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迷子のぴのとセーラー服の少女

 ある日、ぴのが外を眺めていると。

「……ちょうちょしゃんでしゅね」

 ぴののお友達、ちょうちょが外を飛んでいました。

 ちょうちょはぴののことなど知らん顔。ひらひらと自由気ままに飛んでいってしまいます。

「まってくだしゃーい」

 ぴのは窓をよいこらせ、と跨いで、ちょうちょの後を追いかけていきました。

 空き地をでて、住宅街を抜けて。

「まってまってー」

 それでもちょうちょは待ってくれません。

 畑を越えて、いつもキノモリさんが行くのとは違う公園へ。

 そこでやっと、ぴのはちょうちょに追いつきました。

「ひどいでしゅよー」

 ぴのは両手をぶんぶん回して抗議します。

 ちょうちょが喋れるわけはないので、ごめん、の言葉はありませんでしたが、悪かったと思ったのか、ぴのの頭上を申し訳なさそうにくるくると飛びました。

「ちょうちょしゃん、ちょうちょしゃん。おわびに、おいしいみつのでるおはな、おしえてくだしゃい」

 ちょうちょはゆっくりと近くのツツジに飛んでいきます。なるほど、ツツジは蜜がおいしい植物です。

「わぁ、これがおいしいおはななんでしゅね! ありがとうでしゅ、ちょうちょしゃん~!」

 じゅるり。

 ぴのがえへーと笑いながら、よだれを垂らしました。おいしいものは大好きです。特に、甘いもの。ぴのは、これには目がありません。

「ありゅと、ありゅとー。これがおいしいんでしゅってー。いっしょにみつ、すいましょー」

 そこまで言って、ぴのは気づきました。ありゅとが隣にいないことに。

「……ありゅと? ますたー?」

 そう言えば、キノモリさんの姿もありません。

 そうそう、思い出しました。キノモリさんはお仕事で留守。ありゅとはお昼寝中です。

 いそいでもどらなくちゃいけましぇんね。

 しかし、もう一つの事実に、ぴのが気づきます。

「……ここ、どこでしゅかね?」

 ぴのはこちらには初めて来ました。帰り道が判りません。

「どうちましょう……」

 ぴのはツツジの蜜をあきらめて、とぼとぼと歩き始めました。

「……んー? なんだろ、このコ?」

 一人の少女が、ぴのを見つけて、しゃがみ込みます。

「こんにちは。可愛いね~。どうしたの?」

 その声に、ぴのは少女を見上げました。

 迷子になったときには、どうすればいいのか。

 キノモリさんは二匹に教えてくれました。

 確か、名前を名乗って、

「こんにちはでしゅ。きのもりぴのともうしましゅ」

「わっ、喋れるの? へえぇ、すごい! 可愛い!」

 迷子になったことを告げて、

「まいごになりまちた……」

「あらら、それは大変だー」

 お巡りさんに会わせてもらうのです。

「おまわりさんにあわせてくだしゃい」

「ね、そんなことより、ウチ来ない?」

 こういうときはきちんと断るんだよ。

 それもキノモリさんに口酸っぱく言われています。

「いえいえ、ぽくはおうちにかえりたいんでしゅ」

「お菓子あるよ。お肉屋さんだから、お肉も沢山」

 それは魅力的です。

 しかし、ダメと言われてるので、ダメなのです。

「みりょくてきではありましゅが、だめでしゅー」

「そっかぁ、ダメかー。とっても残念だなー……」

 少女はぴのをすくい上げて、ベストのポケットに入れました。

「じゃあ、交番に連れていってあげよう」

「ぽくがいきたいのはおまわりさんのところでしゅ」

 少女が歩き始めながら笑います。

「交番にお巡りさんいるから、大丈夫だよー」

 てくてくと、少女は歩いていきます。

 やがて、ドングリの形をした建物が見えてきました。

「あれがはなまる一丁目の交番」

「ほうほう、こうばんでしゅか」

 判らないなりに、ぴのが頷きます。

「あそこにお巡りさんいるから」

「おまわりさんにあいましゅー」

 少女が交番の中に入りました。

「お巡りさーん。迷子です」

 気の優しそうなお巡りさんが、ん、とすすっていたカップ麺をそのままに、立ち上がりました。

「誰が迷子なんだい?」

「このコでーす」

 少女がぴのを差し出して、机に置きました。

「……え、えぇ」

 少なからず、このコが……?と、訝しげです。

 ぴのがぺこん、とお辞儀をします。

「きのもりぴのともうしましゅ」

「ああ、キノモリさん。あの、ひまわり荘のヒトね」

 お巡りさんは立ったまま、町内会名簿をぺらぺらとめくりました。

「えーっと、お嬢ちゃんは確か……。『おにくばたけ』の……」

 お巡りさんがそこまで言うと、少女は敬礼の格好をして、ぴっ、と胸を張りました。

