夏休み約束編⑧~徳島イベント決着~
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取り巻きのモンスターが現れなくなり、ぬらりひょんにも余力がないことがわかる。
(これだけヒールを当てたのにまだ倒れないのか!?)
魔力が枯渇寸前になっており、緑色のオーラを維持することができる時間も長くはない。
それでも退くことなく、ぬらりひょんを倒すために拳を振り上げる。
「ヒールフィスト!!」
「ぐふっ!」
緑色の拳がぬらりひょんの刀を砕き、腹部に突き刺さった。
止めを刺すためによろけているぬらりひょんに向かって走る。
倒れながら俺を見たぬらりひょんが、怒りの表情を浮かべていた。
「この地に絶望を刻むことはできなかったか!!」
「ああ、残念だったな」
「無念……」
倒されるのを待つように目を閉じたぬらりひょんの頭に向かって拳を振り下ろす。
足元に倒れたぬらりひょんから黒い煙が立ち昇る。
体力と魔力を使い果たしたため、その場に仰向けになった。
(日が出る前には終わったな……)
もうすぐ朝が始まりそうな気配がする空の色を見て、クエストを無事に終えたことを確認したい。
重い体を引きずりながら多宝塔の前に戻り、心の中で祈ると無機質な声が響いてきた。
『クエスト完了おめでとうございます。記念品はなんのアクセサリーにしますか?』
『んー、指輪がいいな』
『サイズは一番初めに入れた指に合うようになっております』
多宝塔から金色の光が出て、俺の手元へ集まる。
大き目の金のリングが手に残り、それ以降多宝塔から声がしなくなった。
それと同時に複数の気配が近づいてくるので、ブレスレットを発動させる。
(引きこもりフィールド!)
俺が念じると、ブレスレットから膜のようなものが周囲へ発生していた。
疲れたので、離れないように胸に縛っていたマロンと装備をレべ天に任せる。
(眠い……)
動くのもおっくうになってしまっため、ちょうどこの場所が日陰だったので、そのまま寝ることにした。
周りに人がくるものの、目立つように地面へ横になっている俺を見つけることができないようだ。
(良いアイテムをもらえた……な……)
安全が確認できた瞬間に限界を迎えて、俺の意識は簡単に落ちてしまった。
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「暑い!?」
暑くて起きると日陰がなくなっており、直射日光を浴びている。
スマホを見たら30分程度しか経っておらず、夏美ちゃんや田中先生からものすごい件数の着信が通知されていた。
(やらかした……)
深夜なら何も起こらないから大丈夫と決めつけて、戦いに夢中になっていた。
反省しながら夏美ちゃんへ電話をかけるとすぐに繋がり、俺が話す前に言葉を放ってくる。
「今どこなの!? 私は霊山寺ってところにいるんだけど、近くにいるよね!?」
声が重なるように聞こえてきたので、周りを見たら多宝塔の近くで立ち止まっている夏美ちゃんが目に入る。
「近くにいるよ。多宝塔のそばにいるけど、わかる?」
「え!? 多宝塔!? 私も近くにいるんだけど、一也くんはどこ?」
「ここだよ。ここ、おーい!」
「え!? え!?」
夏美ちゃんに見つけてもらうように身を起して手を振っているが、一向に気づいてもらえそうにない。
電話越しに夏美ちゃんの焦るような声が聞こえているので、本当に見つけられないようだった。
(なんでわからないんだろう……)
目立たない手に目を向けたら、手首につけられたブレスレットが見えた。
「夏美ちゃん、ごめん。無意識に隠密のスキルを発動していたから、今解くね」
「え!? 無意識に使っていたの?」
言葉に答えるよりも姿を見せた方が早いと思ったため、スマホを耳から離して、歩き始める。
膜のようなものものから出る時になんの感触もない。
(不思議だ……)
首をかしげながら夏美ちゃんへ近づくと、足音に反応して俺の方へ顔を向けた。
「一也くん!」
「これで見えるよね……え!?」
夏美ちゃんは俺を見つけるなり、胸に飛び込んできて抱き付いてくる。
ただ、俺の胸に顔をうずめたまま動かず、なせか肩が震えていたので、優しく抱き返してあげた。
「不安にさせてごめんね。もう大丈夫だから」
「うぅー……」
俺が背中へ手を回すと、堰を切ったように夏美ちゃんが泣き出してしまう。
落ち着かせるために何度も背中をさすりながら話を聞くと、ホテルでの騒動や、俺が見つからない恐怖感を口からこぼしていた。
(よし。もう弓道協会に遠慮することはないな)
夏美ちゃんや田中先生に対してそんな扱いをしようとした集団に対する礼儀など持っていない。
ひとしきり泣いた夏美ちゃんを見て、都合良く戦う準備が整っていたので、気分転換を兼ねてイベントを行なってもらうことにした。
「夏美ちゃん、田中先生のことは俺に任せて、ちょっと修業をしよう」
「修業?」
「そうそう。こっちにきてくれる?」
夏美ちゃんの手を引き、多宝塔の前へ立たせた。
そして、心の中でクエストを確認するように伝えると、驚きながら周りを見回した。
「この声って……なんなの?」
「修業をしてくれる人の声で、終わるとこういうのがもらえるんだけど、夏美ちゃんはなんて言われたの?」
俺は金のリングを取り出しながら、右手の中指へリングを通す。
リングが勝手に調整されており、指の根元に入る時にはぴったり収まっていた。
「お遍路を24時間以内に3周しろって言われたんだけど……本当にそれと同じのがもらえるの?」
「そうだよ。アクセサリーはなにがいいって聞かれるから、指輪って答えるともらえるんだ」
「お遍路ってただ走ればいいの?」
俺の指から目を離さずに夏美ちゃんが質問をしてきており、丁寧にひとつひとつ答えてあげている。
「お寺ごとにお参りをしないとだめだよ。手を合わせてから1礼をすれば、次へ行っても大丈夫」
「教えてくれてありがとう! 行ってくるね!」
妙にやる気の入った夏美ちゃんが走り始めるので、手を振って見送った。
「よし、行くか」
少しだけ魔力が回復したため、田中先生がいるホテルへワープを行う。
ロビーへの入り口にいる体格の良い男性から前に手を出されて止められた。
「招待状を」
「人を迎えにきただけなので、すぐに帰ります」
「すみません、関係者以外は入れるなと……ぐっ!?」
俺の前に出されている腕をひねりあげて、男性は抵抗するものの俺の手を振りほどけない。
男性のわめいた声を聞いて、数人の人が俺をにらみながら駆けつけてくる。
腕を持っている男性を、こちらへきている集団に向かって投げ飛ばす。
「襲われそうになっている田中真先生を救出するためにきた! どいてもらおうか!!」
俺の怒号とともにロビーへ黒い服を着た集団が現れる。
殺さない程度に相手をするために、俺はリュックから盾を取り出した。
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