夏休み約束編⑨~田中真救出~
ご興味を持っていただきありがとうございます。
9月12日に書籍第一巻が発売になります。
タイトルを改名して【ネトゲ廃人の異世界転生記】となっております。
よろしくお願いします。
「ワイドシールドブーメラン!!」
2枚の盾が魔力を帯びてホテルのロビーにある、ありとあらゆるものを弾き飛ばす。
追撃しようと、周りを見渡すものの、誰も俺に近づこうとしない。
(なんだ……こんなもんか)
弓道協会の総会と聞いていたので、もっと強い人が集まっているのだと思っていた。
ここにいるのは、盾を1度投げただけで尻込みしているような人だけなので、呆れて物を言えなくなる。
夏美ちゃんから部屋の番号などを聞いていたので、エレベーターのボタンを押す。
立って待っているものの、俺の様子をうかがうだけで誰も近づいてこない。
そんなとき、ふとロビーの片隅に書いてあった文字が見えてきた。
【清水夏美 全国射撃大会優勝祝勝会 会場 3階】
(夏美ちゃんが出る気がないのに開催できるのかな?)
祝勝会をやるなんてことは一言も話していなかった。
しかし、こんな豪華なホテルで行うイベントを本人へ伝えないなんてことがありえるのか考えてしまう。
俺が少し考え事をしていたら無人のエレベーターがきたため、田中先生が待っている階のボタンを押した。
エレベーターが到着すると、廊下に異様な人数が集まっており、説得のような声が聞こえてくる。
「田中さん、扉を開けて話し合いをしましょう」
「真ちゃん、小さい時に弓を教えてあげたでしょ? ここを開けてくれないかしら?」
田中先生へどうしたいのか聞くためにスマホで電話をかけるものの、電源を切っているようだった。
(まずはゴミ掃除からだな……)
扉の前にいるゴミの清掃を行うために、両手の盾を廊下の壁へ思いっきり打ちつける。
豪快な音が鳴り、瓦礫と塵が舞い、廊下にいる全員が俺を見た。
「全員今すぐそこをどけ! 警告は1度のみだ!」
田中先生のいる部屋の扉へ近づこうとしたら、40代くらいの男性が顔を真っ赤にして俺へつめ寄ってくる。
「いきなりなんなんだお前は!!」
「邪魔」
足を止めずに盾で振り払うと、男性の腕と肋骨が折れる感触がする。
そのままの勢いで男性を押しのけたら、打ちつけられた壁がめり込むようにへこんだ。
男性が廊下へ崩れ落ちるので、一目だけ見て息をしていることを確認してから扉へ近づく。
俺から離れるように人が遠ざかってくれたため、扉の前に立ってノックをした。
「田中先生、佐藤です。今から扉を破るので近くにいるのなら離れてください」
返事を待つことなく、分かりやすいように10からカウントダウンを始める。
気配察知を使用したら、田中先生が扉から離れてくれていたので、安心して思いっきり金属製の扉へ盾を打ちつけた。
ガンガンガンと1回音が廊下に響くたびに金属製の扉が変形し、1分も経たないうちに扉を部屋の内側へ吹き飛ばすことができた。
俺を遠巻きに囲んでいる人たちが生唾を呑んでこちらを見ている。
そんな視線を無視して部屋へ入ると、一番奥で目を赤く腫らした田中先生が荷物を抱えている。
「先生、荷物はそれだけですよね? このホテルを出ます。ついてきてくれますか?」
「……夏美は?」
田中先生は涙声で夏美ちゃんの心配をしているようだった。
安心させるように笑いながら、田中先生へ声をかける。
「たぶん、今頃思いっきり走っていると思いますよ」
「なにそれ……確認したいから案内してくれる?」
「もちろんです。行きましょう」
田中先生が立ち上がるのを待って、部屋から出ようとした。
その時、数人の若い男性が部屋に入って、俺を止めようと迫ってきている。
「俺たちは役員の孫や親戚だぞ! お前をこのまま……」
「うるさい、どけ」
ブレイクアタックの衝撃波でその人たちを吹き飛ばして、道を空ける。
後ろにいる田中先生が怯えていないか確認したら、俺を苦笑いしながら見ていた。
「佐藤くん、容赦ないのね……」
「夏美ちゃんから昨晩のことを聞いたので、もう遠慮しないことにしました」
「そ、そう……殺人は……だめよ?」
「死んでいないですよ……たぶん」
それ以降、誰も俺の前に立ちふさがることなくホテルからでることができた。
なんにも関係ないホテルに迷惑をかけてしまったので、ロビーのカウンターにいる受付の人へ謝罪に行く。
「弓道協会と個人のいざこざに巻き込んでしまって申し訳ないです。支配人の方はいらっしゃいますか?」
「しょ、少々お待ちください!」
そう言って、受付にいた女性が奥へ行ってしまった。
カウンターで待っていたら、数人の老人が俺と田中先生の背後に立つ。
「お前たち、自分が何をしたのか分かっているのか?」
「ええ、もちろん。男数人で女性を襲おうとした人たちがいる建物から出ようとしているだけですよ」
「ここから無事に出られると思うなよ!!」
真ん中にいる老人が喉を切ってしまうのではないかと心配してしまうほど叫んでいた。
それでも、鼻で笑ってしまうほど弱弱しいので、支配人がくるまで相手をしてあげることにする。
「それじゃあ、誰が俺をここから無事に出さないのか教えていただけますか?」
「ふん! もう警察に連絡をしてある。器物損害、傷害、理由なんていくらでもあるわい!」
「なら待ちましょうか。話はもう終わりですか?」
「小僧! ただで済むと思うなよ!!」
大したことを言ってこなかったため、これ以上老人の言葉へ耳を向けるのをやめた。
そうしているうちに、カウンターへ中年の男性が現れて、俺の前に立つ。
「お待たせしました。私がホテルの支配人をしております」
清潔感のある恰好で現れた男性が俺へ深く頭を下げていた。
俺もリュックへ盾を入れてから姿勢を正す。
「急にお呼び立てして申し訳ありません。今回、私と弓道協会のいざこざでホテルを少し破壊してしまったため、賠償金を先にお支払いいたします」
「えっと……それは……」
支配人の男性が俺の後ろにいる老人へ視線を向けていた。
おそらく何か言われているのだろうと考えつつも、俺は静岡県ギルドへ連絡を入れる。
「支配人さん、私からは迷惑料等を含めて、10億円を提示させていただこうと思っているのですが、足りますか?」
「じゅ、10億円ですか!?」
支配人の人が金額を口にすると、田中先生やホテルの人たち、弓道協会の人までが驚きの表情を浮かべている。
しかし、支配人の男性は金額を繰り返すだけで、了承してくれない。
俺は電話に出てくれた晴美さんに待ってもらったまま、もう1度金額を口にした。
「足りないのなら、20億でどうですか?」
「お、大人をからかうんじゃ……」
「からかっておりません。電話を代わっていただけますか?」
俺は持っていたスマホを支配人の人へ渡して、晴美さんに対応をお願いする。
支配人の人は困惑しながらも話を始めていた。
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