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腹ペコ魔法使いの日常①


「ふぅ、お腹いっぱいだ」

 

 座っていた丸太をただ切っただけの簡素な椅子に腰掛けていたウォルは最後の熊肉をごくん、と飲み込むと串を大きな葉っぱに上に置いた。皿代わりにしていた大きな葉の上にはこんもりと食べ終えた串が山積みになっている。


 たっぷりと自分が満腹になるまで熊肉の串焼きを平らげれば魔力が体の隅々まで満ちているのを感じる。食べ物を消化しながら凄まじい勢いでエネルギーが魔力に変換されていく。魔法使いは自分の食べたものが含んでいるエネルギーを魔力炉と呼ばれるみぞおち辺りにある魔法使い特有の臓器の中で魔力に変換し、全身に送っている。


 魔力は血液と同じように全身を巡っていてこの全身を巡る魔力を均一に保つのが優秀な魔法使いの証らしい。つまり魔力炉は魔法使いにとっての心臓のようなものだ。また魔法使いには魔力炉以外にも魔神経というものが血管とだいたい同じような位置に張り巡らされている。魔法を使う際においてこの魔神経は発動の速度に大きく関わる。


 そもそも魔法を使う過程は魔力炉から魔力を送り出す、発現したい魔法属性に変換する、魔力の方向を決める、そして発動、の順で行われる。普通の魔法使いの体内で行われるのは魔力炉から魔力を送り出す、という点だけで残りの過程は大抵杖や指輪などの補助器具を使うことで簡略化している。


補助器具を使って簡略化するのは魔神経過剰結合症候群の魔法使いと同じだけど両者の違うところは魔力炉から送り出される魔力の量と速度。魔法を使うときに、発動時は魔神経に流れる魔力を使う。その後魔法の威力を維持するのに魔力炉にある魔力が必要になる。

このときの追加の魔力は魔神経を伝って補助器具や発動場所に届くけれど魔神経過剰結合症候群の魔法使いは常に魔力が身体のあらゆる部分に満ちている。つまりわざわざ魔力炉から送り出さなくても魔法を発現する部位の周辺の魔力を使えばいい。


そうなると魔法を発現したとき普通の魔法使いより瞬間的な魔法の威力が桁違いになるのだ。もちろん魔法の維持には魔力量が必要だし、魔力量が少なければいくら魔神経過剰症候群の魔法使いであっても魔法の威力が普通の魔法使いと変わらない程度しか出せない魔法使いもいる。


もう一つ魔神経過剰症候群の魔法使いが強力な魔法使いと呼ばれる理由として体内の器官に過剰に絡みついた魔神経のお陰で魔法の連発がしやすいというのもある。

普通一度魔法を発動させると次の魔法を発動するために必要な分の魔力が魔力炉から届くまでのタイムラグが発生するが魔神経過剰結合症候群の魔法使いにはそれがない。

相手の魔法使いが一つの魔法を発動させている間に連続して違う魔法を発動させて相乗効果を生み出すことができる。

普通の魔法使いが何年も訓練し、魔法の練度を高めてやっと辿り着く魔法の使い方を魔神経過剰結合症候群の魔法使いは生まれたときから使えるのだ。まぁとはいえ魔神経過剰結合症候群の子供はまず成人するまで生き残らないといけないのでそこまでたどり着くのも難しいんだけど。

 

さて流氷グマからは大量の肉が取れたがそれと同じくらいの量の脂肪が手に入った。分厚い脂肪を食べるにはハーブと一緒に糖度が高い酒に漬け込み、半透明になるまで熟成させる必要がある。このキウラッテという保存食もエレナ姉さん達が大量に作ってくれて夏の間の楽しみが出来た。

もちろんすべてを食料にしてしまうと備蓄倉庫が熊肉のみで一杯になってしまうので熟成中の脂肪以外は薬や蝋燭などの日用品に加工してしまう。今日作業場に来たのは肉を食べるだけではなくて熊の脂肪を精製する作業をするためでもある。


「さて、お腹もいっぱいだし、魔力も十分。そろそろ作業するか」


簡易かまどの上に家から持ってきた大鍋を置いてすぐ側の川から水を汲んで大鍋の半分より少し低い位置まで水で満たす。大鍋の水が沸くまでの間に他の準備を進めておこう。

小屋の中に戻ると食料品を入れている木箱の隣には一抱えほどの大きさの軽く凍らせた熊の脂肪の塊がいくつか置いてあった。そのうちの一つを持ち上げてまな板の上に置く。膝くらいの高さの樽も一緒に用意して、普段肉の切り分け用に使っている刃物を手に取った。


「うーん。やっぱりまだ獣臭いか……」


脂肪の塊に鼻を近づけてすん、と匂いを嗅ぐとわずかに獣臭い。軽く凍らせているのであまり匂いはしないはずだがそれでも感じ取れる獣臭さ。このままでは加工品にも使えないので一度臭い消しの処理をしなくてはいけない。 

