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腹ペコ魔法使いの訪問①

「そうなんだよ……。ミレーネが病気になった季節は冬だっただろう。村の医者じゃ足りなくて一番近い街の医者をわざわざ呼んできたからそのときの馬車代とか、燃料費とか薬代とか。特に薬代が高かったんだ。しかも一回飲めば治るような病気じゃなかったから何ヶ月か薬を飲み続けなければならなかったし、往診代もあった。なんとか治療費は工面したけど薬代には足りなくて二人の花嫁道具を少しずつ売ってどうにか用意したんだ。あやうく二人の持参金にまで手を付ける事態になる寸前でミレーネが完治したからよかったけれど……」


「じゃあ姉さん達の嫁入り道具って全部ないの?衣装とか装飾品とか色々……」


「全部ではないよ。一族の女性にだけ継がれるような伝統なものは母上がまたご自分の花嫁道具から選んで用意して、それ以外のものもいくつかは揃え直せたんだ。ただやっぱり宝飾品なんかは一度手放してしまうと……」


「流石に行商人とかも頼まれなければ宝飾品は運んでこないよね……。頼んでも強盗とかの危険があるからなかなか請け負ってくれないし。一度揃えたときはどうやって手に入れたの?」


「ああ、ルードの騎士学校入学のために父上が帝都まで出かけた時があっただろう。あのときに帝都で宝飾品とか持参金の足しになるようなものとかを買っておいたんだ。なかなか二人の嫁入り先が見つからないし、これ以上年齢が上がると条件がかなり悪くなってしまうだろう。だからせめて個人の財産になるものだけでも多く持たせてやりたくてな。まぁそのおかげでミレーネは助かったんだが……」


兄さんは複雑そうな顔をしてそう言った。兄さんもまさかこんなことになるとは思わなかったんだろう。ミレーネの命とエレナ姉さん、フェルナ姉さん二人の結婚費用。二つを天秤にかけて苦渋の決断でミレーネの命を取った。多分それには母さんや父さんの意向もあっただろうな。……兄さんはもしかしたらここでミレーネが助からなければいいと思ったのかもしれない。ミレーネはまだ小さいし幼い子が早くに亡くなることは……よくあるから。でもミレーネは俺と一緒で生き残った。助かったのならこのままどうか無事に成長しますように。


「まぁ事情はわかったよ。うん。姉さん達のためにも良いものを買わないとね。俺も追加でなにか買ってくるよ」


「ああ、頼んだ。家の家計からも出すが俺も費用を出すから少し多めに買ってきてくれ。あと宝飾品以外にも買ってきてほしいものがあるからリストを渡す。頼んだぞ」


「はい、兄さん」


「頼んだぞウォル」


「はい。父さん」


 その後は父さんからの辺境伯への手紙を預かったり、俺の魔法学院入学後の話などを打ち合わせた。一通り話がまとまり、二人に退出の礼をして執務室を出る。さて、辺境伯と合うだけじゃなくて他にも重要な用事ができた。俺にとっては魔法学院入学よりも大事な話だ。


大切な二人の姉さんたちの嫁入り道具ならとびきり良いものを買ってあげたい。本当なら母さんとかに直接聞いて花嫁道具に喜ばれるものとか教えて貰えばいいけど……母さんは俺をいないものとして扱うからきっと聞いても答えてはくれないだろうな。いい加減に諦めたほうがいいのはわかってる。

それでも幼くて、弱くて、生きていることを望まれていなかった頃の俺がまだ、もしかしたらって泣いているような気がして俺はまだ母さんから抱きしめてもらうことを諦めきれないでいる。


「さて、どんな物がいいのか自分でも調べてみようっと」


哀しい記憶で頭がいっぱいになりそうだったけど姉さん達の喜ぶ顔を思い浮かべて無理やり気分を好転させる。俺は今まで狩った獲物の中で花嫁道具の購入資金の足しになりそうな毛皮や羽などを思い出しながら部屋に戻っていった。



