世界大会編⑪〜世界大会Uー16団体戦〜(佐々木優視点)
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世界大会はアメリカの首都から少し離れたところにある合衆国一広い競技場で行われる。
二日後に開催される個人戦のこともあり、この大会は毎年ここで行われていた。
(やっと団体戦か……大会前にこんな疲れるなんて思っても見なかった……)
ようやく迎えることができた世界大会当日、この日を迎えるまで一也の兵器に対する挑発は苛烈を極めた。
学校の壮行会で彼が話をしている様子は世界中に発信され、おもちゃを作っていると馬鹿にされた企業が訂正と謝罪を日本に求めてきた。
また、宙に浮いた一也についての問い合わせも止まることが無く、対応に追われていたら取り上げる番組の多くがフェイク動画という結論に至った。
(なぜか俺のところにすべての苦情がきて、俺も我慢ができなかった……)
世間が日本代表にふさわしくないと一也を非難する者と、この世界の救世主と崇める者が現れ、大変な騒動になった。
その論争は絵蓮が上げたある一本の動画で、さらに激しくなる。
まだ、開会式まで時間があるため、この騒動のきっかけとなったその動画をスマホで見ることにした。
【専門大学校総合演習 谷屋花蓮とゆかいな仲間たち対冒険者大学校戦車大隊】
正気を疑うようなタイトルを途中まで打ち込んでいると、予測変換でこの文章が出てきた。
英語版に翻訳されたバージョンもあり、何度も見た日本語のものを選択する。
(冒険者大学校が所有している50弱の戦車と戦おうとしている3人……あの演説から数日後にこれが撮影された……)
どういう経緯でこのような対戦が組まれたかわからないが、剣士大学校の理事長を動かしたと言っていた絵蓮が発起人に違いない。
この映像では、戦車のあらゆる攻撃が一也や花蓮に効かず、夏美の矢によって次々と戦車が走行不能になる。
(一番の見どころは、一也の振り上げたメイスで宙に放り出された戦車が花蓮によって真っ二つにされるところだな)
最初にそのシーンを見た時、俺は鳥肌が止まらず、戦慄を覚えてしまった。
そして、この直前に一也くんから呼ばれていたにもかかわらず、県庁で電話の対応があるからという理由で断ってしまったことを何百回も悔やんだ。
冒険者大学校との戦いを記録した映像の最後には、【私たちPTと対戦しましょう。今回のようにおもちゃを使うのなら容赦はしない】と、何か国語にも翻訳された文章が並べられた。
(でも、それ以降の対戦には全部出席した……あのRank5PTとの戦いには胸にくるものがあった……)
それを見て、あらゆる企業が戦車や戦闘機を使用して挑戦したが、どこも勝つことができず、世界に数組しかないRank5のPTへどこかの企業が依頼をした。
相手はダンジョンアタックの成功率が高く、安定してピラミッド等のダンジョンでも活躍しているPTで、戦車等は使わずに、人数と銃器による制圧を得意としている。
冒険者になった者ならそのPTに加入することを目指すほど有名であり、俺も1度ダンジョンアタック前にサインをもらいに行ったことがある。
そんなPTでさえ、一也くんたちの装備を傷つけることさえできずに敗北した。
(あの戦いで一也くんのことを非難する人がいなくなった……ただ……)
世界大会前にそのようなことをしてしまっため、この団体戦が例年とは違う戦い方式になってしまった。
この競技場にある観客席は外からの銃弾等の影響を受けないように個室が用意されており、耐衝撃ガラス越しか、備え付けのテレビで観戦できる。
この個室は日本の関係者用に用意され、50名ほどが入って大会が始まるのを心待ちにしていた。
「佐々木、またそれを見ているのか?」
世界大会前に開かれる関係者会議に出席していたギルド長が観戦部屋へ戻ってきて、また悩み事を抱えたように困った顔をしながら俺の横に座った。
