最上級職挑戦編④~佐々木さんの相談~
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「Rank5!? あれは所属国以外の複数の国が推薦してくれなければ無理でしょう!?」
佐々木さんの言っていることが信じられないのか、父親は炭の付いた耐熱グローブを手に付けたまま口を覆ってしまった。
顔に炭が付いた父親が目を見開いたまま動かない。
「今朝、エジプト・スペイン・ドイツが推薦をして、申告書が提出されたようです」
「そんな馬鹿な!? あいつはいったいなにをしたんですか!?」
父親が佐々木さんの肩をつかみ、必死に説明を求めていた。
佐々木さんは父親を落ち着かせてから言葉を続ける。
「日本では情報を規制してくれているため騒がれておりませんが、一也くんはここ数日でピラミッドでの単独救出行動や、ジブラルタルミスリル山脈の制圧などの功績を上げております」
「……は? 佐々木さん、あなたが何を言っているのか……冗談にしても――」
父親は佐々木さんの肩から手を放して、力なく苦笑いを浮かべていた。
その様子を見た佐々木さんはタブレットを取り出して、父親へ差し出す。
「すべて本当です。これをご覧ください、一也くんがピラミッドへ単独突入を行い、人命救助をしているときの様子です」
「あいつはどうして……」
佐々木さんのタブレットを受け取った父親は、手を動かしながら涙を流し始める。
(そういえば、何人か人が付いてきていたけど、カメラを持った人がいたのか)
撮影されていたなんて知らなかったため、俺も父親の受け取ったタブレットを覗き見た。
そこには、くの字に曲がったミスリルの杖でミノタウロスを倒す俺が映されている。
その映像を見ながら父親が声を震わせながらすごいとつぶやくと、佐々木さんが画面の端をタップした。
「次にこれは先ほど入手したミスリル山脈での戦闘です。谷屋花蓮と2人で行ったことも確認されました」
「谷屋さんの娘さんもミスリル山脈へ!?」
「ええ……さらに間の悪いことに、この場所で今まで例を見ない【スタンピード】が発生し、この2人が制圧したと政府が発表を行いました。また、谷屋花蓮は……現在も戦闘中です」
言い終わった佐々木さんが再びタブレットを操作して、右上に【LIVE】と書かれた映像になり、ミスリルを発掘している人の奥で花蓮さんがコングたちと戦っていた。
(すごいな。あれからだいぶ時間が経つのにまだ戦っているんだ)
ダマスカスの大剣を振るう花蓮さんは疲れを感じさせず、コングたちを追ってカメラが撮影できないほど遠くへ行ってしまった。
父親がタブレットの画面を暗くするので、距離を取る。
「……一也はどうなってしまうんですか?」
父親はタブレットを佐々木さんへ返しながらすがるような目で質問をしていた。
佐々木さはタブレットを受け取りながら、小さく首を左右に振っている。
「私たちも手を尽くしますが、これまでと同じ。というわけにはいかないと思われます」
「Rank5以上の冒険者は《国の財産》だから……ですか?」
「ええ、そういうことです……」
話をしている2人だけが納得するようにうなずいていたので、俺は隠密を解く。
「国の財産ってどういう意味なの?」
「一也!?」
「一也くん……」
急に声をかけてしまったので、2人とも体をビクッとさせて俺へ顔を向ける。
俺は自分の行動が制限されては困るため、【国の財産】という言葉の意味を知りたい。
繰り返すように質問をしたら、佐々木さんが伊達眼鏡をかけなおす。
「一言で表すなら、【国の交渉材料】となる。税金の全額免除や、一定水準の生活保障を行うかわりに、他国から日本へモンスターの討伐要請があった場合、向かってもらうことになる」
「面倒なんですけど?」
メリットを説明されても魅力を感じないため、強制的にモンスターを討伐させられるのは嫌だ。
ただ、その要請がどの程度の頻度で行われ、どんなモンスターを倒すのかを知りたいため、日本にいる他のRank5の人の様子を聞くことにした。
「年間どのくらい要請があるんですか?」
「それは……」
佐々木さんが即答してくれると思っていたのに、黙ってしまい、困ったように父親と目を合わせている。
俺はその行動を不審に感じ、思わず佐々木さんをにらんでしまった。
絶対に何かを知ってそうだったので、そのまま目を放さずにいたら、佐々木さんは観念したようにため息をつく。
「現在の日本でその制度を適用されている人物はいないんだ……他国の情報は機密のため公開されていない」
「え?」
何も知らないということを言っている佐々木さんに毒気を抜かれてしまった。
数国の推薦をもらうことがそんなに難しいことなのか気になってしまう。
「Rank5ってそんなに珍しいんですか?」
俺の言葉で2人がまたも固まってしまい、答えが返ってきそうにない。
もうスマホで調べようかと思っていたら、後ろから足音とともにギルド長の言葉が聞こえてきた。
「現況、Rank5はPTにのみ適用されている制度で、お前のように個人で申請されたのは初めてだ」
こちらへギルド長がゆっくりと歩いてきており、スイカの入った袋を持っている。
ギルド長はそれを父親へ渡してから挨拶を行っていた。
そして、ギルド長は俺たちが泊まっているトレーラーハウスを見ながら父親へ言葉をかける。
「彼への説明は私が行います。あなたはゆっくりと佐々木から話を聞いてください」
「はい……」
父親と佐々木さんがトレーラーハウスへ向かって歩き始めた。
俺はギルド長に案内をされて、人がいないログハウスの近くに置かれたキャンプ用の椅子へ座る。
ギルドにいる時とは違ってギルド長から穏やかな雰囲気を感じ、ゆっくりと椅子へ座っていた。
「Rank5の件だが、佐藤が拒否するのならそういう返事もできるだろう」
「そうなんですか?」
「ああ……だが、ランクを上げておいた方がお前の目的へ近づくと思うぞ」
「どういうことですか?」
ギルド長に俺の目的を言ったことはないので、話を聞くために少し身を乗り出してしまった。
軽くうなずいたギルド長は、背もたれに体重をかけながらお腹の前で手を組むようににぎる。
「世界中にあるすべてのダンジョンを攻略すること……それがお前の目的だろう?」
花蓮さんたちから聞いていたのか、ギルド長は微笑みながら俺の戦う目的を口にしていた。
その言葉を否定するわけにはいかないので、俺は力強くうなずく。
「そうです。俺は必ず全部のダンジョンを攻略して――」
「世界を救う……違うか?」
俺は世界の危機をごまかすために、【世界で一番強くなる】ということを言う前にギルド長が口を開いた。
ギルド長はダンジョンやフィールドから溢れそうになっているという話を誰かから聞いていたようだった。
一番可能性が高いのは佐々木さんだが、今はそんなことを質問する場合ではない。
「……その通りです。なので、面倒な要請に応えている時間はありません」
「佐藤、お前は自分の価値を分かっていない」
「どういうことですか?」
モンスターを倒すしか能のない自分にどんな価値があるのか分からず、考えても答えが出ない。
そんな俺の様子を見ながらギルド長が頬を緩ませて、軽く笑い声を漏らしていた。
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