地球攻略編⑤~一也くんが去った後~(清水夏美視点)
ご興味を持っていただきありがとうございます。
今回は一也が去った後の会議室の様子です。
お楽しみいただければ幸いです。
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一也くんがいなくなってから、私は堪えていた涙と悲しさが抑えられなくなる。
息ができなくなるなるほど嗚咽していたら、小さな手が私の背中をさすってくれていた。
「ごめんね、なっちゃん……辛い思いをさせちゃったね……」
「明……本当にこれでよかったの?」
先ほど、話をしていた時には隠れていた明が私に寄り添い、涙をハンカチで拭いてくれる。
私たちは一也くんが来る前に、明にこの部屋へ呼び出されて集められていた。
「なっちゃんそれは……」
明が言葉に詰まり、とても言い難そうに私の目から視線を逸らす。
ただ、その答えを明から何度か説明されており、私たちが一也くんの話をうなずくしかできなくなった理由だ。
「明にも今回の対応が正解かわからない。だけど、なにもしなければ、1ヵ月以内に人類の半数がモンスターによる被害に遭う……そうよね?」
椅子から立ち上がった絵蓮さんが鋭い眼光で私と明を見ており、軽く息を吐いて全員を見渡した。
「明、一也様から話を受けた内容と混ぜながらこれからについて話をするから、何かあったら言ってくれる?」
「わかりました」
絵蓮さんが明を椅子へ座らせ、直前まで一也くんが話をしていた場所に立つ。
机に置かれたノートを手にした花蓮さんがとても愛おしそうに1ページ1ページめくっていた。
「一也様は生死が分からない……いや、死んでしまうと思われる戦いに挑まれるわ」
言っている本人が声を震わせており、気を持ち直すために噛み締めた下唇から血が滴る。
「私たちは……ダンジョンを攻略するように頼まれた。戦いに赴かれる一也様の心残りがないように、明の言う通りそれを黙って受け入れた……だけど……」
なんとかして気丈に振る舞おうとしていた絵蓮さんが、もっと言いたいことがあったのにと力なく机に両手をつき、うつむいたまま動かなくなる。
最後になるかもしれない一也くんとの会話で一言も口にできなかった自分が絵蓮さんにかける言葉がない。
(どうして私はこんなに弱いんだろう……一也くんが死ぬかもしれないと思うと、彼の前で涙を出さないのが精一杯だった……)
花蓮さんがパタンとノートと共に机を叩き、腕を組んで背もたれにもたれかかる。
「それでうつむいて終わり? お姉ちゃんはいつのまにか受け身だけが取り柄の乙女になっていたのね」
「花蓮ちゃん、それは……」
絵蓮さんを厳しい口調で責める花蓮さんを止めるように真央さんが口をはさむ。
しかし、それが逆に花蓮さんの腹に据えかねたのか、顔を赤くして怒り始める。
「真央さんもですよ!! 2人して捨てられた子犬みたいに泣きそうな顔でうつむいて、一也を見返してやろうって気にはならないんですか!?」
「私たちが何をやっても、終わった時には見返す相手がいないじゃない!! どうしろっていうのよ!!」
涙をポロポロとこぼす絵蓮さんが悲痛な叫びをあげ、机に手を叩きつけながら花蓮さんへ向かって身を乗り出した。
見返す相手がいないと言われて、花蓮さんもそれはと口にして黙ってしまう。
「おそらく、一也さんの消息が途絶えるのは1週間後です」
明は身体を青く光らせながら何かを占っており、一也くんの行方がわからなくなるのが1週間後と断定する。
一也くんの話を聞く前には【おそらく死んでしまう】という内容だったのに、今になって時間を口にした。
「さっきはわからないって言っていたのに、どうしてわかるようになったんだ?」
沈黙を貫いていた佐々木さんが真っ赤な目で明を見ている。
明は返事をしてから、持っていたタブレットで人類不可侵周辺の地図を表示させた。
「一也さんの目的地が人類不可侵領域とわかったので、その周辺の情報や観測している国連の人たちについて占った結果です」
