宿命の相手編④~約束の時(谷屋絵蓮視点)~
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「絵蓮さん、今日は約束通り、俺の実力をお見せしますね」
「ありがとう……」
一也様が黒騎士の姿になり、晴れ渡った富士山の麓でそう言っていた。
ここにいるドラゴンなら私でも相手にできるし、山頂にいる黒いドラゴンは1度倒したことがあると聞いている。
本当に一也様の全力が見られるのか疑問に思ってしまったが、何を言われることもなく装備を眺めて口を噤んだ。
(新しい武器と防具……一也様は本気だ)
杉山さんは黒騎士装備を扱ったことのない素材で一新したと言っており、目の前にいる一也様はそれらを着けていた。
ジブラルタル山脈やピラミッドにいたモンスターを簡単に倒す一也様が、この富士山でどのように戦うのか興味はある。
(私になにを見せてくれるつもりなんだろう……)
富士山を登頂するということで私も装備を整えており、盾と剣を手にしながら山頂を見上げた。
「じゃあ、絵蓮さん行きましょう」
「は、はい!」
この先に足を踏み入れると、様々な種類のドラゴンがあらゆる方向から襲い掛かってくる。
覚悟を決めながら足を進めていたら地面が微動して、遠くの方から赤や黄色といったドラゴンが現れていた。
持ってきた剣を引き抜こうとしたら、一也様が立ち止まって私の方を向く。
「大丈夫ですよ。ちょっと行ってきます」
「……え?」
私にかけられた声は、まるでこれから散歩にでも行くような感じで、背景に数百匹のドラゴンがいなければいってらっしゃいと口に出してしまいそうになった。
「ただのドラゴンたち! 俺にかかってこい!!」
一也様はすべてのドラゴンが自分へ向かうように、山へ向かって宣言のスキルを使用したようだ。
宣言をされたドラゴンたちは一心不乱に一也様をめがけて大地や空を駆けている。
(何度見ても恐ろしい……私も戦うことはできるけど、正面から相手にしようとは思えない……)
私もこの山を登るためにこのドラゴンを相手にしたことはあるが、なんとか生き残ることはできる。
黒騎士の姿で戦う一也様をこんなに近くで見るのが初めてなので、一瞬たりとも目を離さない。
「五月雨バーニングフィスト!!」
その声と共に撃ち出された無数の炎でドラゴンが弾き飛ばされ、押し寄せるように来ていたモンスターを止めてしまう。
次に何をするのか一也様へ視線を戻すと姿が見えず、気配察知を使用して探す。
(速すぎる!! 目で追うことさえできない!?)
超高速で移動する黒い影は宙を舞うドラゴンを追撃しており、現れた敵をすべて倒していた。
この階層は一定時間戦えば次へ進めることができ、倒した敵によって戦わなくてはいけないドラゴンナイトが増える。
(もしかして……全部倒すってこと!? この量のドラゴンを!?)
グリーンドラゴン1体をギルドへ納品しようとしただけでギルドや世間が注目したことがあった。
私たちも何体か納品したが、テレビで取材されたり、大学で質問をされたりと大変だったことを思い出す。
「絵蓮さん、お待たせしました。行きましょう」
「も、もう終わったの?」
「ええ、先へ行きましょう」
一也様の背後にはドラゴンが辺り一面に転がり、1体も逃げることが許されなかったようだった。
正直何が起こったのかわからず、前を進む一也様へ恐る恐る声をかける。
「あの、一也くん? 今ので終わりじゃないの?」
「はい。まだ肩慣らしにもなっていません」
「これで……まだ……なの……」
規格外だとは思っていたが、一也様の成長速度は私の想像をはるかに超えていた。
どんな敵を倒せばこんなに強くなるのか思いながら黒騎士の背中を眺める。
「伏せて!!」
「きゃっ!?」
ドラゴンを踏まないように避けながら進んでいると、急に押されて転んでしまう。
何が起こったのか確認をするために顔を上げると、いつもはただ立っている4体のドラゴンナイトがすべて襲いかかってきている。
「ソニックアタック!!」
一瞬空気が揺らめいたと思ったら、4体とも胸に穴が貫通してしまい、地面に倒れる。
攻撃が行われたことさえ認知できなかったため、驚くというよりもわからない悔しさが込み上げてきた。
「これでよし。あの頂上へ向かいましょう」
「ええ……嘘……何あれ……」
辛うじて声を絞り出すことができたが、先ほどまで晴れていた富士山の頂上に黒い雲が集まり始めている。
黒い雲は渦になり、【赤い雷】を走らせながら山頂へ吸い込まれていた。
渦がどんどん大きくなり、富士山を覆ってしまうのではないかというくらいに広がっても止まる気配が無い。
「ここまで全部倒すのが【裏ボス】を出現させる条件なんですよ」
「裏ボス?」
「えーっと……俺が全力を出せる相手です」
私が聞きなれない言葉を聞き返すと、楽しそうに一也様が解説をしてくれた。
そして、その言葉をその通りに取るのなら、大量のドラゴンやドラゴンナイトを倒した一也様は全力を出していない。
「絵蓮さんはここに座って見ていてください」
「ここ……ですか?」
無言で山頂へ進み続けていたら、エンシェントドラゴンのいる場所よりもはるか手前で止められた。
「俺は負けない……この拳で証明するんだ……」
一也様もそれ以上進まず、何かかすかな声でつぶやいている。
その言葉は辛うじて私の耳に届くものの、唸りを上げる赤い雷鳴でそれ以上聞こえなくなる。
「絶対に動かないでくださいね!」
私は頷くことしかできず、黒騎士の背中を見送った。
数歩一也様が山頂へ向かい始めると、富士山全体が地震のように揺れ始める。
「いったい何が!?」
揺れが収まると轟音と共に富士山の山頂部分が弾け飛び、白く輝くエンシェントドラゴンが上空に飛び出してきた。
それを見上げる一也様に目を向けると、私は戦慄を覚えてしまう。
(あれは……【誰】?)
エンシェントドラゴンを見つめている瞳を見ることはできないが、雰囲気を感じることはできる。
私は全身でそれを感じ、あそこに立っている一也様の正体がわからなくなってしまった。
(あの人は……何と戦おうとしているの……)
一也様は、人の身でありながらこの世のありとあらゆるものへ戦いを挑もうとしている。
エンシェントドラゴンが上空で吠えると、黒い雲が赤い雷をまき散らす。
(一也様は退かない。あんなモンスターが相手でも、拳一つで戦う)
その姿を見ながら、これからあの装備を着けている一也様を【黒騎士】と呼ぶのは止めようと思った。
(拳一つで未来を切り開こうとしている英雄にそんな名前は似合わない)
私は自分だけでも今思った名前で呼ぶことを決心する。
(【拳王】……そう呼ばなければ失礼よ……)
拳王様は周囲を赤く染めながら空を飛び、エンシェントドラゴンへ挑んでいった。
ご覧いただきありがとうございました。
これでこの章が終わりになります。
次回から、最終章が始まります。
更新は11月5日を予定です。
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