夏休み約束編⑱~オリンポスの間~
ご興味を持っていただきありがとうございます。
9月12日に書籍第一巻が発売になります。
タイトルを改名して【ネトゲ廃人の異世界転生記】となっております。
アマゾン等で予約が始まっているので、よろしくお願いします。
俺は神器を置いて、赤と黄のオーラを混ぜたオレンジ色のオーラを身にまとって、【黒騎士】と戦っていた。
白い空間には俺たちを遮るものは何もなく、相手を倒すことだけを考えられる。
「こんなもんじゃないだろう!! 本気を出せ黒騎士!!!!」
炎と雷が入り混じる塊を黒騎士の眼前で撃ち出し、吹き飛ばした。
地面を削りながら滑っていた黒騎士が止まり、魔力を緑色に変換している。
回復させる隙を与えず、俺は黄色のオーラを濃くして追撃を行なった。
走りながら、花蓮さんが無事に【ヘラクレスの試練】を突破できているのか心配する。
(この試練は自分が一番抗えないものか、困難なことを行わなくてはならない)
人によって試練が違うので、花蓮さんの質問に対して即答することができず、申し訳ないと感じていた。
俺はゲームで倒れる前のことを延々と見せられるなどの精神的な試練かと思っていたので、黒騎士と戦えるなんて考えてもいなかった。
「最高に楽しいじゃないか!! 【俺】はどれだけ手強いんだ!?」
黒騎士もオーラの濃度を変え、俺の速さに対抗するように走り始めている。
高速で移動しながら何度も衝突し、魔力を練り上げて雷の拳を打ち出そうとしたら、黒騎士が消えてしまった。
(隠密か!? 気配察知を――いない!?)
隠密と気配察知を同レベルで行った場合は気配が発見できるはずなのに、俺の周囲にはなにもいない。
範囲を広げながら走るが、黒騎士が嘘のように消えてしまっていた。
(どういうことだ!?)
立ち止まり、突然敵が消えてしまったので、置いてあった神器を拾いながら様子を見る。
すると、最初に現れた黒い影の中から屈強な肉体を持った1人の男性が出てきていた。
その人は腰布しか着けていないが、筋肉が隆々としており、見せつけるように胸を張っている。
「すまない。私の力では短い時間しかお前の力を再現できなかった」
「いえ、楽しい時間をすごすことができました。あなたは?」
「我が名は【ヘラクレス】、このダンジョンの守護者だ」
「僕は佐藤一也です。ここはダンジョンだったんですね」
構造からジブラルタル山脈はフィールドだと思っていたのだが、最後の試練を含めるとダンジョンというのも納得ができる。
とても大きなヘラクレスさんは俺を見下ろしており、手に持っている神器をまじまじと見つめていた。
「このダンジョンをクリアした者には武器を与えているのだが……」
「俺が使う武器はある人に作ってもらうので不要です」
「そうか。なら、この金属を与えよう」
俺の言葉に力強くうなずいたヘラクレスさんは、両手を器のように形を作る。
手のひらに金色の光が集まって塊が形成されていた。
「一也よ。これを君の武器に使ってくれ」
「これは……ヒヒイロカネですか!? こんなに!?」
ヘラクレスさんが渡してくれた金属は色が揺らめいており絶えず変化をしていた。
そんな物質はゲーム内で最も高価なヒヒイロカネとしか考えられない。
ダンジョンをクリアした程度でこんなものをもらってもよいのか不安になる。
俺の考えが伝わってしまったのか、ヘラクレスさんは笑顔で俺の肩へ手を乗せた。
「それを加工するのは相当な腕が必要だ。きみの鍛冶屋が武器にしてくれることを祈る」
「あの人なら必ず最高の武器にしてくれるはずです」
俺は自信を持ってヘラクレスさんの目を見返して杉山さんの腕を信じた。
嬉しそうに笑みを浮かべるヘラクレスさんは更に言葉を続ける。
「あと、世界を救うために戦う佐藤一也へ私の力を授けたい」
「……はい」
守護者から力をもらう方法はその人によって違うので、どうすればいいのか反応をうかがっていたら、ヘラクレスさんは俺の頭に手を乗せてきた。
頭に置かれた手がじんわりと暖かくなり、俺を守るように全身へ透明なもやが広がる。
「私の加護はきみの心を後押しするものだ。どんな困難にも立ち向かう佐藤一也の《心が折れない限り》体が止まることはない」
「俺向きの加護をありがとうございます」
加護を渡してくれたヘラクレスさんは腕を組みながらうなずき、軽く息をはいていた。
そして、何かを思い出すように目を閉じると、何もない空間に右手を向ける。
「外できみを待っている者がいる。話を聞いてやってほしい」
「外で……ですか? わかりました」
ヘラクレスさんが伸ばしている手から光が放たれて、そこからヒュドラのいる場所が見えるようになった。
出口へ向かい始めた俺に後ろからヘラクレスさんが声をかけてくる。
「健闘を祈る」
「ありがとうございました」
出る直前に振り返り、ヘラクレスさんに向かって手を振って別れを告げる。
大きく手を振ってくれたヘラクレスさんに背を向けて、出口からジブラルタル山脈へ帰った。
「なんだ?」
地面へ降り立った瞬間、足に若干の震動を感じる。
なぜかヒュドラは身を隠すようにかがんでいたので、近づいて話を聞くことにした。
「ねえ、どうして怯えているんだ?」
「あの女の子が……」
「花蓮さんになにかあったのか!?」
ヒュドラは少し高い可愛い声で花蓮さんのことを心配している。
それからすぐに下の方から何かを砕いたような轟音が聞こえ、ミスリルを含んだ小さな岩石が飛んできた。
「何が起こっているんだ!?」
ヒヒイロカネを家に転送してからメイスを両手で持ち、岩が吹き飛んできた方向を目指す。
すると、俺はある光景を前にして立ち止まり、1人の少女を応援してしまう。
弾丸のように岩が飛ばされて銃撃音が響く中を巨大な剣を持った花蓮さんがコングたちと戦っている。
その瞳にはすべてをなげうってでも強くなろうという戦士の意思が込められていた。
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