「そうか。なら、今から6日以内にこのノートに残されたダンジョンを片付けて、7日目にそこへ行けばヤツを見返せるんだな」
それを聞き、さらに明の体が青く光り、力強く佐々木さんの目を見返してうなずく。
「1週間後、人類不可侵を監視している人が2発目の核弾頭ミサイルを発射するように国連本部に対して要請します」
ここに居る人ですと国連へ報告する人がいる場所まで提示した明を見て、佐々木さんがギルド長の方を向いた。
「国連……最後の手段として一也くんが手配した可能性があるな……ギルド長、申し訳ありませんが、確認をしていただけますか?」
「わかった。少し失礼する」
ギルド長は椅子を蹴飛ばすように立ち上がり、スマホを片手に窓際へ向かっていく。
周りがどんどん動く中、私の心はまったく熱を持たず、何かをしようという気持ちが湧き上がってこない。
「お嬢さん、あなたにそんな顔は似合わない。これでも飲んで元気を出してください」
「え……アイテールさん……どうして?」
ここに居るはずのないアイテールさんがタキシードを身にまとい、私へ温かい飲み物を渡してくれている。
他の人も信じられないようなものを見て絶句しており、そんな中アイテールさんが数歩後ろに下がってゆっくりとお辞儀をした。
「ここに世界を救ってくれる冒険者が集まっていると聞いたので、守護者を代表して馳せ参じた次第であります」
アイテールさんが笑顔を私たちに向けるものの、自分の心に溜め込んできた感情が抑えられなくなる。
「私たちにそんなことができるわけがないでしょう!? 一也くんが死ぬかもしれない場所で一緒に戦ってくれと言われなかったんですよ!? それなのにのうのうとダンジョンに行けないです!!」
初めて弓を本気で練習してくれた一也くんから頼りにされなかった。
その事実だけが私の胸に刺さり、一也くんから弓は戦力にならないと遠回しに言われている気がしている。
(私は自分の大切な人から戦力だと信用されていない弱い存在なんだ)
また、押し止めていた感情が涙と共に止まらなくなる。
私の言葉を聞いたアイテールさんは一也くんが書いたノートを手に取り、優しい笑顔でそれを私へ差し出してきた。
「佐藤一也さんは私たち守護者全員が認める地球の救世主です。その彼が貴女へ託したものを一目だけでも見ていただけませんか?」
涙がにじむ目でろくに前が見えず、拭っても拭ってもあふれ出てきてしまう。
誰かが私のそばに誰かが立ち、代わりにアイテールさんからノートを受け取ったようだった。
「このダンジョンにいる敵は遠距離からの攻撃が有効です。夏美ちゃんの弓なら確実に倒すことができるでしょう」
「……え?」
声色から明が何かを言っており、顔を上げると一也くんのノートを開いていた。
私が見ていることに気付いた明は、続きを読むためにノートへ視線を落とす。
「ただ、中には遠距離攻撃に対策をしているモンスターもいますが、急所であるここを狙えば問題ないので、確認をしておいてください」
見てくれと差し出されたノートには、モンスターの絵へ急所はここだよと丸印が付けられている。
実物の大きさはわからないがかなり小さい丸を書かれており、夏美ちゃんなら狙えると応援されていた。
「なっちゃん、他のページも見てみて」
「うん……」
ノートを手に取って内容を流し読みすると、全員の得意分野が生かせるようにモンスターとの戦い方が細かく書いてあり、一也くんが私たちの力を信じてこれを託してくれたことが分かる。
「私たち守護者一同は佐藤一也という冒険者が信じたあなたたちを信頼し、力をお貸しするために私が参りました」
一緒に世界を救っていただけますかとアイテールさんが私たちを見渡しながら言っており、その言葉に耳を傾けない人はいなかった。
ご覧いただきありがとうございました。
更新は1月16日を予定しています。
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