夏休み約束編⑯~ジブラルタル山脈攻略へ~
ご興味を持っていただきありがとうございます。
9月12日に書籍第一巻が発売になります。
タイトルを改名して【ネトゲ廃人の異世界転生記】となっております。
アマゾン等で予約が始まっているので、よろしくお願いします。
翌朝、目が覚めたと同時に花蓮さんへ電話をかけたら、今回もすぐに出てくれた。
「おはようございます。よく眠れましたか?」
「……どんどん情報が流れてきたから一睡もできなかったわ」
「あれから眠らずに情報収集をしてくれていたんですね」
夜通し研究をしていると聞き、花蓮さんの今日の登山にかける情熱が伝わってきたため、早くあの山へ連れていきたい。
ベッドから起きて準備をしようとしたら、花蓮さんのため息のあとに言葉が続く。
「今、ジブラルタルがすごいことになっているわよ。それと、一也は戦った後になにかをした?」
「俺は最後に武器を置いてきただけですよ。すごいことってなんですか?」
あれから神器やジブラルタルがどうなっているのかまったく調べていないため、花蓮さんの言いたいことが分からない。
部屋で電話をしていてもらちがあかないので、花蓮さんの家へ向かうことにした。
「それは――」
「わからないので、そっちへ行きますね。では」
「ちょっと!?」
説明をしようとしている言葉を叩き切って、通話を終了する。
服を着替えて、リビングにいる母親へ声をかけた。
「花蓮さんの家に行ってくる」
「早いのね。ご飯は?」
「いらない。遅くなると思うから、また連絡するね」
母親の返事を聞いてから玄関を出て、花蓮さんの家へ向かって走り始める。
数分もしないうちに到着すると、花蓮さんが肩で息をしながら剣を持って家の前で待っていてくれた。
「おはようございます」
「あんた、こんなに時間にくることないでしょ……」
「まだ6時ですよ?」
「まあ、早くきてくれて嬉しいけど……ちょっとごめん」
夏は朝の6時でも十分に明るいし、日中は暑くて動く気になれないため、涼しいこの時間が一番活動できる。
花蓮さんは俺に背を向けて手鏡で何かを見ており、鏡を持っていない方の手で髪や顔を触っていた。
「待たせてごめんね。それじゃあ、喫茶店にでも行く?」
「他の人に見られても面倒なので、ジブラルタルへ行きましょう」
「もう!?」
「向こうはまだ深夜なので、ゆっくり寝ることができますよ」
俺がとったホテルへワープを行い、花蓮さんと一緒に移動する。
ワープが終わると、花蓮さんがホテルの窓から景色を見始めた。
「すごい……あんなに大きな岩山がある……」
「それで、ここでは何が起こっているんですか?」
この部屋へ誰も入った痕跡がないことを確認してからベッドへ座り、花蓮さんへ質問をする。
花蓮さんが窓の外から見える山から目を離さずに口を開く。
「今、あの山でかつてなかったほど【ミスリルラッシュ】が起こっているらしいの」
「なんですかそれ?」
「一也がモンスターを退治したから、多くの冒険者がつるはしを持ってミスリルを採掘して、昨日だけで1トンは確実に回収したそうよ」
「そんなことが起こっていたんですね」
「そうよ。窓を開けると……ほら、ここまで採掘の音が聞こえるわ」
窓を開ける前からかすかに聞こえていた音が、今はカンカンと確実にここまで届いていた。
街中に聞こえているのではないかと感じるほど反響しており、何百人が奏でている音かわからない。
うるさいと言いながら窓を閉めた花蓮さんはベッドの窓側に座り、スマホの画面を俺へ見せてくる。
そこには、先端が地面へ埋め込まれている神器のメイスが映っていた。
「これ、何か知っている?」
「俺の武器だけど……誰が撮ったの?」
「ジブラルタルのモンスターを追い払った英雄の武器らしいわよ」
「はあ……」
最終的にワイルドコングには逃げられたため、あんな戦闘だけで英雄扱いはやめてほしい。
スマホではメイスを地面から引き抜こうとする人が映されており、握る前から頭を抱えて止める人や、数人がかりで引き抜くのを失敗していた。
ひもを括り付けて、車で引き抜く試みをあったが、タイヤが白い煙を上げるだけでメイスはびくともしていない。
「これってどうやったら動くの?」
「俺が握れば抜けるよ」
「そんな武器があるわけ!?」
「うん。神器っていう特別な武器だから、他の人は一切使えないんだ」
「そんな物まで……」
