夏休み約束編⑦~徳島の夜~(清水夏美視点)
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夜中に地震が起こって、空に向かって青色の光が見えてから数時間が経った。
テレビでは深夜にもかかわらず、青い光の見えた場所を探している報道番組が流れている。
コメンテーターの人が、今日の昼間にお遍路周辺のモンスターが活性化したことと関係あるのではないかと分析をしていた。
そのテレビを地震が起こってから駆けつけてくれた真さんと見ている。
安全を確認するために一也くんへ連絡をするものの一向に電話に出てくれない。
「夏美、一也くん電話に出た?」
「出ないです。寝ているのかな……」
「あの子ならそれもありえるわね」
真さんが笑いながらテレビに顔を向けて、新しい情報はないのか聞き入っている。
私もテレビを見るものの、内容がまったく耳に入ってこない。
花蓮さんや真央さんが北海道で一也くんに告白をしたと聞いた時から、胸が苦しくなっていた。
2人は振られたと笑いながら言っていたものの、北海道でのお礼という名目でアクセサリーを買ってもらったと嬉しそうに教えてくれていたことで、よけいに一也くんのことを考える時間が増えている。
(連絡くらいしてよ……【今は】彼氏なんでしょ……それともあの言葉は嘘なの?)
何十回とかけても出てくれないので諦めようとしていたら、私のスマホが音を出し始めた。
一也くんかと思って画面を見たら、なぜか明から電話がかかってきている。
「もしもし、なっちゃん? 今大丈夫かな?」
「うん……急にどうしたの?」
「徳島でなにかあったって聞いたんだけど……今周りに誰かいるかな?」
「うん。いるけど……」
「誰にも話を聞かれないように1人になれる?」
「わかった。ちょっと待っていてね」
真さんに一言伝えてから他の部屋に移り、部屋の隅に行く。
耳を澄ませてもテレビの音も聞こえないので、話が漏れることはないと思う。
念のために気配察知のスキルを使用して、誰かが近づいてきたら分かるように準備をする。
「待たせてごめん、もう大丈夫だよ」
「ありがとう……簡潔に伝えるけど、地震とか光は全部一也くんが起こしたんだよ」
「やっぱりそうなんだ……」
一也くんへ連絡がつかないことと、自分のもしかしたらという考えが一致し、明が連絡をしてきたことで素直に納得をしてしまった。
明からほとんど予知のように未来のことがわかるようになったと聞いたことがあるので、思った疑問をそのまま口に出してしまう。
「これから私はどうすればいいと思う?」
「……自分の思ったことにしたがって動けばいいよ」
明が少し間を空けてから言葉を選ぶように伝えてくれている。
「電話ありがとう。やることができたから切るね」
「なっちゃん、思いっきりやるんだよ!」
「ふふっ。ありがとう」
電話を切り、私は急いで一也くんのところへ向かう準備をするために動き出す。
急いで部屋を出て、テレビを見ている真さんへ一方的に言い放つ。
「真さん、行く所ができたので外に出ますね!」
「え!? ちょっと、いきなりどうしたの!?」
「すみません、後は任せます」
着ているパジャマを脱ぎ捨てて、なんでもいいから運動できる恰好へ着替える。
矢を持って部屋を出ようとしたら、深夜にもかかわらずチャイムが鳴り、誰かきているようだった。
真さんが対応するために扉へ向かうと、数人の男性がにやにやしながら部屋の前に立っている。
一番前にいた男性が、真さんの体をなめまわすように見ながら笑っていた。
「さっき田中さんがこの部屋に入るのを見たんですが、不安なら一緒にいましょうか?」
「え、それはちょっと……」
「そう言わずに、いろいろ用意したので入りますね」
「きゃっ!?」
真さんが押しのけられて部屋へ入られそうになっていたので、先頭の男性へ思いっきり掌底を打ち込む。
「はっ!」
先頭の男性が廊下の壁に打ち付けられ、後ろにいた人たちも部屋から出てもらう。
真さんが呆然としたまま私へ目を向けているのを気にせず、入ってこようとしてきた男性へ近づく。
まだ他の人たちも起きていたのか、騒動を聞きつけて、部屋の扉を開けてこちらの様子をうかがっている。
そんな些細なことを気にせず、壁に打ち付けた男性の胸ぐらをつかんだ。
「お、俺は副会長の孫だぞ!? こんなことをしていいと思っているのか!?」
その声とともに横から私を止めようと手が伸ばされてきたので、その人の腹部を狙って蹴り飛ばした。
