地球攻略編⑫~日常?~
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(こんな家だったか? もっと何かがあったような気が……)
脳裏に現実ではありえない武器や装備の数々が置いてある部屋の様子がフラッシュバックする。
立ちくらみがしてよろける俺の体を白い肌の腕に支えられた。
「一也さん、お疲れですか?」
「ああ、ちょっと……疲れているみたいだ」
俺のことを心から心配してくれている青い瞳に見つめられたため、頷いて安心させるために笑みを浮かべる。
このままではマロンを落としそうだったので、ゆっくりと床へ置き、目の前に立つ女性を改めて観察した。
「本当に今日はどうしたんですか? えっと……お仕事でなにかありました?」
妻を見つめると、恥ずかしそうに俺の身を案じてくれている。
あまり心配をかけないために、用意してくれた食事を行うために脱衣所で着替えを行うことにした。
「明日から休みだから気が抜けただけだよ。着替えてくる」
「……はい。いつものところに服があります」
お礼を言いながら脱衣所へ向かうと、棚に俺の着替えがきれいに畳まれて置いてある。
畳まれた服を手に取り、最初はこんなに上手じゃなかったと思いながら室内着に着替えた。
疲労からなのか思考が鈍く、ぼんやりとしてしまっているので顔を洗ってからリビングへ向かう。
テーブルの上には温かい料理が並べられており、妻が茶碗にご飯をよそってくれていた。
「どうぞ、一也さん。食べましょう!」
「いつもありがとう」
「どういたしまして!」
何気なくお礼を口にしたら、花が咲いたような笑顔になり、上機嫌に椅子へ座る。
そんな嬉しそうにされると向かい合うように座る俺の頬も緩んでしまった。
「今日はサバの味噌煮に挑戦してみたんですよ」
「いただきます」
妻が期待するような目でこちらを見ており、俺が魚を食べるのを待っている。
一口食べるとちゃんと火が通っており、焦げて苦くない。
服に続いて料理まで人並みにできるようになり、成長した妻を称賛する。
「美味しいよ。作ってくれてありがとう」
「よかったです! いただきます!」
俺の感想を聞いてから、嬉しそうに妻も夕食を食べ始めた。
食事中はあまり会話をせずに味わって食べていたら、また自然に涙が溢れ出てくる。
自分が自分ではないような感覚に襲われ、胸にぽっかりと穴が開いたようにむなしい。
涙で視界がにじみ、食事の手を止めたら妻が立ち上がって俺に寄り添ってきた。
「やっぱり何かあったんですね? 大丈夫ですよ。私が付いています」
妻が涙で汚れるのを気にせず、座っている俺を優しく抱き寄せる。
その気持ちで心が温かくなり、このまま体を委ねたくなってきた。
(なんか……これでもいいな……)
目を閉じて気持ちが落ち着くまでこの優しさに甘えようとした時、心の奥にチクリと痛みが走る。
この痛みの意味が分からず、何も考えずにこのまま寝てしまいそうになった。
(俺の人生は……こんなもんだ……だけど、あの時は涙が出なかったな……)
なぜか急に人生の終わりを意識してしまい、以前このように最後の別れを告げた人たちのことを思い出す。
自分がしくじれば世界が滅亡するという恐怖と戦い、覚悟を決めるために大切な人たちの前で自信満々を装って行くと宣言した。
(あの時は戻れないかもしれないって意識したんだ……俺は何をしようとしていたんだ?)
ゲームでは常に1人で戦い、己の拳で道を切り開いてきた。
それだけが自分の自慢であり、ゲームで全ダンジョンクリアすることこそ、この世に生まれた俺がやり遂げたいと思っている唯一のことだった。
自分の手を握りしめると、これまで殴ってきたモンスターの感触を思い出す。
「俺はまだあいつを倒していない!」
立ち上がると俺を抱きしめていた女性が驚いたように離れ、心配そうにこちらを見ながら胸に手を当てていた。
握りしめていた拳で自分の頬を思いっきりなぐると、血の味を感じながら地面に倒れる。
「何をやっているんですか!?」
脳が揺さぶられて呆然とする中、泣きそうな顔で駆け寄ってくる女性へ手が伸びた。
「レべ天……泣くなよ……お前が泣くと面倒なんだ……」
「一也さん……思い出してしまったんですね……」
大人になったレべ天が悲しそうに涙をボロボロと流しながら、俺の口から出ている血を拭く。
「ああ、そうみたいだ……なんでお前はここにいるんだ?」
1度認識したからなのか、今まで思い出せなかったのかわからないくらい鮮明にあの世界のことを思い出した。
それと同時に、どうして自分やレべ天までここにいるのかがわからなくなり、天井を見つめる。
何十年と見続けてきた家の天井を見ていたら、レべ天が俺の両手を握りしめてきた。
「一也さん、すべてを忘れてこの世界で幸せに過ごしませんか? 私はそう望んでここにいます」
手を握るレべ天は懇願するように俺の顔を覗き込み、お願いしますと震えながら呟く。
世界を救おうとしていたレべ天が、なぜここまでこっちの世界へ執着するのか俺にはわからない。
「レべ天……」
色々聞きたいことがあるため、俺の手を握るレべ天へうかがうように呼ぶ。
すると、レべ天がギュッと俺の手を包む両手に力を込め、目を見返してきた。
「今の私は【佐藤】天音……です」
それを俺へ告げると、俺から手を離して腕を伸ばし、棚の上を指差す。
棚の上には撮った覚えのない写真が大切そうに飾られており、タキシード姿の俺が写っている。
「嘘だろ……なんでこんなことに……」
俺の横に白いウェディングドレスを着たレべ天と一緒に映っている写真を見て、言葉を失ってしまった。
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更新は2月3日を予定しています。
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