17歳の誕生日
不定期亀更新になりますが、よろしくお願い致します。
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「未央…お前は随分と枯れたセブンティーンだな」
本日、めでたく十七歳の誕生日を迎えた私。携帯ゲーム機の中で愛を囁く二次元彼氏にニヤニヤが止まらない。
そんな私を心底可哀想なモノでも見るようにして呟く男は、道を挟んだ斜め向かいの家に住み、かれこれ十数年来の付き合いになる司。
人の漫画を読み漁り、入り浸ること数時間……部屋の主に向かってよくそう言う口が利けたものだ。
彼氏いない歴=年齢ですけど、何か? そんなもの当の本人が気にしてないのに、憐れまれる意味が全く分からない。
「いいでしょ別に。何の不便も感じないし」
「不便しない?このヤりたい盛りに、二次元の男が何の役に立たつよ?」
「盛ってないから。あんたと一緒にしないで」
枯れた女子高生な私と真逆を行くコイツは超が付く節操ナシ。
こんなしょうもない性格なのに…生まれ持った見目の良さでカバーされるのか、来るもの拒まず去るもの追わず。女が途切れる事はない。
「遊ぶのはあんたの自由だけど、精々刺されないように気を付けてね。まだ若いんだし命は惜しいでしょう?」
「―フッ……お前は“刺して”貰ったほうがいいんじゃね?まだ若いんだから。蜘蛛の巣が張る前に…な?」
…―下ネタかよ、ムカつく! でも“上手い”とか思った自分が一番ムカつくわ!!
ハイハイ。アナタは腐ってもリア充ですよ。私なんぞとは人種が違えば価値観も違う。話が通じる訳が無い。
同じ国所か、同じ町内に住んでいながらでも異文化交流は可能なのだ。
あぁ、十七歳の神聖な誕生日が汚された…。この、ささくれた気分は、ニ次元で癒すしかない。
何の足しにもならない男は、文句を垂れながら不服そうにしていたが、無視して速やかにお帰り頂いた…。
―――
17歳の誕生日は、最近発売したお気に入りな乙ゲーの、本命キャラ攻略に徹夜で遊び倒して過ごした。
明け方、気を失う様に眠りに着くと、ゲームの反映する夢を見て、目を覚ましたのは午後も大分回った頃……正確に言うと、ほぼ夕方だった。
…今日が休みとはいえさすがに寝過ぎた…。お腹は空いてるし、頭も痛い。
そんな満身創痍にも係わらず、まずは回収した新しいスチルをじっくり堪能したい…!そして、次なるターゲットとそのエンディングの方向性を決めておきたい…―
今現在、どっぷりゲームに浸かっている私の脳みそは、そう伝達してきた。
オッケィ。こうなったら寝食惜しまず遊び倒そうではないか。
そう思って目を瞑ったまま手を伸ばしたが、当たりをつけたその場所にゲーム機はなかった。
何処へ行ったのかと、重い身体をおこして枕を引っくり返したり、ベッドの下を覗いたが、影も形も見当たらない…。
もしかしたら……こんな時間まで寝腐っていたせいで、ブチ切れた母に没収されたのかも…。
…謝ろう。とにかく謝り倒して返して貰おう。この蜜月に彼等と引き裂かれるなんて耐えられない…!
寝起きでフラフラする頭を抱えてリビングへ降りた。
気まずげに遅い起床の挨拶をすれば、意外にも普段通りな母に拍子抜けする。
コレ幸いに然り気なくゲーム機の話を振ると、昼間遊びに来た司が持っていったとの事。
―…運命の彼と引き裂かれた悲劇のヒロイン宜しく膝から崩れ落ちた。
先程までのか弱きヒロインは何処へやら。奴の家へと乗り込む今の心境は拐われた姫を救出する為、魔王に挑む勇者。
…ここを訪れるのも随分久し振りだ…。深呼吸をして、小さく震える指でインターホンを押す。
『―はぁーい。…あら、未央ちゃん?ちょっと待ってね』
開かれた魔王城の扉から顔を出したのは司の姉、詩織さんだった。
艶やかな黒髪に、司を柔らかくして可愛らしさをプラスした様な整った面差し。華奢で線が細い身体も出るとこは出ていて、フェミニンなファッションが嫌味なく似合う可憐な女性。
そんな見た目に違わず、優しくてホンワカとした彼女は、暫く顔を合わせていなかった私を歓迎してくれた。
「きゃー、本当に未央ちゃんだ!すっごく久し振りだね。見ない間に可愛くなったね!」
「冗談キツイですよ。詩織さん…」
…マジすか? 寝間着兼、部屋着にパーカーを羽織って、寝癖のついた前髪は小さなクリップで留めて誤魔化す。おまけに顔さえ洗っていないこの私にどうしてそんな感想が抱けるのか…。
“可愛い”って言うのは、本当なのに……と、頬を膨らませ口を尖らせる子供っぽい仕草すら似合ってしまうあなたの様な人の事を言うのですよ…。
「…ところで、司は居ますか?」
同じ女性として天と地の差がある詩織さんと可愛い可愛くないの押し問答をしていても始まらない。
虚しさに押し潰される前にさっさと用事を済ませてしまおうと話題を変える。
「司なら、今出ていて居ないけど。もう少ししたら戻るんじゃないかな…何かあった?」
「大した用じゃないんです。貸してた物を返してもらおうかと思って来たんですけど…」
何てタイミングの悪い…。本来なら直接尋ねる前に連絡でもすれば良かったんだろうけど…。如何せん私は奴の連絡先を知らない。…って言うか、お互いそんなもん交換したことがない。
それは『必要性を感じない』が共通の認識だったりする。
「それなら勝手に上がって持って行ったらいいわよ。司には私から伝えておくから」
「えぇっ…イヤ~さすがにそれは…」
「直接家に来たって事は大事な物なんでしょう?」
…いいえ。確かに大事な物で早く取り返したくはありますが、他に方法が無かっただけで…。
「昔は良く遊びに来てたじゃない。ほら、遠慮しないでどうぞ…」
――昔…確かにそう多くはないけど、ゲームや本の貸し借りでお邪魔する事はあった。
…そのせいで今は全く寄り付かなくなってしまったのだけれど…。
満面の笑みで迎えてくれる詩織さんに対して私の笑顔は引きつっていただろう……。