いきなりそのことを聞くのも失礼なので、少し会話を盛り上げてからそれとなく話をしてみたいと思う。
「時間があったので……ギルド長はこの戦いを見に行かれたんですよね?」
「そうだ。あれは爽快だった」
「爽快……ですか?」
ギルド長から出てきた言葉が意外すぎて、オウム返しのように聞き返してしまった。
フっと口角を上げて笑うギルド長は、腕を組んで正面の競技場へ視線を移す。
「ああ、武器だけを持った3人の人間に、国内の最新戦車が次々とぼこぼこに壊されていくんだ。あれだけの戦闘を特等席で視られた俺は幸せ者だ」
横に座っていた冒険者大学校の学校長は真っ青になっていたなと続けるギルド長は、ひとしきり笑った後、深くため息をついた。
「まあ……その動画の影響かは知らんが、WAOの大会前の事前会議で馬鹿げた意見が出されたがな」
そう言ったギルド長の目元が鋭くなり、組んでいた腕に力が入っている。
これが本題かと思い、俺は聞き逃さないように動画の再生を止めた。
「その意見とは?」
俺が少し身を乗り出して質問をすると、ギルド長は眉間にしわを寄せてこちらを見てきた。
「佐藤一也は人間の形をしたモンスターではないか? というものだ」
「はぁ!? 何を馬鹿な!?」
あまりの愚かな思考に、会議へ出席したその意見を述べた人の頭が正常ではないことを確信する。
俺の声を聞いた周囲の人がこちらを見てくるので、立ち上がって失礼と頭を下げて椅子に座り直す。
言いたいことはわかるとうなずくギルド長は、椅子の肘掛けに腕を降ろした。
「活躍は化け物級だからな……そんなことを言われたから、呆れて大会について異議を唱えるのを忘れてしまった」
ギルド長と話をしていたら、周りの観客が歓声を上げて競技場の方へ一斉に目を向けている。
競技場にはWAOの会長が現れ、世界大会の開会式が行われそうになっていた。
「その意見を言った方は?」
そんな中、頭がおかしいとしか思えない意見を言った人物を知りたい俺は、競技場を見ずにギルド長へ詰め寄る。
ギルド長の視線は競技場にいるWAOの会長から外されることはなく、俺は嫌な予感から背中に冷や汗をかく。
「あそこに立っているWAOの会長だ」
「なら……その意見は……」
「大会後に判断する……という決議がされた」
あそこで微笑んでいる老人が正気なのか疑い、どうしても一也に優勝してほしくないという意思が伝わってきた。
「大会で優勝したら一也をモンスターと認定すると言っているようなものでしょう!?」
そう聞いたところ、ギルド長は表情を変えず、ずっと会長を睨んだままうなずく。
「だろうな……俺にもそう聞こえた」
このことを一也くんに言うべきなのか悩みながら開会式を見守る。
すると、部屋の扉が開かれ、血相を変えた大会運営スタッフが誰かを探すように顔を動かしていた。
なんなんだろうと眺めていたら、その日本人スタッフが俺の方に向かって歩いてくる。
「佐々木さんですよね!? なんでここにいるんですか!? 個人戦に出場する選手も開会式に出席するんですよ!? 今すぐ行きましょう!!」
しまったと思って息を呑むと、周りにいた観客もなんで俺がここにいるのか不思議そうに顔を向けてきていた。
横に座るギルド長は俺の方を向き、両手を合わせてくる。
「すまん佐々木、伝えるのを忘れていた。お前、呼ばれていたぞ」
「ギルド長……嘘でしょ……忘れますか?」
「佐々木さんはやく! 日本代表が入場してしまいます!!」
「わかった! 今行く!」
一也くんの行動が衝撃的すぎて、自分が世界大会の個人戦にでることを忘れていた。
俺は観客部屋を後にして、前を走るスタッフの後を追った。
ご覧いただきありがとうございました。
更新は12月14日を予定しています。
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