世界大会編⑩〜世界大会に向けて〜
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防衛大臣の話は最初こそ俺たちに向けてのエールだったが、途中からなぜか国が行なっている冒険者への支援について説明しており、なんでこんなことを聞かされているのだろうと分からなくなった。
何度も、誰にも見えない速度で頭を殴って気絶させてやろうかと考えるものの、その度に体育館の後ろにいる佐々木さんが目に入り、拳を押さえる。
佐々木さんの横には大きなカメラが数台設置してあり、報道関係者だと分かるように目立つ腕章を腕に着けている人が数人いた。
記録されている中、防衛大臣を殴るわけにもいかず、ただひたすらに話が終わるのを待つ。
「この3名には我が国の代表として胸を張って戦ってきていただきたいと思います」
長きにわたる話をその言葉で締めると、聞き終わったという開放感を覚えた。
司会の生徒はまじめに聞いていたのか、防衛大臣の話が終わったのと同時に進行を続ける。
防衛大臣が席に着くのを待つように、別の生徒が俺へマイクを渡してきた。
「それでは最後にリーダーである佐藤一也さんから挨拶をいただきたいと思います」
そんなことをするなんて聞いていないので、生徒の前で話すのが慣れてそうな花蓮さんへマイクを渡そうとしたら、顔を小さく何度も振り、断固拒否の意思を伝えてきた。
夏美ちゃんと目を合わせたら、泣きそうな顔になったため、しかたなく壇上の中央へ向かう。
(一言頑張りますって言えばいいか……ああ……でも、この人たちに言ってやりたいことがあったな……)
生徒全員を見渡せる場所に立ってから、この学校で起こったことを振り返り、花蓮さんと夏美ちゃんを見る。
こんな機会を俺に与えたことを後悔させるように、壮行会なんぞ関係なしに、話をすることにした。
「みなさんは覚えていますか? そこに座る花蓮さんのことを、運が良く俺とPTを組んだから全国大会にでることになった……と、SNSで日本全国に広めましたよね?」
修練場で泣きながら剣を振るっていた花蓮さんの姿を思い浮かべた。
俺の言葉は大半の生徒が該当することなので、体育館の空気に緊張感が張り詰める。
「今、彼女の前に立って同じことが言える人は立ってみてください。どうぞ」
俺は口元からマイクを離して、座っている生徒や教員を眺めた。
全員がピクリとも動こうとしないので、次の話に移る。
「また、歴史だけはある部活だから残っていると、弓道部を馬鹿にしていた人がいますよね? 清水夏美さんへ銃を使わない生徒で、ひいき入学と無能扱いしていた人たちはどういう気持ちでこの場にいるんですか?」
一人弓道場で弓を引き、クラスで腫れ物扱いされていた夏美ちゃんには誰一人友達がいなかった。
唯一の味方である田中先生にも、同じ教員が夏美ちゃんへ弓を諦めさせろと説得するように仕向けていた教員もいる。
「また、俺に杖で殴られた人がほとんどのため、不本意でこの壮行会に参加しているとは思いますが……この度はこのような会を開いていただいてありがとうございます」
正直この学校の生徒や先生から応援されているという感じがしないので、言いたいことをぶちまけた。
(あー、すっきりした。次は何を話そうかな)
この場の空気が凍りついたのは俺でもわかる。
ただ、この状況のまま放っておくのは遠くから来てくれた来賓の方々に申し訳ない。
何をすれば良いのか考えていたら、苦笑いしている佐々木さんと目が合った。
「佐々木さん、俺へファイヤーアローを撃ってください」
体育館の後ろで唖然としていた佐々木さんへ、魔法を撃つように指示をする。
両手を広げて無防備をアピールすると、佐々木さんが俺へ手を向けてくれた。
「ファイヤーアロー!!」
30本の炎の矢が俺に放たれるが、微動だにせずその魔法を迎える。
炎の矢はオートパリィによって弾かれて火の粉になって散らばった。
「佐々木さんはファイヤーアローを覚えるのに、スキル書を読みましたか?」
急に俺に聞かれた佐々木さんは戸惑うように周りを見てから、肩を落とす。
「読んでいない! モンスターと戦っていたら使えるようになった!」
佐々木さんは壇上にいる俺へ聞こえるように言ってほしいことを口にしてくれた。
撮影をしているカメラを見ながら、今起こったことの説明をする。
「俺は盾を使いすぎた結果、今のように魔力でどんな攻撃も防ぐ盾を作れるようになりました。後ろにいる佐々木さんや、花蓮さん、夏美ちゃんも、スキルを覚えるのにスキル書なんてものは使っていません。この国で行われているスキル教育はすべて間違っているのです!!」
体育館の中にいた生徒は少なからずスキルには興味があり、冒険者になるべくこの中学校を志していることだろう。
ただ、国がスキルというものを正しく理解していないため、こんな間違ってことが全国的に行われている。
ほとんどの人はスキル書によるスキルしか知らないためだ。
俺は総理たちへのプレゼントだと思い、自分のやってきたことを口にすることにした。
「スキル書なんて破り捨てて、一心不乱に武器を振ってください! その結果どうなるのか、俺たちが世界大会で証明します!」
総理や防衛大臣がなんてことを言っているんだという目で俺を見ており、複数の教員が俺を止めようと壇上に寄ってきていた。
しかし、俺には誰にも止めることができない【空中】という場所がある。
ここに座る生徒へ今日のことを一生忘れさせないために、空神の力を借りて浮上した。
数百の驚愕した目を向けられたまま、俺は世界中に存在する兵器へ宣戦布告を行う。
「世界大会へおもちゃで戦いを挑もうとする愚か者どもは俺が軽くひねりあげましょう! モンスターとろくに戦えないガラクタを製造している企業がどこなのかがはっきりとわかるので、楽しみにしておくといい!!」
この場にいる全員が驚いて目を疑うような表情をしている中、言いたいことが終わったのですっきりして壇上に降り立つ。
これまで話が終わったらスムーズに進行をしていた司会の生徒が、口をぽかんと開けたまま俺のことを見つめていた。
このままでは終われないので、自分で終わらせるために右手に持っていたマイクを口元へ寄せた。
「以上で俺の話を終わります。御清聴ありがとうございました」
頭を下げてからマイクを持ったまま椅子へ座ると、ようやく司会の生徒がはっとして壮行会を終了するアナウンスを行う。
それを聞いていたら、横に座る花蓮さんと夏美ちゃんが不安そうに俺のことを見てきた。
「私、何もせずに攻撃を弾くとかできないんだけど……」
「私もです……どうすればいいんですか?」
2人とも自分の能力に自信が持てないようだったので、世界大会までの間に鍛えることにする。
「じゃあ、ダンジョンへ行きましょうか。二人も今以上に武器を使って強くなりましょう」
一言の雑談さえもせずに退場していく生徒を眺めながら、俺はどのダンジョンへ行くのか考え始める。
ふと体育館の後ろへ目を向けたら、今もカメラが俺の撮影を続けているような気がした。
ご覧いただきありがとうございました。
更新は12月11日を予定しています。
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