「ウォルダー様、到着いたしましたよ。こちらがベルダン辺境伯家領地本邸でございます」


 俺の向かい側に座っていたレアさんの声にふっと意識が現実に戻る。長い移動時間の間こんな事になった事件を思い出していたらいつの間にかベルダン辺境伯家についたらしい。

朝、迎えの馬車に乗って実家であるグラント騎士爵領から四時間ほど揺られて中継地点であるソーラーという帝国北部でも有数の穀倉地帯に囲まれた大都市に着いて休憩と昼食を取った。

そのときに日持ちがする大きな田舎風パンを3つか4つ買い込み、あとはエネルギーになりそうなバターや塩漬けした燻製肉の塊をどっさり買い込んだ。これで1日かぎりぎり2日の間食分は持つと思いたいけど足りなかったら辺境伯には悪いけれど食事させてもらうか買い物に行かせてもらおう。


一時間ほど休憩を取ったらソーラーを出発して、ベルダン辺境伯の領地本邸があるミディアムという都市に向かった。ミディアムはソーラーから西に向かって二時間ほどすればたどり着くとのことだったので記憶の整理も兼ねてぼんやりと最近のことを思い出していた。そうしているうちにうたた寝してしまったのか気づけば帝国北部で最も栄えているという辺境伯のお膝元ミディアムに到着していた。


「さぁどうぞウォルダー様。応接間までご案内いたします」


 レアさんに促されて馬車から降りた俺は眼の前に広がる実家とは比べ物にならないほど立派な邸宅に心底驚いていた。広大な敷地に美しく整えられた庭の花々。奥の方には温室のようなものも見える。

そして立派な屋敷!おそらく4階建てだと思うが縦にも横にも広くてちょっとした古城のように見えなくもない。伝統と格式が何世代もかけて折り重なることでしか生み出せない重厚な威厳に満ちた大邸宅に俺は内心怯えつつ案内されるがままベルダン辺境伯家に足を踏み入れた。

 玄関ホールだけでも実家の何倍もある広さで足を踏み入れた瞬間響き渡るベルダン辺境伯家の使用人たちの「ようこそいらっしゃいませ」という歓迎の言葉に飛び上がらなかったのは奇跡だった。

玄関ホールに並ぶ使用人たちをそっと観察すると居並ぶ使用人たちのすべてが男性使用人でしかも彼らは背が高く、顔立ちが整っているものばかり。左右に並ぶ使用人たちの制服が微妙に違うのでおそらく従僕と執事が客人の対応のために並んでいるんだろうな。

 というか従僕も執事もみんな高身長で容姿が整ってるなんて……。それとも俺が他の貴族家を知らないだけで普通の貴族家ってこんな感じなのか?。

 初めからベルダン辺境伯家の財力にびっくりしつつも案内をしてくれるレアさんの後をついていく。廊下にもおそらく有名な画家が書いたのであろうと思われる絵画が品よく展示されていてただただ驚くばかりだった。


「こちらが応接間でございます。今お茶のご用意をさせますのでどうぞお寛ぎください。私は旦那様をお呼びしてまいります」


そういってレアさんは美しい所作で退出の礼をすると応接間から去っていってしまった。どうしていいのかわからないままとりあえずソファに座り、辺境伯が来るのを待つ。その間にこれもまた見目の整ったメイドがやってきて俺の前にお茶を配膳し、見たことのない色とりどりのお菓子が並んだ三段のケーキスタンドを四つも並べてから一礼して扉の直ぐ側まで下がっていった。


 (こういうときってどうすればいいんだっけ?まずい、父さんも兄さんもすっかり忘れてるみたいだけど俺は基本的な礼儀作法以外なんにも教育されてないから貴族の礼儀作法なんてわかんないよ……。困ったなぁ……)


 本当にどうしていいかわからないまま、とりあえずお茶だけは口にしたけど作法があっているかどうかもわからない。せめて致命的な失敗はしませんようにと祈りながら辺境伯がやってくるのを待った。

活動報告にどうしてウォルダーが辺境伯の財力に驚いたのかの解説がありますのでよろしければそちらも御覧ください

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