつもりの天音は顔をムッとさせて反論しようとしてきた。
ただ、ここにはいないバカのことが脳裏によぎり、ため息をつく。
「まあ、待てよ。なんでレべ天がそんな曖昧な力を残したと思う?」
「一也さんに幸せになってほしいと願ったからです」
頑なに自分の意見を曲げない天音の性格は、俺が思い描いていた理想のパートナーそのものだった。
そんな些細なことまで覚えていたレべ天がこんな中途半端な望みを残すはずがない。
「違うんだよ。俺が心から欲しいモノがこの世界にないから、レべ天がなんとか工夫して今みたいになったんだ」
「この世界には……ない? もしかしてっ!?」
天音は何かに気が付いたようにVR機器へ顔を向けて、床に崩れ落ちた。
泣いているのか、ポタポタとフローリングへ涙が落ちる音が聞こえている。
「理想の相手と結婚したり、裕福な生活をしたり、望むように出世するよりも、俺は死力を尽くして戦いたいんだ」
この世界にも似たようなことをしている人はいるだろう。
また、自分の全てをかけて、何かを達成しようとしている人もいる。
(だけど、俺は向こうの世界で戦うことこそ、生きていると実感できる唯一の方法なんだ)
1度本当に戦える世界があると知ってしまったら、こっちの世界で何をされようが満足できるはずがない。
どんなことよりも価値のある一瞬を生きるために、俺は自分の願いを口にする。
「向こうの世界へ俺を戻してくれ。それがきみに求めることだ」
天音の横に立って希望を口にしたが、一向に叶えられる気配がなかった。
こういう時は言えばすぐになんとかしてくれると思っていたのに、なんだか拍子抜けしてしまう。
膝を曲げて願いを叶えてくれるという天音の横顔を覗き見ると、うつむいたまま動かなくなってしまっている。
腕を組みながらこのやり場のない気持ちをどうしようかと考えていたら、天音の頭が動いた。
「それだけはできません。向こうの世界は崩壊に向かっているんです。そんなところへ一也さんを行かせられません……他のことならなんだって叶えられるんですよ!!」
なんとしても俺を止めようとする天音は、泣きじゃくりながら俺へ飛び込むように抱き付いてきた。
馬乗りされ、俺の胸で嗚咽する天音を振りほどけない。
「崩壊? それは俺がこの世界へ戻る時に聞いたヤツが原因か?」
「そうです……あの方は創造主……向こうの世界の礎を築き、守護神様たちを生み出しました」
「で、そいつがなぜかモンスターの味方をしているから、世界が危ないんだな?」
天音は俺の上でうなずき、俺の胸に手を当ててじっとこちらを見つめている。
花びらのような唇がゆっくりと俺に向かってくるので、手のひらを押し付けて押し退けた。
俺の上から落ちた天音を見下ろすように立ち、呆れて首を振る。
「そんなことをしている暇があるなら、さっさと戻せ」
「ひ、ひどくないですか!? 私は一也さんのことを一番に想っているんですよ!?」
「そう言ってくれて嬉しいよ。だけど、何もしないでこのままここにいたら俺は絶対に後悔すると思うんだ」
「私では……ダメなんですね……」
戦いもせず、世界が崩壊するから逃げた経験をしたら、俺は一生拳を握れなくなってしまう。
それに、このままここに残っても世界が終了するので、生きる意味が無くなる。
(なるほど……これが本当の死地へ向かう人の気分か……後にも先にも未来が無い……神殺しを俺がやる以外、世界を救う手段がない)
決意を固めていたら、トトトっと軽い足音が俺へ近づいてきた。
マロンが足にすり寄って期待するように見上げてくる。
抱きかかえながら、なぜこちらの世界にもこの子がいるのか疑問を持つ。
「なあ、この子はどうしてここに居るんだ?」
「えっ!? ……もともとペットじゃないんですか? まさか!?」
放心していた天音が俺からマロンを奪い取るように抱えると、金色の光がこぼれる。
それを見て天音は諦めるように首を左右に振っていた。
「この子、守護神様から一也さんを守るように頼まれて、あなた専用の神獣になっていますよ……愛されているんですね」
マロンを俺へ返した天音は深呼吸をしてから部屋を見回す。
「本当のことを言うと、私だけの力では向こうの世界へ戻すことができませんでした」
「えっ!?」
「私はこの世界で一也さんに幸せな生活するだけの存在なので、それ以上のことができないんです」
わざわざそんなことを口にして軽く微笑む天音を見て、俺もマロンを抱き直して微笑む。
天音もあえて言っているのか、優しい瞳で俺のことを見つめている。
「なら、もう行けるんだな? この子のおかげか?」
「そうです。守護神様と繋がっているマロンがいれば、きっかけを与えるだけで向こうの世界へ行くことができます」
「きっかけ?」
「一也さんが私の力を使って、マロンに導いてもらえます!!」
甘い香りと共に暖かさが唇を襲い、金色に揺れる髪が俺の頬をくすぐった。
腕を背中にまわされ、振り払おうとしても抱いているマロンを落としてしまうので、手を使えない。
「んぐっ!?」
がっちりと体を拘束されると天音の体が金色の光を放ち、俺へ流れ込んでくる。
その光景に目を奪われていたら、光が収まって天音が離れた。
「私はあなたと一生この世界で暮らしたかったです。ただ……それは守護神様も同じみたいですよ?」
「はっ?」
「ふふっ。それじゃあ、私は消えますね。後はその子が案内をしてくれると思います」
いつの間にか体が透明になっていた天音は、そう言い残して消えるようにいなくなった。
残された俺はマロンがなんとかしてくれると言うので、床に置いて様子をうかがうことにした。
「マロン、俺を戻してくれるか?」
「キュー!」
マロンが返事をするように鳴くと、VR装置に向かって全力で走り出す。
ぶつかって怪我でもしたら危ないので、止めようとしたらマロンがVR装置に吸い込まれてしまった。
「こんなことって……」
電源の付いていないVR装置が起動し、金色の光を放つ。
俺もそのまま立ち止まることなく、マロンと同じようにVR装置へ飛び込んだ。
ご覧いただきありがとうございました。
更新は2月6日を予定しています。
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