まだ私の周りには数名の男性が倒れて戸惑いの表情でこちらを見ていたため、胸ぐらをつかんだ男性を片手で持ち上げる。
「私は冒険者Rank4の冒険者です! いきなり部屋へ入ろうとした不埒者を追い払っただけで、何を咎められるのですか!?」
「俺たちは怖がっていると思ったから善意で守ってやろうとしただけじゃないか!!」
「そういうことを言うのなら、もちろん私よりも強いんですよね。かかってきなさい!!」
一也くんに教わった通り、苦しそうに反論してきた男性を思いっきり廊下を転ばすように投げ飛ばす。
男性の仲間と思われる人たちも私から距離を取り、怯えているようだった。
(こんなこと起こらないと思っていたけど、本当に効くんだ……)
一也くんから大会の時に対人戦は最初が肝心と教えてもらっていたので、容赦なく力の差を見せつける。
何が起こっているのかわからない真さんに笑顔を向けた。
「真さん、ホテルの中でもこんな【くず】がいるので、扉を開けない方がいいですよ」
「夏美……あなた……」
「少し出かけてきます。おやすみなさい」
少し汚い言葉を使ってしまったものの、一也くんに比べればまだましなので優しく部屋の扉を閉める。
エレベーターへ向かうと、祖母と同じくらいの歳に見える男性が私の前に立ちふさがった。
「待ちなさい。こんな夜にどこへ行こうというんだ?」
「Rank4の冒険者として、この騒動を収めてきます」
老人を退けてエレベーターに乗り込んでロビーに降りると、複数の大人が私を進ませないように呼吸を乱して待っていた。
その中心に写真で見たことがある弓道協会の会長が立っている。
「清水夏美ちゃんだね? もう遅いから部屋へ戻りなさい」
「失礼ですが、私は冒険者としてこの騒動の原因を探ろうとしているので、あなたに止める権限はありません」
「行かせるな!」
私がそう言い切って会長の横を通り過ぎようとしたら、数名の男の人が私を押さえ付けようとしてきた。
祖母に教えてもらった護身術と身体能力向上を使用した私を止められる人はいない。
数名の大人をその場で無力化して、ホテルから出ようとした。
「見合いが無しになってもいいのか!?」
私の背後から聞こえてきたのは願ってもない提案だった。
ぜひそうしてもらいたいので、会長に向かってお辞儀をする。
「元々断るためにきたので、そうなっていただけると嬉しいです。よろしくお願いします」
「な、なにを!?」
「それに、私より弱い人には興味ないんですよね。お見合い相手は強いんですか?」
「お前みたいな化け物より強い人間なんているわけがないだろう!!」
「フフっ。それでは、失礼します」
一般人からすれば私は【化け物】に見えてくれるようだった。
怖がられながら会長にそう言われて、一也くんと同じカテゴリーに入れたと実感してくる。
足取りが軽くなり、青い光が見えたという方向へ走ると、ある場所で人だかりができていた。
何かを押すようにもたれかかっている人たちがいるので、その中の男性へ声をかける。
「すみません、それ以上進まないんですか?」
「進まないんじゃなくて、見えない壁みたいなのがあって進めないんだ」
「見えない壁ですか……」
富士山へ登る時にも見えない壁があったので、私は近くにキーとなるモンスターがいないか探る。
それでもモンスターらしき気配がしないため、私も壁を押してみた。
『上位者の存在を確認しました。結界を解きますか?』
「え!?」
頭の中に声が響いて、この喧噪の中ではっきりと内容を聞き取れた。
私が声をかけた男性は不思議そうな顔を私へ向けてきている。
「ん? お嬢ちゃんどうしたんだい?」
「何か聞こえませんでしたか?」
「みんながうなっている声なら聞こえるけど……」
本当に聞こえていなかったのか、【結界】というものを必死に破ろうとしている。
(これは一也くんがみんなを守るために張ってくれたものなのかな)
気配察知を青い光の方へ向けると、大量のモンスターが存在していた。
その中心では一也くんと強い敵が戦っていることを感じ取っていたので、先ほど聞こえた声に返答する。
『解きません』
『わかりました』
それ以降、私の頭の中へ声が聞こえることはなかった。
(一也くん……大好き……必ず帰ってきてね)
私は思いを寄せる人の無事を祈りながら待つ。
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