世界大会編④~防衛大臣の電話~
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電話を耳に当て、防衛大臣が何かを言う前に条件を伝える。
「1ヶ所5000億で派遣されます。値下げ交渉は受け付けません」
「……それはダンジョンの値段か? それとも街単位か?」
「どっちでもです。それで解決するのならお安いでしょう? 複数にまたがる場合はその分いただきます」
このタイミングでかかってくる電話は俺の派遣要請としか考えられないので、法外な値段をふっかけて遠回しに断っているつもりだった。
しかし、防衛大臣は何も言わず、何かを考えているような間を生んでいた。
「その条件を相手に伝え、検討してもらう。また後で連絡してもいいか?」
「え、ええ……お待ちしております」
電話が切られ、横で待っていた腕を組んでいる佐々木さんと目が合う。
「1ヶ所5000億って言ったのに、検討してくれるそうですよ」
「それほど切羽詰っているということだろう……依頼されたら、本当に行くのか?」
「もちろんです。そこまで出されたら行きますよ」
「そうか、ありがとう」
佐々木さんにお礼を言われるのもおかしいので、ちゃんと話が伝わっていないように感じた。
「佐々木さんも行くんですよ? 依頼が来たら県庁から許可をもらっておいてくださいね?」
「きみの受けた依頼に俺たちが付いていくのか!?」
思った通り、佐々木さんは行くつもりがないと考えていたので、言っておいてよかった。
「ずっとそう言っているじゃないですか。よろしくお願いします」
「あ、ああ……」
もう書類等の手続きがないことを確認してから、車にのる佐々木さんを見送る。
(この後どうしようかな……)
フラフラと歩いていたら、俺の後ろから数人が走っている足音が聞こえてきた。
避けるために道の端に寄り、その人たちを観察する。
(なんであんなに必死なんだ? 何があるのか気になるな)
数人の男女がこの暑い中を全力で走り、全身から汗が流れ出ていた。
(暇だし行ってみよう)
それでも足を止めないので、あの人たちの行く場所になにがあるのか見てから帰ろうと思った。
気配察知を使用して、その人たちの気配を追い始める。
(あれ? ここは……)
気配を追っていたら大人数が何かを囲うように1ヶ所に集まっていた。
さらに、自分の今いる場所から、その場所がどこなのかわかった。
(修練場? なにかのイベントでもやっているのか?)
大人数がいるので、隠密を使用して修練場へ足を踏み入れる。
うぬぼれているわけではなく、街を歩いているだけでも話しかけられるので、それらを防ぐための対策だ。
人が修練場のグラウンドの中心を囲うように遠巻きで何かを見ており、時折金属の打ち合う音が聞こえる。
中央では誰かが砂ぼこりを立てており、人垣の隙間から特徴的な黒い波紋のある大剣が見えた。
(花蓮さんがいる。相手は……そりゃそうか。俺以外に剣で相手をできるのはこの人しかいない)
絵蓮さんの扱う銀色に輝くメタルゴーレムの剣が、振り下ろされたダマスカスの大剣をいなし、花蓮さんに切りかかる。
「もらったわ!!」
花蓮さんはさらに踏み込み、地面をえぐりながら剣を振り上げ、力任せに絵蓮さんの剣を強引に弾く。
「うらぁあああ!!」
重いはずの剣を軽々と扱う花蓮さんの姿に観客は息を呑む。
また、対峙している絵蓮さんは、最小限の動きで相手を仕留めようとあらゆる隙を見逃せない。
その一挙手一投足をいつの間にか見入ってしまう魅力がある。
(剛剣と柔剣の戦い、勝つのはどっちかな? お互いまだ本気じゃないみたいだし、ちょっと見ていこう)
2人の戦いが熾烈を極め、最前列で見ている人たちがその殺気に当てられて思わずたじろいでいた。
俺は立っていただけなのに、後ろから押されるように前へ進まされる。
(いつの間にか一番前だ。俺のこと見えていないよな?)
そんな時、拮抗する2人の呼吸が合い、決着を付けるために動き出す。
薙ぎ払うように大剣を横へ振る花蓮さんの攻撃を絵蓮さんが避けるために剣先を揺らした。
防ごうとした絵蓮さんの剣が空を切り、花蓮さんは姿を消してしまう。
「上!?」
「らぁああああああああ!!」
強引に体をひねることで攻撃を止め、上空へ飛んでいた花蓮さんは剣を振り上げた。
「一刀両断!!!!」
絵蓮さんが避けられない絶好タイミングで花蓮さんが必殺の一撃を繰り出す。
しかし、俺には窮地に立たされたはずの絵蓮さんが笑みを浮かべているように見えた。
「パリィ!!!!」
「嘘でしょ!?」
剣が間に合わないと判断した絵蓮さんは鞘でパリィを行い、花蓮さんの剣を弾く。
大剣はその衝撃で花蓮さんの手を離れて、回転しながら宙を舞う。
(あのままだと観客に当たるな。仕方がない)
2人の戦いにケチをつけられたくないので、見物している人に被害を出さないためにテレポートを行う。
パリィで誰もいない地面へ向かって剣を弾く。
ダマスカスの大剣は地面に突き刺さり、その横へ着地する。
俺がいるとは思わなかったのか、周りにいる人や悔しそうな顔をしていた花蓮さんが絶句している。
そんな中、絵蓮さんが嬉しそうに俺へ駆け寄ってきた。
「一也くん、見てくれていたの?」
「はい。鞘でパリィをできるようになったんですね」
2人の戦いを見ていたら体を動かしたくなったので、大剣を地面から抜いて花蓮さんへ渡す。
「第2ラウンドは2対1でどうですか?」
悔しそうに剣を受け取った花蓮さんが、深呼吸をして気持ちを切り替えていた。
「お姉ちゃん、まだ余力ある?」
「もちろん、花蓮こそ足引っ張らないでよ」
言葉を交わした2人が剣を構えるので、俺も両手に盾を装備して迎え撃つ体勢を取る。
何回目になるのかわからない、谷屋姉妹との戦いが始まろうとしていた。
ご覧いただきありがとうございました。
更新は11月23日を予定しています。
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