北海道解放編①~稼働中の研究所~
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「一也さん、まだ日本の研究所で1ヵ所稼働したままの場所があります」
「……そうなの? この前、テレビで全部の研究所が停止したって会見していたけど、日本に残ってるの?」
ディーさんが作ってくれた昼食をレべ天の家で食べていたら、明が思い出すように俺へ話しかけてきた。
レべ天も驚いているのか、箸が止めて明を見ている。
WAO、世界冒険者協会がリバイアサンを倒してから数日後に会見を行っており、加盟するすべての国にある研究所が停止されたと言っていた。
まさか、日本が守っていないとは思っていなかったので、他にもまだ稼働している研究所がないのか明に調べてもらう。
「明、他にもまだ止めていないところってある?」
「あります」
「そうか……もうひとつひとつ潰していくしかないかな……」
研究所を襲撃して、潰せばその国から賠償金がもらえるので、これを機に行動しようと思う。
食事を終わらせて、立ち上がって明の前で手を広げた。
「明、ハグしよう」
「よろしくお願いします」
占いの前払いとして、明とハグをして幸せを感じてもらいたい。
最近は、ハグだけでは物足りないということを言っていたので、頭も撫でる。
キッチンから戻ってきたディーさんがこの様子を見て、俺の服を後ろから引っ張ってきた。
「いつも明ちゃんばっかりずるいです」
明が俺から腕を離さず、胸に埋めていた顔を少しだけずらした。
「私は一也さんから求められていますからね」
「明、そんな言い方をすると……」
慌てて明を体から離して、ディーさんへ顔を向ける。
「グスン……」
案の定、ディーさんがいじけるように膝を抱えて座っていた。
このまま放っておくと、生活に支障が出るので、なんとしてでも気持ちを持ち直してもらわなければならない。
(この前は、水がこの人の周りに集まろうとして、家中の蛇口から水が噴き出てきたから……)
対応を教えてもらうためにポセイドンに相談をしたら、ディーさんは寂しくなったり、嫌なことがあったりすると水の中に引きこもるそうだ。
なので、その原因を解決してあげれば、水が集まる事態にはならないとアドバイスをもらった。
「俺にはディーさんも必要ですよ。水を自由に使えるようにしてくれたじゃないですか」
「……本当?」
「本当です」
なぜ俺がこんなことをしなければならなのかという考えをせず、目の前で泣いている守護者をなだめることに専念する。
すると、うつむいていたディーさんが顔を上げて、手を広げてきた。
「じゃあ、一也、私にもハグをして」
「わかったよ……うわ!?」
ディーさんへ手を回そうとしたら、勢いよく抱き付いてきてそのまま押し倒される。
俺に覆いかぶさるように抱き付くディーさんをなんとか受け入れて、背中をさすってあげた。
「一也、一也!!」
「もう、満足するまで抱き付いていいよ……」
無理にはがそうとするとそれでさらに傷つくようなので、俺はなすがまま受け入れた。
この時間に、明へ研究所の位置を占ってもらうことにする。
「明、世界中で稼働している研究所の位置を書いてくれる?」
「……後で、私もディーさんと同じことをさせてくれるならいいですよ」
「リストを完成させたらいいよ」
「今すぐ取りかかります!」
明が椅子に座って、全身から青い光を放ちながら紙にペンを走らせる。
床に倒れながら明の隣に座るレべ天に目を向けたら、ゆっくりと首を左右に振られた。
レべ天でも、この状況から俺を助けることはできないらしい。
ひとしきり俺を抱きしめながら匂いを嗅いだ後、ディーさんは満足してダンジョンの再建に戻った。
リストを完成させた明をディーさんと同じことをさせていた時、レべ天の家のチャイムが鳴る。
レべ天が対応するために玄関へ向かう。
「――!!」
レべ天の大きな声が聞こえるものの、内容まではよくわからない。
何かの押し売りかと思っていたら、リビングへの扉が開けられる。
「一也! 明! 何をやっているの!?」
花蓮さんが扉を開け放って、顔を赤く染めて俺と明を見ていた。
明は俺から離れるものの、上に乗るのは止めない。
「花蓮さんも抱き付いてみますか? 気持ち良いですよ?」
「そ、そんなこと!? 私にはできない……」
「モンスター相手には飛び込んでいくのに、こういう時には小心者なんですね」
明は俺の上から退いてから、花蓮さんへ近づいている。
耳元で明がささやくと、花蓮さんは耳まで赤く染めてしまう。
ようやくディーさんや明から解放されたので、立って体をほぐす。
喉が渇いたので何か飲もうとしたら、花蓮さんが持っていた荷物を置いて手を大きく広げた。
「欧米ではハグは親しい相手への挨拶よ! PTメンバーなんだから挨拶しなさい……」
最初は力強く言っていたものの、最後は恥ずかしくなったのかうつむいてしまった。
このまま放置すると非常に居たたまれないと思うので、挨拶のように軽く抱きしめる。
「ようこそ花蓮さん」
「う、うん……」
「ん?」
俺が離れようとしても、花蓮さんが離してくれない。
「ごめん!」
しかし、目が合うと、焦るように俺の胸を押して突き離してきた。
よろけるものの、そこまで強い力ではなかったので、特に気にせず冷蔵庫へ向かう。
飲み物をいくつかグラスに入れてからリビングに戻る。
そこには、胸に手を押さえながら、なんにもしていないのに息を荒くした花蓮さんが立っていた。
「何か用があるんですよね? 座りませんか?」
「そ、そうね。ありがとう」
花蓮さんは椅子に座り、テーブルに置かれたお茶を一気に飲み干す。
外はまだ暑いので、空になったグラスへ追加のお茶を注ぐ。
「ありがとう……」
「外暑いですもんね」
「そ、そうよね! 暑すぎて困るわ!!」
花蓮さんが手で顔をあおいでいたので、エアコンの設定温度を下げてあげた。
なぜか横に座っていた明が軽くため息をついてから、花蓮さんへ話しかける。
「花蓮さん、用があったんじゃなかったんですか?」
「え!? あ!! 一也、ギルド長がすぐに来てほしいって!!」
「ギルド長が? わかった、連絡してみるよ」
スマホを取り出して、ギルド長に電話をかける。
ワープ場所にギルド長の隣の部屋にある応接室を登録してあるため、使っていないのか確かめたい。
(なんで花蓮さんを経由したんだ?)
数コールで電話に出たギルド長は、花蓮さんとは逆に落ち着いて対応してくれた。
「佐藤か? 花蓮から話を聞いたな?」
「はい、ギルドへ来いとだけ聞きました。用件は?」
「【谷屋花蓮とゆかいな仲間たち】PTへ個別依頼がきている」
「誰からですか?」
今まですらすらと話をしていたギルド長のからの返事が止まる。
しかし、言い辛そうにしながらも、俺たちを指名した人の名前を言う。
「……現防衛大臣直々の依頼だ」
「わかりました。花蓮さんと応接室へワープします」
「頼む」
俺は通話を終了させて、まだ額に汗をかく花蓮さんの手を取る。
「きゃ!? いきなりなに!?」
「ワープします」
花蓮さんとワープをする直前、明が笑顔で手を振ってきていた。
「いってらっしゃい」
ワープを行った先では、もう夏美ちゃんと佐々木さんが椅子に座って待っている。
俺と花蓮さんも座ると、佐々木さんがギルド長を呼んでくると立ち上がった。
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