世界大会編⑬〜世界大会団体戦U-16の部開始〜
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「ここで最終確認を行います」
指定された場所に移動すると、ベストを着た大会運営のスタッフが俺たちの所にきて、ボードのようなものを見ながら話しかけてきた。
他のチームでも同様のことが行われており、花蓮さんの前に立ったスタッフが俺たちの装備に目を移す。
「使用するものは、盾と剣、弓で間違いありませんね?」
事前に申し込み用紙へ持ち込むものを記入しておいたはずなのに確認されなかった。
俺は肩に乗せた豆狸を抱きよせて、スタッフへ差し出す。
「テイムモンスターの豆狸も一緒です。書き忘れていませんよね?」
「……記入してありますが、本気なんですか?」
女性のスタッフは豆狸を見ながら、本当にここで戦わせるつもりなのかと怪訝そうに聞いてきていた。
しかし、今日の主役はこの子なので、こちらこそ確認をしておきたい。
「テイムモンスターの使用も可ですよね?」
チームで使用できるものならどんなものでも使用が可能な今大会は、競技場周辺に影響が出なければ化学兵器も認められている。
そこにテイムモンスターの使用制限もないため、俺は豆狸を持ち込んで可愛らしさをアピールしたい。
それが理解してもらえないのか、スタッフの方は難しい顔をしてボードと豆狸を交互に見る。
「ルール上できますが……他のチームは戦車や装甲車を持ち込んでいるんですよ?」
「ああ、おもちゃですよね。それとこの子がなんの関係が?」
「おもちゃ……確認終了しました。ご武運を」
心にもなさそうな言葉を残して、スタッフの人はボードを脇に抱えて競技場を後にした。
他のチームはまだ確認をしていたため、暇を持て余していると、夏美ちゃんが矢筒を鳴らしながら近づいてくる。
「あの……本当にたぬちゃんを肩に乗せたまま戦うの?」
「夏美ちゃんも心配?」
うんとうなずく夏美ちゃんの後ろにいた、ダマスカスの大剣を肩で担いだ花蓮さんがこちらを見てきた。
「それはそうでしょ、連れてきたことなんて今まで一度もなかったじゃない」
「そんなに心配しないでください、この競技場で一番安全な場所ですよ?」
剣を握る手に力を込めた花蓮さんだったが、諦めたように笑いため息をついた。
「理由を聞いているんだけど……話す気はないみたいね」
「まあ……すぐにわかりますよ。それより、2人とも体調は万全ですか?」
当たり前と言わんばかりに2人が武器を構えると、背後のスピーカーから声が聞こえてくる。
「全チームの確認が終了しました。これより、30分のミーティング後に、試合が開始されます」
周りにいたチームが動き始め、戦車などがこの競技場内を入り乱れる。
(これは競技場というか、もう戦地って感じだな……)
対面にいるチームまで遠く、目を凝らさないと見えないくらいに小さい。
他のチームは事前に話し合っていたのか、次々とまとまりが大きくなる中、俺たちには誰も声をかけてこない。
「それで、一也? 作戦は考えているの?」
無限軌道が動く音や人の話し声がざわめきのように聞こえているが、花蓮さんの声ははっきりと俺に届く。
こんな時でもやることはいつもと同じなので、俺は競技場の中央に向かって歩き始める。
「中央で頑張ろう作戦です。行きましょう」
「まあ……こんな状況じゃあ、どこにいても一緒か……」
花蓮さんが俺たちから距離を取る群衆を眺めて、苦笑交じりに口を開き、後を付いてきてくれた。
夏美ちゃんは最初から傍から離れるつもりはないのか、3歩後ろをキープし続けている。
いつも通り中央に着くと大量の戦車や人が俺たちに注目をしており、今にも弾を撃ってきそうな雰囲気だった。
「なかなか嫌われていますね。煽りすぎましたかね?」
「ネットで調べたけど、この大会で一也くんを倒したら100億ドル、私たち2人は50億ドルの懸賞金がかかっているらしいわよ」
武者震いなのか少し体を震わせながら花蓮さんが周りを見ており、私たちは2人であなたと同額よと苦笑いをしている。
日本円に換算したら金額が金額なので、どこへそんな恨みを買ったのか不思議に思ってしまう。
「そんなお金、どこが出資しているんですか?」
「世界中の企業が結託して集めたみたい。日本の企業も出資しているから、相当嫌われているわね」
「これだけのものをおもちゃ扱いしていますからね……世界も本気ってことでしょう」
全世界の企業が俺たちに対して本気を見せているかと思うと、悪い気はしなくなってくる。
さらに、追い打ちをかけるように、すべてのチームが俺たちをぐるっと囲うのではなく、片円に集合していた。
弾が他のチームに当たらないように配慮しているのかと思うと、全チームが俺たちを狙っていることがわかる。
「これだけ徹底されると面白いですよね。人対兵器みたいな感じですかね?」
「笑い事じゃないでしょ……全チームの敵になっているじゃない」
俺が笑いながら前方に集まる人たちを見ていたら、花蓮さんが呆れるように首を振る。
夏美ちゃんはやりやすくなったと呟き、弓を引いて相手との距離を測っていた。
残り時間が少なくなってきたので、最後の作戦会議をするために武器を構えている2人を呼ぶ。
「花蓮さん、夏美ちゃん、始まるまで俺の腕をしっかりと掴んでもらえますか?」
右手に矢を持っていた夏美ちゃんが不思議そうな顔で俺へ顔を向ける。
「これから一斉にくる砲撃から守ってくれるの?」
「うーん……そんな感じ?」
「なんで疑問形なの……」
夏美ちゃんは矢を弓から外し、右手で俺の左腕を力一杯掴んできた。
右手で大剣を支えている花蓮さんは首を傾げながら左手で右腕を握り締めてくる。
(オーラで強化しなかったら潰されているところだ……)
2人のよく分からないといった気持ちが痛いくらいに伝わり、我慢しながら競技が始まるのを待つ。
体内時計では30分はとうに過ぎているはずなのに、いつまで経っても開始の合図がされない。
(あれ? スマホも震えているのに、まだか?)
そんな時、競技場内を響き渡る電子音が聞こえ、それと共に戦車や装甲車が一斉に始動する。
「開始10秒前」
ここでも開始の合図がカウントダウンのようなので、タイミングを計るには絶好の方法だった。
2秒前まで微動だにせず、1が言われる瞬間に地面を蹴り、空神の力で宙へ浮遊する。
2人の戸惑う声が聞こえる中、俺は心の中でレべ天に最後の仲間を連れてきてもらう。
『天音頼む!!』
『わかりました』
すると、飛んでいる俺の正面へ、まばゆい金色の光と共に白く輝くエンシェントドラゴンが召喚された。
『一也!! ここで僕と勝負してくれるんだよね!?』
『ああ、もちろんだよ。その前に、正面にいる邪魔者たちを一緒に振り払ってくれる?』
『任せて!! 行こう!!』
ゼロというカウントが聞こえるが、競技場からは悲鳴にも似た絶叫が響き渡り、誰もこちらへ弾を撃とうとしない。
いつものように空の背中へ乗り、眼前に散らばっているおもちゃの片付けを始める。
ご覧いただきありがとうございました。
更新は12月20日を予定しています。
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