最上級職挑戦編⑥~世界を救う方法~
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「今、俺がモンスターを倒し続けてなんとかなったとしても、人類がこのままだとこれから先も同じようなことが起こるだろう? その時、また俺が倒すのか? それで世界を救ったって言えるのか?」
大きくなり始めた火を見ながら、思っていることが口からあふれ出す。
初めはモンスターと戦い、強くなるという実感だけで満足感を得ることができた。
しかし今は、両親やPTメンバー、静岡県ギルドの人たちなど守りたい人ができてしまい、この人たちが作る未来を明るくしたいと考えてしまっている。
(俺個人が憂うことではないと思うけど……次にモンスターの勢力が増すのが数百年、数千年後だとしても、もうレべ天に辛そうな顔はさせたくない)
レべ天が学校で世話をしていた馬が死んでしまったときに流した涙を思い出す。
おそらく、このままモンスターを放置したらほとんどの人類が死んでしまうと分かってしまった時、レべ天はあの時以上に悲しんだのだろう。
(そうじゃなかったら、ただでさえ少なくなっている平穏な時間を削るように、全世界の守護者たちから力を借りてまで俺を召喚するなんてことにはならないだろう)
レべ天の思考を推察しながら火ハサミで新しい薪をつかみ、勢いが増した火の中へ放り込む。
その炎の熱を顔に感じ、道具を置いて背もたれに体重をかける。
後ろにいたレべ天は何も答えることなく俺の横に椅子を持ってきて、足元にいるマロンを抱きよせてから座っていた。
火を見ながら、お互いに何も言わないまま時間が経つ。
火が弱まったので、新しい薪をくべようとしたときにレべ天が口を開いた。
「あなただけに世界を救ってなんてことを言って申し訳ありません」
「そうするしかなかったんだろう?」
「……その通りです」
「なら、お前は謝るなよ……マシュマロ焼くぞ」
レべ天はマロンを両手で抱きかかえながらうつむいてしまい、鼻をすする音がかすかに聞こえてきた。
バーベキュー用のグリルフォークの先にマシュマロを刺して、火で炙るように焼けるのを待つ。
その間、レべ天から嗚咽が漏れ、何度も目をぬぐうようなしぐさをしていた。
マシュマロが熱で解け始めたので、軽く冷ましてからレべ天へ串を持つように差し出す。
「焼けたぞ。熱いから気を付けろ」
「一也さんは……どうするんですか? 今までと同じように戦えるんですか?」
レべ天が串を受け取ることなく涙であふれる瞳を俺へ向けてきていた。
ゲームではモンスターの根絶方法なんてものは聞いたことがないので、具体的な案を提示することができない。
一向に食べようとしないので、甘い匂いを漂わせているマシュマロが完全に冷める前にレべ天の口へ押し付ける。
「あ、熱いんですけど……」
そう言いながらも串を受け取ってマシュマロを食べ始めたレべ天を横目で見て、新しいマシュマロを炙り始めた。
「俺の拳が迷うことはない。だけど、このまま全部のダンジョンにいる主を倒したとしても、人類が延命するだけで根本的な解決はしないだろう? お前がそれでいいならいいよ」
真意を確かめるために、あえて冷たいような言葉をかけてみたが、マシュマロを食べているレべ天は俺へ笑顔を向けた。
「構いません。それが人類の選択なら、もう私“たち”にできることはないです」
「たちって……他の守護者も同じ意見?」
「はい。ディーさんやアイテールさん、ヘラさんたち守護者全員が同意見です」
「そうなんだ……なら、俺は目の前の敵だけを倒す」
「よろしくお願いします!」
レべ天が満面の笑みで食べ終わった串を差し出してきたので、そこへ新しいマシュマロを刺して炙り方を教えた。
一緒にマシュマロを炙っていると、悲壮感あふれるレべ天の心の叫びが聞こえてくる。
(一也さんだけにすべてを任せるわけにはいかない……私たちの最後の力で……この星の未来を……)
心の声とは裏腹に、レべ天は楽しそうにマシュマロを炙っている。
俺はこの声が聞こえなかった振りをして、マシュマロを食べ続けた。
一袋分のマシュマロを食べきった時、トレーラーハウスから両親が出てきて、クーラーボックスを持っている父親が明るく声を出す。
「そんなに食べていると夕食が食べられなくなるぞ」
「こんなんじゃお腹が膨れないから大丈夫だよ」
両親は軽く笑いながら、火を挟んで俺たちの反対側へ座る。
先ほどトレーラーハウスの中では暗い表情をしていた母親は、笑顔を取り戻し、すっきりとした顔で俺を見ていた。
父親はクーラーボックスの中から小分けにされた肉を取り出して、網へ並べ始める。
「そうか……お母さんと話し合ったんだが……一也、お前は自分の好きに生きなさい」
「どういうこと?」
「一也がRank5になれば、世間は勿論、市役所であろうが職場でも影響が出る。それらを含めて、お前と考えてくださいって佐々木さんに言われたんだ」
「それで? 俺は好きに動いていいの?」
両親は俺の言葉にうなずき、笑顔で焼いた肉をお皿に乗せて渡してきた。
それを受け取ると、父親は満足そうな顔を向けてくる。
「ああ、私たちの子供がRank5の冒険者なんだって、胸を張ってやる。その代わり、お前は自分の行いに責任を持ちなさい」
「一也、いつでも帰ってきていいんだからね」
俺を見る両親の目はこれから起こることを想像しつつも、それを受け入れる覚悟を決めていた。
その気持ちに報いるため、俺は心から頭を下げてお礼を言う。
「ありがとう。俺は明日Rank5になるためにWAOの会議へ向かうよ」
吹っ切れた両親は夕食を食べながら、俺が海外で行ってきたダンジョンアタックの様子が聞きたいというので、ピラミッドでミスリルの杖がへし折れて困ったことから話を始めた。
夕食が終わり、すっかり夜になった空を見回したら、片づけをしている母親が俺とレべ天に声をかけてくる。
「一也、この上に星空がよく見える所があるみたいだから、天音ちゃんを連れていってあげなさい」
「そうだな! 明日は一也がいないから、今のうちに思い出を作ってくるといい」
食後のコーヒーを淹れていた父親も賛同し、俺とレべ天へ星空を見に行かせようとしていた。
レべ天と2人きりではなんだか恥ずかしいので、マロンを探したら満腹になって空いている椅子に丸まって寝ており、連れていけそうにない。
今度はレべ天が行きたいのか確認しようとしたら、なぜか上目づかいで俺のことを見ている。
「じゃあ、行ってくるよ。ここを上がって行けばいいの?」
「ええ、30分くらいで着くんじゃないかしら」
「……わかった。天音行こうか」
「はい!」
30分歩いて着く場所をこの辺と言うのか疑問を持ちつつ、母親が教えてくれた方向に向かって歩き始めた。
レべ天はなぜか頬を赤らめながら俺の後に付いてくる。
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