地球攻略編⑥~変わりつつある世界~
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「国連が会議でWAOの全役員の解雇と今後一切の支援を打ち切ることを決定し、各国の冒険者協会への対応はそれぞれの国に委ねると発表しました」
学校へ登校する前、家で朝ごはんを食べていたら、ニュースで事実上WAOを解体するという決議を国連が行なったという報道が耳に入ってきた。
大統領が約束通り働きかけてくれて、今回の判断にいたったようだ。
世界大会での出来事から2日ほどしか経たないうちに現状のWAOが解体されたので、今後は武器の使用制限などの妨害を受けなくなるだろう。
俺と向かい合うように座ってご飯を食べているレべ天がチラチラとこちらを気にしてくる。
「一也さん、本当に今日はなんにもしないんですか? 装備を着けて意気込んでいたじゃないですか」
朝から両親が不在で2人きりで食事をしているため、レべ天が今しか聞けないと言わんばかりに不安そうな顔を俺へ向ける。
お互いに制服を着て学校に向かう準備もぬかりなく行い、今更そんなことを言われても俺の答えは変わらない。
「そうだよ。今行っても意味がないってことが分かったからな」
レべ天はムーッと唇を尖らせ、納得がいかなそうな表情を全面に出している。
黒騎士装備に身を包み、魔王の卵を破壊するために意気込んだものの、不可侵領域であるモノを見てしまったのですぐに帰還した。
(殺戮の天使の大量発生と卵の硬化……魔王が生まれる日が近い……)
卵があの段階まで育ってしまうと、壊せるタイミングは魔王が生まれる直前しかない。
世界大会中にそうなっていないことを確認しているので、今日か昨日で硬化してしまったのだろう。
(何度も魔王が生まれるところを見ているが、硬化した日に生まれたことなどない)
おそらく、卵の形や柄で判断すると、6日後か7日後に生まれると思われる。
明に占ってもらった不可侵領域の変化は明日から本番なので、今日は休む日にした。
「一也さんの行動に意見を言うつもりはありません……けど、それなら花蓮さんたちとダンジョンへ行かないんですか?」
「ダンジョンはもうみんなに託したから行かないよ」
託したと聞き、諦めたように視線を下げたレべ天は箸を置いて食器を片付けだした。
俺もシンクへ食器を持っていくと、レべ天が腕をまくってスポンジへ洗剤を付けている。
「洗っておきます。一也さん、ネクタイを忘れているので着けてきてください」
「ありがとう、頼むよ」
「はい」
なぜかネクタイをつけ忘れていたので、レべ天に食器を任せて部屋へ戻る。
目立つように机の上へ置いてあったネクタイを発見し、なんで忘れたのかと首をかしげた。
(ネクタイを締め忘れるなんてしたことあったか? 考え事をしていた時に何度かあったな……)
年に数回ほど忘れることがあったので、たまたまそれが今日当たったと思うことにした。
ネクタイを締めて下に降りると、俺の荷物も持ったレべ天が玄関で待ってくれていたので、お礼を言いながら荷物を受け取る。
「ちょっと待ってください。ネクタイが曲がっているので直します」
「あ、ありがとう……」
至近距離にレべ天が近づき、荷物を置いて両手で俺のネクタイを調整してくれている。
長いまつ毛や息づかいが確認できてしまい、恥ずかしくなって顔を逸らす。
ネクタイの調整にしてやけに時間がかかっており、文句を言いたくなるが、真剣な表情を見てしまい、軽く息を吐いて我慢する。
今にして思えば、こんなに常軌を逸した美人が俺に付きっきりになっているのは、モンスターを1体でも多く倒し、人類を救ってほしいからだ。
(だからこんな状況でのほほんと学校へ行こうとしている俺に対して不満そうなのかな?)
不可侵領域から帰ってきた時から機嫌が悪かったので、もう俺が卵を割るものだと思っていたのだろう。
ただ、あの状態では急所突きを使ったとしても攻撃を受け付けないので、やるだけ無駄だ。
(卵の周りにいる天使どもを倒してもいいけど、生まれるまでは永久湧きするから、それも面倒だ)
魔王の卵を取り巻く環境について悩んでいたら、レべ天が俺のネクタイから手を放す。
「できました。どうかしたんですか?」
「なんでもないよ。行こう」
玄関を出て学校へ向かい始めると、俺の横をレべ天が無言で歩く。
いつもなら花蓮さんや夏美ちゃんが合流して話が盛り上がるのだが、今日は来ないので会話がない。
黙って歩いているだけでも居心地は悪くなく、この時間を苦痛に感じることはなかった。
「部活にも参加するんですか?」
レべ天がぽつりと言葉を発し、俺の方を横目で見てきている。
今日は普通の学校生活を送ると決めているので、もちろん部活にも参加するつもりだ。
「するよ。天音も行くだろ?」
「そうですね……あの子たちの顔を見てきます」
「そか……」
それっきり会話は途切れ、教室の椅子へ座るまでレべ天とは言葉を交わさなかった。
横の席に座るレべ天は普段通りの表情に見えているが、なぜか心の中は悲しみで溢れている。
レべ天が自分の感情について一切口に出さないので、あえて俺から聞くことはしない。
世界大会での行動は学校にいる全員が知っており、頻繁に怖がられながらもおめでとうと声をかけられた。
授業が終わってから部活動を行おうとしたら、田中先生が今日は職員会議があるから部活はなしだと言われたので、1人で家へ帰った。
着替えを終えて何をしようか悩んでいたら家のチャイムが鳴り、扉を開けるとレべ天がうつむきながら待っている。
「……天音、どうしたんだ?」
制服姿のまま立っているレべ天は下を向いたまま動かず、こちらを見ようとしない。
普段なら適当にあしらっていたが、レべ天の感情が俺に流れ込んでくるのでそれができずにいる。
『私が一也さんを守る』
レべ天は辛そうに顔を上げ、無理やり笑顔を作って俺と目を合わせた。
「私が魔王の卵を抑えます。そうすれば一也さんは今日のような日常を過ごし続けることができますよ」
守護者によるモンスターの抑制に限界があることはこの世界にきた当初、レべ天が俺へ教えてくれた。
魔王という存在を倒せばモンスターの勢力が弱まることは間違いない。
「それは俺が来る前と何も変わらないだろう? 俺が卵くらい割るし、残りのダンジョンはなんとかなるだろうから、そんなことしなくてもいい」
それを放置させようとするレべ天の意図が俺にはわからず、首を横に振る。
「お願いです!! 戦いに行かないでください!!」
悲痛な叫びを上げながらレべ天が俺の胸を思いっきりつかみ、すがりよってくる。
俺はとうにその覚悟を終えており、みんなの未来のためなら死力を尽くすつもりだ。
「守護者としてはあなたに世界を救ってほしいです……でも、照屋天音としてはあなた……一也さんには生きていてほしいんです!! 死にに行こうとしている人を見送ることなんて私にはできない!!」
それが分かっているのか、レべ天は俺に頭をつけて懇願しながら大粒の涙を流している。
俺のために泣いてくれているレべ天の頭を1度だけなでた。
「そう言ってくれてありがとう天音。だけど、それでも戦いたいんだ……自分の魂の一滴まで絞り尽して、その結果死ぬとしても、みんなが安心して暮らせる世界になるのなら俺は行くよ」
俺は自分のすべてをかけて戦うためにここにいる。
この世界に来て拳に誓ったことを実行する時がきた。
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更新は1月19日を予定しています。
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