地球攻略編~導入~
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「第二次世界大戦時に撮影された資料と監査員の報告から、今回佐藤一也選手が持ち込んだモンスターはこの領域から持ち出されたものと断定しました」
世界大会の競技場にある会議室にて、臨時にWAOの会議が行われていた。
俺は防衛大臣の補佐という名目で会議に参加しており、巨大スクリーンに映し出された映像から目が離せずにいる。
今発表しているモンスターの鑑定員は、別の資料をスクリーンへ投影させた。
そこにはパッと見は成人男性だが、背中の白い羽と頭部に赤い角が生えており、天使のようなモンスターの写真が映し出されている。
「鑑定した結果、名前がわからなかったため、初討伐を果たした佐藤一也選手が【殺戮の堕天使】を付けました」
説明を行なっているにもかかわらず、第二次大戦の映像に映っていた敵と瓜二つだったため、会議場内がざわめいていた。
鑑定員は必要最低限のことだけを口にして壇上から降りる。
会議の議事進行を担当するWAOの役員がマイクの前に立ち、周りを見ながら口を開いた。
「これについて、WAO会長より発言がございます。みなさま、静粛に願います」
役員が数歩後ろに下がると、会長が一瞬こちらを睨んでから、胸を張ってマイクをつかんだ。
「これに先立って行われた役員会議の結果、佐藤一也はモンスターと内通しているため、このような討伐ができるという結論に至った。よって、人類の脅威となる佐藤一也を【人型モンスター】と認定する賛否を問う投票を行う」
会長の言っていることの意味が分からず、テーブルの脇にあるモニターへ翻訳されるのを待っていたら、聞き間違いではなく、会長ひいてはWAO役員の正気を疑ってしまった。
(まさか、本当に実行するとは……)
にわかに流れていた噂話が現実となり、目の前が真っ暗になり思わず頭を抱えてしまう。
ここで補佐として参加している俺に発言権などはないため、防衛大臣に異議を申し出るように頼んだ。
「大臣、この投票は明らかにおかしいです! 正気の沙汰とは思えません!」
しかし、防衛大臣は俺の話を聞きながらも、迷わずに首を左右に振ってきた。
「篠原さん、すまない。この投票は実施させろと総理からの命令なんだ」
「そんな……総理が?」
事前にこうなることを知っていたのか、そう言い切った大臣は中央に置かれた投票箱を見つめる。
投票の準備が整い、大臣の手元には投票用紙が配られている。
古い方法で行われる投票を誰も止めることはなく、近い席の人から投票箱へ紙を入れ始めていた。
(始まってしまった……本当にこれでいいのか……)
防衛大臣は無表情で投票用紙に国名を記入して、【反対】に印を付ける。
投票が終わると即時開票作業が行われ、投票結果を役員が読み上げていた。
賛成と反対の数が積み重なるにつれて、俺は全身から力が抜けていくのを感じる。
(こんな結果……ここにいるほとんどの人が頭をやられている……)
ここにはWAOに加盟している百以上の国の代表がいるはずなのに、大多数が賛成に投票してしまった。
反対は日本を含めて数国で、アメリカは未記入で無効投票となっている。
「この結果より、WAOは佐藤一也をモンスターと認定し、討伐対象とする」
その結果を会長が満足そうに見ながら高らかに宣言し、会場は拍手で応えていた。
一部始終を見ていた俺は頭に血が上り、今ここで全員を殺せば投票結果なんて関係なくなるのではないかと考え始めている。
「篠原くん、一度深呼吸してここを出よう」
俺の異変に気付いた防衛大臣は必死に腕をひいてここから出そうとしてくれていたが、こんなことになってしまい、どんな顔をして佐藤たちに会えばいいのかわからない。
「防衛大臣、自分の一命でこの結果を再考してもらうことは可能でしょうか?」
今できることを口にしたものの、防衛大臣がむりだろうと言いながら周りを見る。
「佐藤くんは敵を作りすぎた……きみが死んだところで誰もなんとも思わないだろうな……」
「そう……ですか……」
確かに佐藤の所属している日本の地方にあるギルド長が死んだところで、ここにいる誰一人として気にしない。
むしろ、WAOの会議で決定した内容に反対して、何事かと国が指導を受ける可能性もある。
「臨時会議を終了とする。会議内容はこの後の閉会式で世界へ向けて発信する。以上、解散」
役員が会議の終了を告げ、俺は佐藤に顔向けができず、失意のまま閉会式を迎えた。
閉会式の前に、結果の決まっていない個人戦の成績を発表するために会長が壇上へ上がった。
「1位、日本。佐々木優、谷屋絵蓮、谷屋花蓮、清水夏美、太田真央」
5人は自分たちの名前が呼ばれて、不思議そうに佐藤の顔を見ながら前に置いてある表彰台の頂点に立つ。
会長が3位までに入った人たちへメダルを授与しようとしたとき、佐藤が表彰台へ近づいた。
「すみません、俺のモンスターはどうなりましたか? 結果を教えてください」
警備員が質問をしている佐藤を止めようとするが、全員が盾で吹き飛ばされ、誰も近づくことさえできない。
それを見た会長は顔を真っ赤にして、佐藤を壇上から見下ろす。
「黙れモンスターめ!! WAOはお前を人型モンスターに認定した! 今日から討伐対象となり、人としての生活ができると思うなよ!!」
それを言い放つ会長を会場中の全員が見ており、当の佐藤はよほどのショックなのかうつむいてしまっている。
すると、さらに追い打ちをかけるように武装をした集団が競技場へ入ってきた。
「警備員こいつを今すぐ始末しろ!!」
佐藤を鬼の形相で見ている会長が武装した集団へ命令を出している。
こんなものまで用意していたのかとWAOの狂気に恐怖していたら、会長の肩が撃ち抜かれた。
「はああああああああ!!?? なんで俺が撃たれるんだ!!??」
壇上から転げ落ちた会長が叫び始め、競技場内にいる観客や選手に動揺が走る。
そんな中、佐藤が会長を片手で持ち上げた。
「WAOはそのような選択をしたんですね。非常に残念です」
悲しむように空いている手で目をぬぐう仕草をする佐藤を見て、俺は思わず笑みがこぼれた。
(佐藤はこの状況になることを知っていた……利用したんだ……)
俺は佐藤が規格外であることを忘れており、ため息をついてしまった。
(あいつはWAOの会議内容1つで右往左往するようなヤツではない)
落ち込んでいた自分を笑ってしまい、競技場にいる佐藤が何をするのか見守ることにした。
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