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地球攻略編⑪~回帰~

ご興味を持っていただきありがとうございます。

お楽しみいただければ幸いです。


本作のタイトルを改名した【ネトゲ廃人の異世界転生記】が発売中です。

アマゾン等で全国の書店にてお買い求めできるので、よろしくお願いします。

購入報告お待ちしております!

『一也さん! 今助けま――』

『させん!! 迷い込んできた魂よ!! 元の世界へ帰れ!!』


 レべ天の声が何者かに遮られ、聞いたことのない怒号が頭の中に響き渡る。

 その声と共に白い光が俺の意識を支配し、何もかもが塗りつぶされるような感覚におちいった。


『――――!!!!』


 俺の意識が無くなる直前、レべ天の声が必死に何かを言うような声が届いていたが、言語として認識することができない。

 その声がわからないまま、俺は全身の感覚を失った。



-------------------------------------------------------------------



「佐藤さん、日報終わりましたか?」

「え? ああ、終わっているよ」


 自分のデスクで今日の事務報告をまとめた日報をパソコンで打ち込んでおり、後輩が不思議そうにこちらを見ている。

 俺とは違って人当たりが良さそうな後輩は腕時計を見て、珍しいと呟いていた。


「もう定時を過ぎていますけど、今日は帰らないんですか?」

「これが終わったからもう帰る……お疲れ様」


 デスクから離れてロッカーに入っている自分の荷物を取りに行こうとしたら、さらに後輩が話しかけてくる。


「明日からしばらく有給ですよね? なにかわからないことがあったら電話してもいいですか?」

「ん? ああ……」


 後輩や上司に見守られる中オフィスを出て、ロッカーへ向かっていると自分の体がどうにもおかしい。

 言い表すことのできない虚無感に苛まれ、自然と涙があふれ出てきてしまった。


(なんなんだよこれ……30代で独身だとこんなに情緒が不安定になるのか?)


 ロッカーを開けて、扉の内側についている小さな鏡には、年相応にしわが刻まれた俺が目を真っ赤にした泣き顔が映っている。

 こんな日はさっさと帰って、自分の世界に没頭するしかこの気持ちを発散できないだろう。


(ん? 日付が……いや……まさかな……)


 着替えながらふと自分の腕時計を見たら、違和感を覚えてしまった。

 明日から休みを取って、再来週にサービスを終了してしまうヴァーサスオンラインで、まだ倒した人のいないファラオを攻略する。


(今から……ファラオを攻略? ああ、サービスが終わるまでに少しでもレベルを上げて、波動鳳凰拳の威力を高めるんだっけな……)


 その予定だったのだが、なぜかファラオを倒したことがあるような気がした。

 倒したことなどないはずなので、これから行うことの復習をしつつ、家路につく。


 電車に揺られ、バスに乗り、少し歩いた場所にある1Kのアパート。

 そこが俺の家であり、世界へ繋がる唯一の場所だった。


 一週間分以上の食料は買い込んでおり、1秒でも多くモンスターと戦い続ける覚悟だ。


「ただいまー。あれ? リビングの電気をつけっぱなしにしていたのか……」


 誰もいないはずのリビングの電気がついており、玄関の鍵を閉めてから家へ入ろうとした時、足音が聞こえてきた。

 隣の家かと思っていたら、廊下の奥にあるリビングへ通じる扉が勢い良く開け放たれる。


「一也さん! お帰りなさい!! 今日もお仕事お疲れ様です!」

「……ああ、ただいま。出迎えてくれてありがとう天音(・・)


 一瞬、激しい頭痛に襲われるが、声を出すほどでもないので、いつも通りに(・・・・・・)鞄を金髪を揺らす美女へ渡した。

 笑顔で受け取ってくれたエプロン姿の彼女は、何かを待つように目を閉じてじっとしている。


 俺は自然とその額を指で小突き、靴を脱いで着替えを行うために奥へ向かった。


「一也さんひどいです……今日はなんか冷たいですね」

「いつもこんな感じだろう? お前こそ……」


 なんでそんな恰好をしているのかと聞くために口を開こうとするが、妻である彼女を見て思考が止まる。

 どこかがおかしいと感じながらも、その理由がわからない。


 俺がどうやって知り合ったかも覚えていない雑誌で見るような美女を眺めていたら、見つめられていた彼女が金色の眉を落として首をかしげた。


「本当にどうしたんですか?」

「俺たちってどうやって知り合ったっけ?」

「ええっ!? 急にどうしちゃったんですか!!??」


 彼女は両手で口を覆い、信じられないというように目を見開いて俺のことを見る。

 俺が真剣に見つめていたら、彼女は不敵な笑いを浮かべながら右手の人差し指を振っていた。


「ははーん、私はわかっちゃいましたよ。今日はそういうシチュエーションですね」


 フッフッフと笑いを零す美女は咳払いをしてから、リビングへの扉を開けた。

 うながされるようにそこへ足を踏み入れると、俺はさらに混乱してしまう。


「一也さん初めまして。ヴァーサスオンラインでいつもお世話になっている天音です。今日からサービス終了までのオフ会に参加していただいてありがとうございます!」


 急に演技のように振る舞い始めた彼女を見たまま硬直してしまい、開いて口を閉じることができなくなった。

 リビングには夕食が用意されており、見慣れた場所にはVR装置が2つ(・・)設置されている。


 それに、こんな家だったかと思うほど整頓されており、家具などの内装もきれいにまとめられていた。


「もう! 私ばっかり恥ずかしい思いをしていませんか!? 一也さんから始めたんですよ!?」


 扉を開けてくれていた彼女は、頬をふくらまして顔を真っ赤に染めながら抗議をしてきた。

 そんな彼女に対して、俺は何も言えなくなり、ただ頭を撫でるしかできなかった。


「キュー!」


 リビングの奥からペットの小さな狸が俺に向かって駆け寄り、足へ体をこすりつけてきた。

 マロン(・・・)を抱きかかえると、左手に付けた金色の指輪が輝いたような気がした。

ご覧いただきありがとうございました。

更新は1月31日を予定しています。


もしよければ、感想、ブクマ、評価、待ってますので、よろしくお願いいたします。


特に広告の下にある評価ボタンを押していただけると、大変励みになります。


令和2年9月17日より新連載を始めました。

同じローファンタジーになります。

ぜひ、こちらもよろしくお願いします。

https://ncode.syosetu.com/n7840gm/

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