 そのままの脂はどうしても獣臭がするので一度大鍋に水と一緒に沸かして追加で臭み消しのハーブを入れて少し煮立たせる。ただ大鍋に入れるのにこの塊のままというわけにはいかないのである程度の大きさに脂肪の塊を切り分けていく。

だいたい握りこぶし一つ分位の大きさに切り分けていき、樽の中に落としていく。大体半分くらいの脂肪を処理すると最初に用意した樽がいっぱいになってしまったので新しいものを用意するついでに外で沸かしている鍋の様子を見に行った。


「もう沸いてるな。ついでに脂肪も入れておこう」


鍋の中を覗き込むとゴポゴポとお湯が湧いていた。ちょうどいいのでそのまま樽の脂肪を掴んでは大鍋にどんどんと投入していく。


「熱っ!」

 

 たまにお湯が跳ねて肌にあたり小さな悲鳴をあげつつ脂肪を投げ入れ、樽の中が半分ぐらいになったところで鍋には白い塊がこんもりと盛り上がっていた。火が絶えないように竈の中に薪を追加して火加減を調整したら脂が溶けるまで待機だ。時々大鍋の様子を見つつ、脂肪を切り分ける作業に戻った。


小屋の中に残っていた全ての脂肪を切り分けて、もう一つの樽にも脂肪をたっぷり詰めたら樽を竈の側に持っていく。


「うん。いい感じだな。そろそろハーブを入れよう。……でもやっぱりすごい臭いだ」


さっきまであった白い小山はすっかり溶けてなくなっていて、大鍋の中はグラグラと煮える脂とアクが浮いていた。鍋から湧き上がる湯気からはさっきよりも濃い獣臭が匂い立っていた。

立ち上る悪臭に顔をしかめながらアクを火傷しないように取り除いて表面には脂だけになるようにする。そうしたら臭い消しのハーブであるマズローリの束をそっと沈める。火力を落としてグラグラ煮えていた脂がコポコポと小さく沸くまで脂の温度を下げていく。


そのままハーブが焦げる手前まで煮て、ハーブを引き上げる。水分がなくなってほとんど脂だけになった大鍋の中身をを濾して、また同じような工程で煮立たせる。この作業を何度か繰り返して精製した脂を魔法を使って粗熱を取ってから大瓶に詰めていく。精製した脂は主に蝋燭に加工して家や小屋の明かりに使うのだ。


粗熱を取る作業を氷魔法でこなしながら大鍋の中に重力魔法で脂肪を入れていく。

最初からこうすればよかったかもしれないけどあまり森の中で余計な魔力を使いたくない。成人したらまた変わるのかもしれないけれど俺の体はまだまだ成長途中で、全身の器官に絡みついている魔神経もどんどん強化されていく。

そうなると体の成長と魔神経の成長にエネルギーを奪われてしまって魔力の生成に回る分が減ってしまう。そんな状況で万が一また流氷グマのような予想外の魔物に出会ったら?もし戦闘になってしまって魔力が足りなくなってしまったら?


「俺が魔法を生活の中で自由に使えるようになるにはもっと強くならないとだめだなぁ」


まだまだ実力不足の状況にちょっとだけ悔しさを感じつつも俺は眼の前の作業に集中することにした。


 

「よし、全部瓶詰めが終わった。えーと……こっちが蝋燭用で、こっちの大瓶は薬用かな」


あれからひたすらに熊脂の精製作業に没頭して昼過ぎぐらいにはすべての作業が終わった。小屋のテーブルには真っ白な熊の脂がみっちり詰まった瓶たちがズラッと並んでいる。こんな高品質な熊脂がこれほどあれば俺が薬屋だったら一財産になるだろう。

出来上がった熊脂の瓶は割れないように緩衝材をはさみながら木箱に詰めていく。いくつかの瓶はこのまま小屋の中に置いておいて俺が作業するときにでも使おう。

家に持ち帰る分を詰め終わったら荷運び用のソリに積んでいく。この間の流氷グマを運んだときに思ったけど意外とこのソリは役に立つ。ソリを運ぶときは身体強化の魔法をかければ重たいものは軽々と運べるし、ひっくり返ったり、紐が千切れることに気をつければ連結して更に運ぶものの量を増やすことができる。


「木箱はソリに積み終えたし、今度は森の中の恵みを採集しに行こう」

 

小屋の棚から背負籠と荒縄、麻布でできた袋がいくつかと小さめのかごがいくつかを手に取り荷物はかごに入れてしまう。あとは採集用道具を腰にくくりつけて姉さんにもらった酢漬けのカブの瓶も籠に放り込み、装備を確認したあと俺は小屋を出た。

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