花蓮さんが黙ってしまうので、俺は窓の外へ視線を投げる。
音とともに伝わってくる【もの】が花蓮さんも感じていないのか確認をした。
「花蓮さん、山から音以外のモノが届いているのに気がついていますか?」
俺の言葉を聞いた花蓮さんは、はっと顔を上げてゆっくりとうなずいた。
「……ええ、富士山の時と同じような視線のようなものがあるわ……規模はそれ以上ね」
「俺の予想だと明るくなると同時に現れるはずです……なので!」
「キャッ!?」
目の下にクマを作っている花蓮さんを無理やりにベッドへ寝かせ、布団をかける。
数時間後にはモンスターとの戦いが待っているため、万全の状態に整えてほしい。
「花蓮さん寝てください。今のままだと途中で倒れそうです」
「……誰のせいよ」
花蓮さんを寝かしたので、ベッドから立ち上がり、部屋を出るために荷物を持つ。
山へ登る前に今採掘している人を夜明けとともに退けなければいけない。
「俺も適当に時間をつぶしているので、この部屋は自由に――」
「嫌よ。やることがあるのなら、ついていくわ」
「え?」
花蓮さんが俺の言葉をさえぎって、ベッドから身を起こそうとしていた。
しかし、力が入らないのか、よろけてベッドへ手をついている。
「その状態じゃなにもできませんよ。寝ていてください」
「……なら、寝るまでそばにいて、それなら寝るわ」
掛け布団で下半分顔を隠し、頬を赤くしながら花蓮さんが俺へ潤んだ瞳を向けていた。
そんな風に頼まれたら断ることはできないので、ベッドのそばの床に座って花蓮さんが寝るのを待つことにする。
「わかりました。寝るまでここで座っていますよ」
「ありがとう……ねえ、もうひとつ頼んでもいい?」
「なんですか?」
床に座ったまま花蓮さんに目を向けると、ちょうど同じ高さに花蓮さんの顔があった。
目が合うと、布団から手を出して俺へ差し出してくる。
「えっと……殺気が伝わってきて怖いから、寝付くまで手をにぎってほしいな……」
「はい」
確かにこの見られているような殺気を感じていたら寝られないだろう。
手をにぎって安心するというので、俺は差し出された花蓮さんの手のひらを包むように優しくとる。
「ありがとう」
「花蓮さんおやすみなさい」
「うん――」
それから程なくして花蓮さんは寝息を立てるので、寝ることができたようだった。
ただ、手を離してくれないため、ここから動くことができない。
(まあ、俺も休むか……)
抗うことをやめて俺もベッドへ頭を預けて寝ることにした。
近くにいる花蓮さんから良い香りがしてくるので、安心して意識がなくなってしまった。
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(くる!!!!)
全身がそう感じ取ったため飛び起きて窓から外を見ると、夜が明けようとしていた。
花蓮さんも分かったのか、くまのなくなった顔が引き締まり、俺を見る。
「一也!」
「寝すぎました! 行きましょう!」
「ええ!!」
時間がないため、俺と花蓮さんは5階のベランダから飛び降りて、地面へ着地する。
山に向かって走り出し、一刻も早く山から人を避難させなければいけない。
山へ入るゲート周辺には人が群がっており、メイスを何人もの人が持とうとしていた。
割り込むように腕を伸ばし、メイスをつかむ。
すると、何事もなかったかのように地面から抜けるので、周りの目が一斉に俺を見た。
この場にいた全員がメイスを持った俺を見つめてきていたため、逃がそうとしたら地響きのような震動を感じてしまった。
山の方へ顔を向けると上部から大量の影が迫ってきており、鷹の目を使って見たら、山を覆うようにヤングコングとワイルドコングの群れが降りてきている。
「全員今すぐここから離れろ!!!!」
ゲートが開く時間さえももったいないため、2枚のコンクリートの壁を破壊し、入山した。
ここでようやく他の人が山の異変に気付き、悲鳴を上げながら壁から離れていく。
俺は悲鳴を聞きながら、横に立つ花蓮さんへ笑顔を向ける。
「良い登山日和ですね」
「そうね……道が混んでいるみたいだけど、どうするの?」
「そりゃあ……正面突破です!!」
俺は山を登るべく、メイスを振り上げてコングの群れに向かって走り始めた。
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