世界大会編③~杉山さんのお店にて~
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力なく顔を上げた杉山さんと目が合い、カウンターに近づくとふーっというため息が聞こえてきた。
「杉山さん、どうしたんですか?」
「最近、お前たちの装備を俺が作ったということがいつの間にか広がって、日本中から注文が殺到しているんだ」
「嬉しいことじゃないですか」
俺が通い始めた頃は、このお店に閑古鳥が住み着いていたので、杉山さんの作ったものが評価されて気分が良い。
しかし、杉山さんはこの状況を歓迎しているようには見えず、カウンターの後ろへ視線を投げる。
「俺はいくら金を積まれても、直接認めた相手にしか奥の商品を紹介しないから、なかなか相手が引き下がらなくてな……」
「確かに……俺の手と剣を観察していましたね」
このお店に初めて来たときのことを思い出していたら、杉山さんがしんどそうに立ち上がって奥へ行こうとしていた。
「電話注文なんて受け付けていないから直接来るように言ったら、他県ならまだしも、海外からも人が来るようになって、断るのも一苦労さ」
「すごいですね。何人くらいこっちの方へ来ることができました?」
ゼロだと言いながら悲しそうな顔をして、杉山さんは【本当のお店】へ進んでいく。
外向き用の販売スペースの奥には、ミスリルや俺が採ってきたアダマンタイトで作られた武器が並んでおり、以前よりもラインナップが増えている。
その分、値段が跳ね上がっているけれど、素材を考えれば妥当な物ばかりだ。
(これだけ億って数字が並んでいたら、ミスリルの数千万がお買い得に見える)
アダマンタイトの剣は俺の中古品のため、値段が《要相談》と書かれていた。
一つ一つの武器を厳重に保管してあり、前のように気軽に持つことができない。
杉山さんへ言えば開けてくれるのだが、その場合は入り口がロックされ、持ち出せなくなる。
なんかすごいお店になったなと思っていたら、佐々木さんがバッグから書類を出しながら杉山さんへ近づく。
「杉山さん、あなたに彼が世界大会へ参加する時のスポンサーになっていただきたいのですが……」
「正気か? 【いつもの】世界大会だろう? 俺にはこの店にある武具しかないが……どうするんだ?」
「それは……」
何かを言いたそうに佐々木さんが俺を見てくるので、杉山さんへうなずきながら答える。
「むしろ、今の装備を入念に手入れしれくれるだけでいいです。企業名を埋められればいいらしいので」
「そんな馬鹿な話が……お前だからあるのか……」
呆れながら俺を見てきた杉山さんは、苦笑いをしながら紙を受け取り、書いてくると言い残して作業場へ行ってしまった。
杉山さんが戻ってくるまで武器を眺めていようかと思っていたら、佐々木さんが話しかけてくる。
「世界大会では、全ての相手が最新鋭の兵器を使ってくるが、本当にきみはこれでいいんだな?」
「へーきです」
「きみが良くても他の2人は対応できるのか?」
あまりに深刻そうな表情で聞いてきていたため、冗談を言ってみたのだが完全にスルーされてしまった。
つまらないと思いながら近くの椅子に座り、スマホを眺めながら質問の返答をする。
「相手が何を使おうが、俺の盾を撃ち抜けるとは思えません」
「それはそうだろう。しかし、夏美や花蓮は……」
「あの2人も同じですよ。花蓮さんにいたっては、ジブラルタルのゴリラを両断していますからね」
個人で使える武器ならなんでも良いというルールは、花蓮さんのダマスカスの大剣も許可が下りる。
どんな銃を突きつけられるよりも、あんなものを振り下ろされる方が怖いと思うのは俺だけではないはずだ。
「まあ……確かに……」
花蓮さんの大剣を見たことがある佐々木さんが、腕を組んで納得しているように見えたので、杉山さんが戻るのを静か待とうとした。
「お、早速やってる」
その時、【WAOモンスター被害を隠ぺいか!?】という見出しでニュースアプリから通知が入る。
アプリを開いて記事を読むと、現在アメリカの大統領がWAOの隠していた情報を暴露しており、被害に遭った人たちの証言を公表していた。
その中には、アフリカ大陸で蟻から逃げたモンスターに住んでいた街を破壊された人の証言もあり、場所や日時など事細やかな状況の説明がされている。
最後に大統領は人類に危機が迫っていると言ったと書いてある。
(こんなに調べてくれていたんだ。すごい量だな……)
大統領が公表した資料には過去数十年に亘って、モンスターによる市街地で起きた世界中の被害がまとめられており、年々増加傾向であることがはっきりとわかるようになっている。
俺との約束を守ってくれた大統領に心の中で感謝をしてスマホをしまう。
「そんなに杉山さんが了承してくれたことが嬉しいのか?」
「え? どうしてですか?」
「なんだかにやにやしているぞ」
「すみません。別の件です」
佐々木さんに指摘されるまで、自分が笑っていることに気付かなかった。
(このまま世界中にこの情報が広まってくれればやりやすくなるけど、まあ、WAOが必死で止めるだろうな)
約束を果たしてくれた大統領を守らなくてはいけないと思っていたら、スマホの着信音が聞こえてくる。
俺ではないので、佐々木さんへ顔を向けたら、すまんと言いながら電話に出た。
話をしている佐々木さんの顔がみるみる青くなり、時折チラチラと俺の顔を見てくる。
(大統領が発表した件かな?)
佐々木さんの電話が終わると同時に杉山さんが戻るので、俺は書いてもらった紙を受け取った。
【杉山武具店】
なんの素っ気もないこのお店の名前が書かれており、その紙を見ていたら佐々木さんがもたれかかるように椅子へ座る。
「一也くん……きみは何をしたんだ?」
「急にどうしたんですか?」
「世界中がモンスターによる被害への危惧でパニックに陥っている」
「何があったんだ!?」
佐々木さんは俺が先ほど調べた内容を杉山さんへ伝え始めた。
ただ1点違うのは、今のところ日本だけがほとんど被害を受けていないということが追加されている。
「一也くん、きみが強制的に他国へ派遣される日も近いかもしれない」
「そうなったら、PTのみんなは一緒に来てもらうので、許可をもらっておいてくださいね」
どの国が一番に俺へ支援を求めるのか楽しみにしながら、杉山さんのお店を後にする。
すると、さっそく防衛大臣から電話がかかってきたので、立ち止まって通話ボタンをタップした。
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更新は11月20日を予定しています。
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