「はいっ。アシタバぱるなと言いますっ!」

「了解。キノモリさんには連絡しとくから」

 お疲れさまでした、帰っていいよ。

 お巡りさんがそう言うと、ぱるなちゃんはえー、と言って、机の上のぴのを撫でます。

「あたし、もうちょっとここにいたいですー。このコと遊びたーい。ね、お巡りさん、いいでしょ?」

 しょうがないなー。

 お巡りさんが苦笑いしました。

「はいはい。ただし、僕はお茶を出すくらいしかできないよ」

「それでも構いませんっ」

 ぱるなちゃんが元気よく言うと、お巡りさんはこくこくと頷いて、戸棚からお客さん用のお湯呑みと、お茶の葉、急須を取り出し、一人と一匹のためにお茶を淹れ始めました。

「はい、どうぞ。熱いんで、気をつけてね」

「ありがとうございましゅ」

「ありがとうございますー」

 一人と一匹は、同じタイミングでお茶をすすります。

「ぷはー。おいしいでしゅ」

「ぷはー。おーいしーいっ」

 あはははは。

 微笑ましい光景に笑いながら、お巡りさんは町内会名簿をめくります。

 キノモリさん。見つかりました。

 どうやら、固定電話があるようです。

 連絡先が見つかって、お巡りさんは一安心しました。最近は、固定電話を持っている人が少なくなったり、名簿に載せてなかったりで、いろいろと面倒なのです。

 しかし、キノモリさん宅も、携帯電話番号は書いていませんでしたので、固定電話に掛けるしかなさそうです。まぁ、留守電機能はあるでしょうから、万が一留守でも大丈夫でしょう。

 お巡りさんは白い受話器を手に持ち、名簿に書かれている電話番号にコールしました。



「ぴのー! し、しんぱいしたんだじぇー!」

「どうも、ウチのぴのがお世話になりました」

 夕方になって、お巡りさんからの留守電と、ありゅとの「ぴのがいないー」の泣き声によって事態を知ったキノモリさん……キノモリさんが、交番にぴのを引き取りに来ました。ありゅとも一緒です。

「ぴのちゃん、もう迷子にならないようにね」

 お巡りさんもほっと一安心です。

「本当に、すみません」

「いえいえ、僕はなにもしてないんですよ。こっちのお嬢ちゃんがね、ぴのちゃんとずっと遊んでくれてたから」

 ぱるなちゃんがえへっ、と笑います。

「あれ、どなたかと思ったら、『おにくばたけ』の」

 キノモリさんがそこまで言うと、ぱるなちゃんが再びえへっ、と笑って、こくこくと頷きました。

「そちらこそ、誰かと思ったら、ウチによく買いに来てくれるお客さんじゃないですかー」

「ますたー、しりあいだじぇ?」

 ありゅとがキノモリさんの髪をくいくいと引っ張ります。

「『おにくばたけ』の子だよ。おいしいお肉、いっぱい売ってるでしょ」

「おいしいおにくだじぇ? いいなー」

 ぱるなちゃんはキノモリさんの頭の上に乗っているありゅとを見て、にこにこ笑います。

「こっちのコも可愛いなー。お名前は?」

 ありゅとは、可愛い、と言われたのが嬉しかったらしく、えへえへえへ、と笑いながら答えます。

「ありゅとだじぇ!」

 そっかそっか。またね。

 ぱるなちゃんは、ありゅとの頭を撫でると、ぺこっとキノモリさんとお巡りさんに一礼し、暗くなりはじめた道を帰っていきました。

 キノモリさんも、お巡りさんに一礼すると、ありゅととぴのをフードに入れます。

「さて。ありゅと、ぴの。帰ろうか」

 キノモリさんが歩き始めて、しばし沈黙。

 そのとき。

 ぐぅぅ。

 ぴののお腹が盛大に鳴りました。

「あれ、ぴの。お腹すいたの?」

 キノモリさんが言うと、ぴのがぺへっ、と笑います。

「ますたー、あのねあのね。ちょうちょしゃんに、おいしいみつのでるおはなを、おしえてもらったんでしゅよ」

「ふーん。それで、食べたの?」

「ありゅとと、ますたーがいないから、やめまちた」

 じゃあ。

 キノモリさんが笑います。

「今日のデザートには、二人にパンケーキ作ってあげるね。蜂蜜たっぷりのヤツ」

 すると、ありゅとがとても喜びました。

「うれしいじぇー!」

「いいんでしゅか?」

 ぴのはなんだか申し訳なさそうです。

「いいよ」

 キノモリさんがくすくすと笑います。

「ぴのは迷子になったけど、言いつけ守って、ちゃんとお巡りさんのところへ行けたでしょ。ありゅとも、ぴのがいなくてとても心配してたけど、一人でお留守番できたね。だから、いい子の二人にご褒美だよ」

 まもなく家です。

 ぴのの冒険も、もうすぐ終わり。

 もう、心配させないでね。

 キノモリさんはそんなことを思いつつ、今晩の献立を考えるのでした。

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