表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

太郎くん

作者: vectorcc

 初投稿になります。vectorccと申します。稚拙な文で、読みづらいとこがあるかもございませんが、ご了承ください。いろいろ指摘とか感想とかしていただけたら嬉しいです。

 では、小説の世界へどうぞ。

彼は純粋なペテン師だ。

彼はよく話を捏造する。近頃聞いた話では、彼のお父さんは総理大臣らしい。

また、彼はよく約束を破る。事実、「明日遊びに行こう」と言われても、50%ぐらいの確率で、次の日、僕は家でゴロゴロしている。

そんな彼を僕は書き記していきたい。


新しい芽たちが、一花咲かせようと集ってくるのをよそ目に、役目を終えた桜が散っていく季節、ぼくも一花咲かせようと、この学校にやってきた。新しい校舎、新しい先生、新しいクラスメート、新しい椅子、その全てに僕は高揚し、3年間の楽しい学園生活に空想にふけった。想像通りにいくはずだった。そう、彼がいなければ。

 僕の学校は、極めて普通の学校だった。他校に誇れるところといえば、校長の声がすごく綺麗で、集会が退屈ではないこと、それぐらい普通の学校だった。そんな学校になぜあんな奴がいたのか、今思えば極めて不可解だ。

彼の第一印象は、

 「眩しい。」

その一言に尽きた。彼はいつも輪の中心にいた。彼の話す一言一言はユーモアに溢れていて、彼の身振り一つ一つは非常に魅力的だった。「仲良くなりたい」。僕は自分のプライドの高さゆえに、興味ない素振りをみせながら、胸にそんなことを秘めていた。

初めての席替え、彼は偶然、僕の真ん前になった。彼は非常に社交的な人物で、すぐに打ち解けて仲良くなることができた。彼は授業中いつも後ろを向いてちょっかいをかけてくるので、先生は、

 「おいそこ、イチャイチャするな。」

と言っていた。周りは笑っていた。彼も笑っていた。悪い気はしなかった。次第に僕は彼を親友といえるほどの存在にしていた。特別遊びまわったり、深い話をしたわけではない。しかし、なぜか、それほどまでに彼を信頼していた。しかし僕は気づいていた。彼にとって僕は、たくさんの友達の中の一人なんだと。でも僕はそれでよかった。

彼は女にも男にも相当モテた。(僕も例外ではなく。)しかし、彼は、女好きでも、ゲイでも、バイセクシャルでもなかった。この壮絶な競争を、余裕もって見ることができる人はいなかった。(少なくとも僕の把握する限りでは。)しかし冷ややかな目で見ている者が一人いた。頭脳明晰で、目つきが悪くて、一見なんの良心も持ち合わせていないように見える、ヒロコという女だ。僕はヒロコのことを、人の魅力がわからないやつだと軽視していた。

ある日事件がおきた。ヒロコの教科書が紛失した。

 「しっかり自己管理しろよ。」

そういって先生は彼女に教科書を貸し出した。僕は(おそらくみんなも)、意外におっちょこちょいなんだ、ぐらいにしか思っていなかった。彼女は、キョロキョロしていた。

 その帰り道(彼と僕は家が近いことがわかったので一緒に帰ることになった)彼は、

「山田さん(ヒロコの苗字)って不器用で面白いよね。機会があったら仲良くなりたいな。」

と言ってきた。僕は、まだ「嫌な奴」ぐらいにしか思っていなかったので、彼のその考え方によってますます彼に対する信仰が強くなっていった。

 彼はよく自慢話をする。しかも前述したように話を捏造する。しかし僕はそれをユーモアたっぷりのジョークぐらいにしか捉えていなかった。ある日、彼はこんなことを言っていた。

 「俺、中学んときに模試で全国一位とったことあるんだぜ。」

確かに彼は頭がいい。なぜこんな学校にいるのかと思うほどに。しかしそれはないだろう。周りの取り巻きたちも笑っていた。しかしヒロコが割って入ってきて言い放った、

「あんた嘘つかないでよ。」

お前には冗談が通じないのか!その瞬間、僕は、ヒロコを激しく軽蔑した。わかっていなかった。そして僕は彼の鋭いジョークを期待した。現実は違った。彼は明らかに同様して、

 「あっ、そ、そうだな。」

と言いその場をあとにした。ヒロコは満足気にその場を去った。今までの彼から考えるとありえない出来事だった。あんなに頭の回転が早い彼が、なんのユーモアも加えず返事するなんて。

後日、また事件がおきた。ヒロコの教科書がまた紛失したというのだ。しかし今回は前回とは違った。先生によると犯人がわかっているらしい。犯人が呼び出された。クラスのほとんどが耳を疑った。

 「僕がやりました。ごめんなさい。」

犯人は言った。しかし信者たちは、教祖様の過ちを断固として認めなかった。認めたくなかった。ヒロコは、翌日から虐められるようになった。

 日が経つにつれ、信仰は少しだけ薄まっていった。彼は平気で人をぱしり、金を借りる。(かえってこない。)最初の方は彼の個性として認めらていたが、慣れてくると鬱陶しく感じるようになってきたのだ。その頃には、ヒロコへの虐めはほとんど無くなっていた。しかし、信仰は薄まっても信頼は濃くなっていた。魅力的な人から、身近な人になったとみんな認識していた。欠点がある人のほうが身近に感じやすいのだと思う。

 その日は急に訪れた。今年度最大級の事件だ。ヒロコの机に「死ね」と、鮮やかな赤色で書かれていた。ヒロコは、ここぞとばかりにニヤニヤしていた。犯人はわからなく、証拠も無かった。しかし犯人候補には、必然と一人の名前が挙がった。前事件の言葉を認めはしなかったが、誰も否定する自信がなかった。

 「僕がやりました。ごめんなさい。」

彼は言った。誰もなにも反応しなかった。先生は、

 「なんでそんなことしたの?」

と聞き返した。

 「え、冗談ですよ。冗談。」

と笑みを浮かべながら返す。誰も笑わなかった。冗談であってあってほしいと、クラスのほとんどが願った。しかしわからなかった。ヒロコは彼の目を凝視していた。

 「僕がやりました。」

今度ははっきりと言った。予想できない展開ではなかったが、誰もがあっけにとられた。ただ一人ヒロコを除いて。彼は勝手に語り始めた。

 「みんなが僕に注目して、僕の思い通りに動いたのに、ヒロコは違った。自分の言いなりに決してならないから、そのことがどれだけ不幸なことか思い知らせてやりたかった。」

意味がわからなかった。いままでの言動全てが偽りだったのか?それは違う。僕達が勝手に彼に魅了されてただけだった。彼は純粋だった。純粋に自分の人格に従った。彼に対して深く絶望し、己の愚かさを恨んだ。ヒロコは気付いていたんだ。彼が自慢する本当の理由を。彼の魅力の危うさを。ヒロコは平然と聞いていた。

 その後、彼は2ヶ月ほど不登校になったが、また学校に来た。やつれていた。みんなの対応はひどく変わっていた。信仰から対等に変わった。そして何事もなかったように、僕は、彼と下校した。

 「太郎くん。」

初めて名前を呼ばれた。やっと双方向な関係になった気がして嬉しかった。

 「彼」というあえて固有名詞を使わない表現を選ばせていただきました。人を表す彼なのか、人称代名詞の彼なのかが、読みづらかったかもしれませんが、こだわりですのでご了承ください。

 ピンときた人もいるかもしれませんが、「自己愛性人格障害」というのをテーマで書いていました。

 最後までお読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