夏休み約束編⑥~マロンと共に~
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レべ天から【マロン】を受け取り、霊山寺に戻ってきた。
命名の理由を眠りかけていたレべ天から聞いたところ、栗のような色と体型をしているからということらしい。
名前を呼ばれていた豆狸が嬉しそうに反応をしていたため、そのままレべ天の案を採用した。
多宝塔の前に立ち、中断を終えたことを報告すると、頭に声が響いてくる。
『中断時間が3時間を超えたため、クエスト対象者の体調が万全になったと判断します』
「お、おう……」
多宝塔から一方的に言い切られてしまったため、俺は返事をすることしかできなかった。
体調がクエストに関係するのか聞こうとしたら、多宝塔全体が【青く】輝き地面が大きく揺れる。
「なんなんだ!?」
『クエスト変更、日が昇る前に豆狸を守りながら【ぬらりひょん】を討伐しなさい』
「嘘だろ!?」
俺の言葉に応えることなく、多宝塔の青い光が上空に向かって放出された。
すると、多宝塔のそばから黒い煙が噴き出す。
煙が収まると、その中心にはひときわ頭の大きな老人が白鞘を持って立っていた。
その姿が信じられず、体中から汗が噴き出て全力でレべ天を起こす。
『天音!! 今すぐ黒騎士の装備を……』
俺が装備を渡されるよりも速く老人が俺を切りつけてくる。
パリィでなんとか攻撃を弾き、刀で攻撃をしてきた老人と距離を取った。
「ほぉー、今のが見えるのか、結構結構」
老人が俺を見て、けたけたと笑いながら刀を肩に担ぐように持った。
その姿をよく観察して、先ほどの攻撃とともに老人のことを思い出す。
(こいつは、【完全体】のぬらりひょん。単体で京都を壊滅させる【最上級】のモンスター)
京都のイベントで陰陽師を守ることができなければ出現する。
俺が以前、明を助けるために戦ったのはこうなる前のぬらりひょんだった。
(京都で買える物は一流の物が多いから、こいつとはほとんど戦っていないんだよな……)
現れてしまうと京都の町が壊滅するので、次のイベントまで一切の取引ができなくなる。
ゲームでは1度クリアできるようになって以降は出現させなかったので、まともに戦ったことがない。
ようやく黒騎士装備が送られてきたため、警戒をしながら豆狸を頭に巻いていた赤い布で抱くように固定する。
準備が終わるのを待っていたのか、ぬらりひょんは刀を前に振り下ろす。
軽く振っているはずなのに、刀にまとっている魔力の圧が離れている俺まで届いている。
「おぬし、怯えておるな。恐怖が全身からにじみ出ているぞ」
「いいや、それはない……お前を倒すことで俺は壁を越えられるからな!!」
「甘い!」
言い終わった瞬間にぬらりひょんへ殴りかかるものの、刀でいなされた。
それと同時に拳に魔力を込めて、炎の塊を打ち放つ。
「バーニングフィスト!」
「ぬん!」
直撃する寸前にぬらりひょんは炎の塊を両断していた。
振り下ろした刀を見た俺は全速力で接近し、最速の一撃を繰り出す。
「ソニックアタック!」
「ぐぅ!!」
これだけスキルを使用して、ようやく俺の攻撃がぬらりひょんに届く。
刀をかわすために距離を取りつつも、手刀を振り抜いた。
「ソニックウェーブ!」
魔力の刃はぬらりひょんの刀によって防がれてしまった。
しかし、この攻防で現状の力でも完全体のぬらりひょんと戦えると確信する。
(後は辛抱強く戦うだけだ!)
次はどんな攻撃を行おうか考えながら拳を握りしめると、ぬらりひょんが急に肩を震わせた。
「はっはっは! 人間がここまでやるとはな! わしも本気を出そう!」
「そんなはったりを……」
「現れろ! この地へ絶望を刻む我が仲間たちよ!!」
ぬらりひょんが叫ぶと、周囲一帯から次々とモンスターが俺を囲うように集結する。
ボス特有の取り巻きと呼ばれるモンスターが召喚されて、ぬらりひょんを守るように壁を作った。
今回は赤鬼だけではなく、数種類のけち火や、赤鬼の上級モンスターである青鬼など一筋縄ではいかない相手ばかりだ。
「その人間と狸を殺せ!!」
ぬらりひょんが刀の切っ先を俺へ向けて、周りにいるモンスターへ指示を出している。
モンスターの軍勢が俺へ一斉に襲い掛かろうとしているので、薙ぎ払うように足へ魔力を込めた。
「ワイド旋風脚!!」
有効範囲の広くなったかまいたちでモンスターを遠ざけてからぬらりひょんへ向かうものの、大量のけち火によって道を塞がれた。
けち火を倒す方法は今の自分にはないため、弾いて邪魔にならないようにするしかない。
(怨霊モンスターを倒す《浄化》のスキルなんて持っていないぞ!)
ホーリーヒールLv10で使用できるようになる《浄化》スキル。
実体を持たない怨霊や妖怪などに対して特攻を持っており、うまくいけばどんなモンスターでも一撃で葬り去ることができる。
しかし、これはLvだけでなくある【条件】がないと習得できないため、俺のスキルに表示されていない。
(ホーリーヒールLv10を習得した状態で、上級職になれる教会で祝福を受けるって条件なんだけど……近くにある教会じゃ無理だったんだよな……)
鬼たちの攻撃を受け流しつつ、ぬらりひょんの刀に警戒するのは精神的に辛い。
そんな中、怨霊モンスターを《浄化》以外の方法で倒す手段を探す。
(怨霊にダメージを与える方法……ゴースト系?)
あることを思い出したので、周りに群がるモンスターを鑑定する。
青鬼――妖怪系モンスター
けち火――怨霊系モンスター
ぬらりひょん――妖怪系モンスター
種類に注目して、自分の記憶がこの世界でも適用されているように祈りながら魔力に色を注ぎ込む。
全身が【緑色】に光り輝くので、その魔力を拳に込めて塊をばらまく。
「五月雨ヒールフィスト!!」
当たれば回復する祈りが込められた塊を撃ち出した。
すると、緑色に輝く塊に当たったけち火や鬼が消滅するようにいなくなっていく。
けち火によって視界が遮られていたぬらりひょんも俺からの祝福を受けて膝を地面についており、回復が効いているようだった。
「小僧!! なにをした!!」
「よく効いたか!? お代わりをやろう!!」
消えたモンスターの隙間を埋めるようにモンスターが現れていたため、俺は再び全身にめぐらせた回復する祈りが込められた魔力を打ち放った。
(回復の【祈り】が込められたこの攻撃ならけち火にも効くんだ!)
ここにいるモンスターは大きな括りで【ゴースト系】と分類されていた。
ゴーストには本来体力を回復させるはずのヒール系の魔法が、すべてダメージとして与えることができる。
戦う術を見出した俺は、魔力の輝きをさらに激しく光らせた。
2種類の魔力を同時に扱えるようになり、濃度についての意識が生まれていた。
(単色の魔力なら今まで以上の威力を出すことができる!)
濃度を高めた分だけ消費は激しくなるものの、自分にまとう魔力が濃縮されて今まで以上の効果がもたらされる。
「さあ、やろうか!!」
俺は緑色の魔力を全身にたぎらせて、ぬらりひょんへ向かって走り出した。
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